833 / 1,549
第十三部・イタリア 編
宝探し開始
しおりを挟む
「良かった。私、一人暮らししていた時、結構ずぼら飯だったんです」
こぢんまりとした賃貸マンションを思いだし、香澄は札幌時代を懐かしむ。
「SNS映えを否定する訳ではありませんが、誰かに見せる事を意識した料理って、自分一人だと気持ちをキープするのが難しいですよね。よほど意識を高く持っていなければ、見た目を気にして差し色を使うとか、添え物の香草を買うとか、なかなかできないと思います」
「ですよねぇ……」
いい感じに混ざった卵ご飯を一口食べ、香澄は頬を緩める。
「私がお食事を作らせて頂いている時、見た目が綺麗になるようにしているのは、仕事だからです。レストランで働いていた時と同じように、お客様が満足してくださる物を全力で作らせて頂いています。ですが家に帰って家族のために食事を……となると、冷蔵庫にある物を組み合わせた家庭料理になります。夫や子供に言われたら買うかもしれませんが、毎日のようにパセリとかつけませんもの」
プロに同意され、香澄は安堵する。
「ですねぇ。私、斎藤さんにお料理を習うようになって、細かい所まで気を遣うようになりました。でも一人の時に何か……ってなったら、面倒だからカップ麺食べちゃいますし、作ってもジャフォ映えするようなご飯にはなりません」
笑いながら食事を進め、料理にも〝内〟と〝外〟があると実感する。
「老婆心ながら、今は結婚前ですし、御劔さんに気を遣う事が多いと思います。ですが結婚されたあとはお子さんの事もありますし、忙しい時は私に頼ってくださいね。赤松さんは色んな事を頑張ろうとしますが、目に見えるすべてに手を出そうとしているようで、少し心配なんです」
香澄は煮物のちぎりこんにゃくを咀嚼して、首を傾げる。
「そう見えますか?」
「自覚がないのでしょうね。私なら、自宅で『最低限食事だけはちゃんとすればいいや』って思います。洗濯や掃除は夫がしてくれますし、帰りが遅い時は子供たちも協力してくれます。女性として魅力的に見えるように……というのは、もう結婚していますし、最低限整っていればいいやと思います。体型もストイックに搾ろうと思いません。赤松さんは料理を覚え、その他の家事も仕事も頑張り、美容にも気を遣ってジョギングやトレーニングをして……、と、ただ『凄いな』としか思えません」
「……そう……ですか?」
香澄は「そんなに頑張ってるかなぁ?」と首を捻る。
「御劔さんとの恋は色々あれど順調で、毎日とてもやりがいがあるのだと思います。でも一番大切なのは、結婚したあとも夫婦関係を良好に築いていく事だと思います。そのためには、赤松さんが心身共に健康である必要があります。……だから、ちょっと疲れたと思った時は、迷わず休んでくださいね。そのために私がいるんですから」
斎藤の気遣いにホッ……と胸が温かくなる。
「はい、ありがとうございます」
そのあとも斎藤と話し、食事を終えると歯磨きをして、いざ『ミニプレゼント探し』を始めた。
後片付けは斎藤に任せ、まず最上階から攻めていく事にした。
屋根裏まで行くと、「あ」と声をだす。
そこにはよく見慣れたクリーム色の紙袋があった。
「ジョン・アルクールだ」
お馴染みのクリーム色のショッパーがあり、香澄はワクワクして黒いリボンを引っ張る。
黒い薄葉紙に包まれた商品を出すと、フワッとライムバジル&マンダリンの香りがした。
これはいつも、店舗で買い物をするとスタイリストが吹きかけてくれる香りだ。
薄葉紙を開くと正方形のギフトボックスがあり、リボンを解く。
「んー……。さすが」
中にはヘビーユーズしているネクタリンの、ボディクリームとハンド&ボディウォッシュが入っていた。
「毎日使うから、幾らあっても困らないんだよなぁ……。ありがとう、佑さん」
これだけでも結構値段がするので、「一体総額幾らだろう?」と不安になる。
プレゼントをとりあえず二階の私室に運んだあと、今度は三階を調べる。
三階の空き部屋には、香澄が以前「興味がある」と言っていた分野――宝石や花、紅茶やコーヒー、ワインなどの、フルカラーの写真と解説がある大型本があった。
さらに三階のリビングのテーブルには小さな箱がある。
「これは何だろう?」
ラッピングを取ると、リングケースが入っていてドキッとした。
おそるおそる開くと、大粒の赤い宝石がついた指輪がある。
「す……ごぉ……! ちっとも〝ミニ〟じゃない!」
試しに指に嵌めてみたが、ミニなんて言えない大きな石でビビってしまう。
「赤いからルビーかな? ……いや」
その時カードに気付き、小さな封筒をカサリと開く。
