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第十三部・イタリア 編

宝探し開始

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「良かった。私、一人暮らししていた時、結構ずぼら飯だったんです」

 こぢんまりとした賃貸マンションを思いだし、香澄は札幌時代を懐かしむ。

「SNS映えを否定する訳ではありませんが、誰かに見せる事を意識した料理って、自分一人だと気持ちをキープするのが難しいですよね。よほど意識を高く持っていなければ、見た目を気にして差し色を使うとか、添え物の香草を買うとか、なかなかできないと思います」

「ですよねぇ……」

 いい感じに混ざった卵ご飯を一口食べ、香澄は頬を緩める。

「私がお食事を作らせて頂いている時、見た目が綺麗になるようにしているのは、仕事だからです。レストランで働いていた時と同じように、お客様が満足してくださる物を全力で作らせて頂いています。ですが家に帰って家族のために食事を……となると、冷蔵庫にある物を組み合わせた家庭料理になります。夫や子供に言われたら買うかもしれませんが、毎日のようにパセリとかつけませんもの」

 プロに同意され、香澄は安堵する。

「ですねぇ。私、斎藤さんにお料理を習うようになって、細かい所まで気を遣うようになりました。でも一人の時に何か……ってなったら、面倒だからカップ麺食べちゃいますし、作ってもジャフォ映えするようなご飯にはなりません」

 笑いながら食事を進め、料理にも〝内〟と〝外〟があると実感する。

「老婆心ながら、今は結婚前ですし、御劔さんに気を遣う事が多いと思います。ですが結婚されたあとはお子さんの事もありますし、忙しい時は私に頼ってくださいね。赤松さんは色んな事を頑張ろうとしますが、目に見えるすべてに手を出そうとしているようで、少し心配なんです」

 香澄は煮物のちぎりこんにゃくを咀嚼して、首を傾げる。

「そう見えますか?」

「自覚がないのでしょうね。私なら、自宅で『最低限食事だけはちゃんとすればいいや』って思います。洗濯や掃除は夫がしてくれますし、帰りが遅い時は子供たちも協力してくれます。女性として魅力的に見えるように……というのは、もう結婚していますし、最低限整っていればいいやと思います。体型もストイックに搾ろうと思いません。赤松さんは料理を覚え、その他の家事も仕事も頑張り、美容にも気を遣ってジョギングやトレーニングをして……、と、ただ『凄いな』としか思えません」

「……そう……ですか?」

 香澄は「そんなに頑張ってるかなぁ?」と首を捻る。

「御劔さんとの恋は色々あれど順調で、毎日とてもやりがいがあるのだと思います。でも一番大切なのは、結婚したあとも夫婦関係を良好に築いていく事だと思います。そのためには、赤松さんが心身共に健康である必要があります。……だから、ちょっと疲れたと思った時は、迷わず休んでくださいね。そのために私がいるんですから」

 斎藤の気遣いにホッ……と胸が温かくなる。

「はい、ありがとうございます」

 そのあとも斎藤と話し、食事を終えると歯磨きをして、いざ『ミニプレゼント探し』を始めた。





 後片付けは斎藤に任せ、まず最上階から攻めていく事にした。

 屋根裏まで行くと、「あ」と声をだす。

 そこにはよく見慣れたクリーム色の紙袋があった。

「ジョン・アルクールだ」

 お馴染みのクリーム色のショッパーがあり、香澄はワクワクして黒いリボンを引っ張る。

 黒い薄葉紙に包まれた商品を出すと、フワッとライムバジル&マンダリンの香りがした。
 これはいつも、店舗で買い物をするとスタイリストが吹きかけてくれる香りだ。

 薄葉紙を開くと正方形のギフトボックスがあり、リボンを解く。

「んー……。さすが」

 中にはヘビーユーズしているネクタリンの、ボディクリームとハンド&ボディウォッシュが入っていた。

「毎日使うから、幾らあっても困らないんだよなぁ……。ありがとう、佑さん」

 これだけでも結構値段がするので、「一体総額幾らだろう?」と不安になる。

 プレゼントをとりあえず二階の私室に運んだあと、今度は三階を調べる。

 三階の空き部屋には、香澄が以前「興味がある」と言っていた分野――宝石や花、紅茶やコーヒー、ワインなどの、フルカラーの写真と解説がある大型本があった。

 さらに三階のリビングのテーブルには小さな箱がある。

「これは何だろう?」

 ラッピングを取ると、リングケースが入っていてドキッとした。
 おそるおそる開くと、大粒の赤い宝石がついた指輪がある。

「す……ごぉ……! ちっとも〝ミニ〟じゃない!」

 試しに指に嵌めてみたが、ミニなんて言えない大きな石でビビってしまう。

「赤いからルビーかな? ……いや」

 その時カードに気付き、小さな封筒をカサリと開く。
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