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第十三部・イタリア 編

あなた基準の〝カジュアル〟が分かりません

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『誕生日おめでとう、香澄。蠍座の星座石の一つ、ロードライトガーネットです。それほど高価な石ではないので気にしないで。普段使いにいいと思うので、カジュアルに使ってください。』

 佑の綺麗な文字を目で追ったあと、香澄は「はぁー……」と溜め息をつく。

「……あなた基準の〝カジュアル〟が分かりません……」

 せめてもう少し小さいサイズなら、プチジュエリーとして楽しめたかもしれない。
 だがこの大きさは……と少し及び腰になる。

「つ、次いってみようか。本が七冊だったから、これで九……」

「できれば本ぐらいの値段で済んでほしい」と、いよいよ不安になってくる。

「あ、ここにも」

 三階の洗面所に入ると、やはりここにも馴染みのショッパーがあった。

「ジョルダン……」

 がくう……と項垂れて床に膝をついた香澄は、泣きそうになりながら紙袋の中から箱を出した。

 ロゴのついた箱を開けると、お馴染みのピンクソールのハイヒールが入っていた。
 シンプルな黒いハイヒールで、ヒールもそれほど高くない。

「これなら……。履けるかもだけど……」

 試しに足を入れてみると、恐ろしいくらいピッタリだ。

「もおお……。これでも確か十万円弱はしたはず……」

 溜め息をつき、香澄は三階でゲットした物をまた私室に運んだ。

「私の部屋に置いてないって事はないよね? ……でもなんか怖いから、最後にしよう」

 真顔で言い、今度は二階の捜索を始める。

 気分的に佑が不在の時に彼の部屋に入るのは、何となく気が引ける。
 佑もそれを分かっていると思うので、彼の部屋は探さなかった。

「寝室、もっかい探してみよっか」

 それでも二人で寝ている寝室は別だと思ったので、初めの部屋に戻る。

 きょろり……と十五畳近くある寝室内を見回し、「ん?」と目を瞬かせる。

 本棚の中にラッピングされた何かが挟まっている。

「なんだろ? 薄い……」

 手に取ってみて、その重さと薄さに何となく嫌な予感がした。

「ま……さか」

 ラッピングを解いて目に入ったのは、見慣れたコスモス・レイン社の英知の実――リンゴのマークだ。

「……最新モデル……」

 中から出て来たのは、コスモス・レイン社のタブレットの最新モデルだ。

「もがあああああ……」

 一番大きなインチの、最大容量のものかもしれない。

「……ミニプレゼントって言わない……」

 心の底から溜め息をつき、香澄はタブレットを箱に戻した。

 そして部屋の窓際にもう一つ小さな箱があるのを見つけ、溜め息をつきつつ手に取る。

「なんだろ」

 ラッピングを開けると、箱があった。
 パカリと開くと、黒い革ベルトの腕時計だ。

「……シンプルで使いやすそう……だけど……」

 もうここまでくると、不審な目でしか見られない。

 香澄はまだ、佑ほど様々なブランドを知らない。
 ロラックスほどの知名度なら分かるのだが、通好みのブランドとなるとまったく知識がない。

 佑の事なので、しれっと高額な物を混ぜている可能性もある。
 実際それは当たっていて、彼女は今、ジョガー・ログルトの二百五十万ほどする腕時計を手にしている。豚に真珠、うさぎにダイヤ。

「……か、考えないようにしよう」

 そう呟いて、香澄は腕時計を〝ないない〟した。

 自分の私室とウォークインクローゼットは最後にし、二階のバスルームを覗いてみた。

「ん?」

 今度はやや大きめの包みだ。大きめの箱のラッピングを開けながら呟く。

「これは……服だな……」

 意を決して『マックス・ミューラー』と書かれてある箱を開くと、グレーのジャケットが目に飛び込んだ。

「ん」

 カッチリとしたそのジャケットは、仕事で使えそうだ。
 一緒にパンツ、スカート、シャツも数枚入っていて確かにありがたい。

 ありがたい……が。

「……ジャケット一着で確か二十万近く。パンツもスカートもそれぞれ十万近く。何気ない白シャツに見えるこれも……七、八万はしたはず」

 憧れて公式サイトを見た事があるので、大体の値段は覚えている。

 もしかしたらサイトを見ていたのを、後ろから見られていたかもしれない。

「う、うー……。きちんと働きます……社長……」

 うなだれて呟き、香澄は服を回収して私室に置いた。
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