こぢんまりとした賃貸マンションを思いだし、香澄は札幌時代を懐かしむ。
「SNS映えを否定する訳ではありませんが、誰かに見せる事を意識した料理って、自分一人だと気持ちをキープするのが難しいですよね。よほど意識を高く持っていなければ、見た目を気にして差し色を使うとか、添え物の香草を買うとか、なかなかできないと思います」
「ですよねぇ……」
いい感じに混ざった卵ご飯を一口食べ、香澄は頬を緩める。
「私がお食事を作らせて頂いている時、見た目が綺麗になるようにしているのは、仕事だからです。レストランで働いていた時と同じように、お客様が満足してくださる物を全力で作らせて頂いています。ですが家に帰って家族のために食事を……となると、冷蔵庫にある物を組み合わせた家庭料理になります。夫や子供に言われたら買うかもしれませんが、毎日のようにパセリとかつけませんもの」
プロに同意され、香澄は安堵する。
「ですねぇ。私、斎藤さんにお料理を習うようになって、細かい所まで気を遣うようになりました。でも一人の時に何か……ってなったら、面倒だからカップ麺食べちゃいますし、作ってもジャフォ映えするようなご飯にはなりません」
笑いながら食事を進め、料理にも〝内〟と〝外〟があると実感する。
「老婆心ながら、今は結婚前ですし、御劔さんに気を遣う事が多いと思います。ですが結婚されたあとはお子さんの事もありますし、忙しい時は私に頼ってくださいね。赤松さんは色んな事を頑張ろうとしますが、目に見えるすべてに手を出そうとしているようで、少し心配なんです」
香澄は煮物のちぎりこんにゃくを咀嚼して、首を傾げる。
「そう見えますか?」
「自覚がないのでしょうね。私なら、自宅で『最低限食事だけはちゃんとすればいいや』って思います。洗濯や掃除は夫がしてくれますし、帰りが遅い時は子供たちも協力してくれます。女性として魅力的に見えるように……というのは、もう結婚していますし、最低限整っていればいいやと思います。体型もストイックに搾ろうと思いません。赤松さんは料理を覚え、その他の家事も仕事も頑張り、美容にも気を遣ってジョギングやトレーニングをして……、と、ただ『凄いな』としか思えません」
「……そう……ですか?」
香澄は「そんなに頑張ってるかなぁ?」と首を捻る。
「御劔さんとの恋は色々あれど順調で、毎日とてもやりがいがあるのだと思います。でも一番大切なのは、結婚したあとも夫婦関係を良好に築いていく事だと思います。そのためには、赤松さんが心身共に健康である必要があります。……だから、ちょっと疲れたと思った時は、迷わず休んでくださいね。そのために私がいるんですから」
斎藤の気遣いにホッ……と胸が温かくなる。
「はい、ありがとうございます」
そのあとも斎藤と話し、食事を終えると歯磨きをして、いざ『ミニプレゼント探し』を始めた。
後片付けは斎藤に任せ、まず最上階から攻めていく事にした。
屋根裏まで行くと、「あ」と声をだす。
そこにはよく見慣れたクリーム色の紙袋があった。
「ジョン・アルクールだ」
お馴染みのクリーム色のショッパーがあり、香澄はワクワクして黒いリボンを引っ張る。
黒い薄葉紙に包まれた商品を出すと、フワッとライムバジル&マンダリンの香りがした。
これはいつも、店舗で買い物をするとスタイリストが吹きかけてくれる香りだ。
薄葉紙を開くと正方形のギフトボックスがあり、リボンを解く。
「んー……。さすが」
中にはヘビーユーズしているネクタリンの、ボディクリームとハンド&ボディウォッシュが入っていた。
「毎日使うから、幾らあっても困らないんだよなぁ……。ありがとう、佑さん」
これだけでも結構値段がするので、「一体総額幾らだろう?」と不安になる。
プレゼントをとりあえず二階の私室に運んだあと、今度は三階を調べる。
三階の空き部屋には、香澄が以前「興味がある」と言っていた分野――宝石や花、紅茶やコーヒー、ワインなどの、フルカラーの写真と解説がある大型本があった。
さらに三階のリビングのテーブルには小さな箱がある。
「これは何だろう?」
ラッピングを取ると、リングケースが入っていてドキッとした。
おそるおそる開くと、大粒の赤い宝石がついた指輪がある。
「す……ごぉ……! ちっとも〝ミニ〟じゃない!」
試しに指に嵌めてみたが、ミニなんて言えない大きな石でビビってしまう。
「赤いからルビーかな? ……いや」
その時カードに気付き、小さな封筒をカサリと開く。
23
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる