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第十三部・イタリア 編

目覚めると、バラ

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「ん……」

 目が覚めると、やはり隣に佑の気配はない。

(平日だもんね。仕方がないか……。というか、いい加減、朝ちゃんと起きて送りださないと)

 時差ボケは治りつつあるが、日本時間の生活リズムを送っているとは言いがたい。

(何かいい匂いする。なんだろう……。お花かな。佑さんコロン変えたのかな)

 室内はうっとりするような花の香りに包まれている。
 昨日、花の香りのコロンやボディクリームを使った覚えはないので、朝に佑が新しいリネン用スプレーを使ったかもしれない。

(起きよう……)

 もそ……と羽根布団を押しのけて起き上がり、香澄は目をまん丸にした。

「何これぇ……!?」

 寝室は、何本あるか分からないバラに埋め尽くされていた。

 よく見ると床の上に花瓶があり、それに何本ものバラが生けられ、花瓶が幾つも並んでいる……、という図なのだが、如何せんバラの本数が凄まじい。

「わぁーお……」

 ただの誕生日でこれなら、結婚式の時は何をされるのだろう? と今から少し怖い。

 バラは赤一色だけではなく、深紅やピンク、白に薄いグリーンなど、あらゆる色でグラデーションが作られている。

「どれだけお金掛かったのかなぁ、もう……」

 思わず文句を言いつつも、香澄は佑の愛情の深さに笑っていた。

 それはそうと、ひとまず手洗いに行く事にし、花瓶を蹴飛ばさないように慎重に歩いていく。

「ん?」

 トイレに入って便座に座ると、トイレットペーパーなどが入っている横の棚の上にカードがある。

『この空間にミニプレゼントが一つあります。ミニプレゼントは全部で家の中に二十八個あります。今日、帰宅して食事に行くまでにすべて探してみてください』

「えええ? 何これ! 宝探し?」

 香澄は思わず笑い、トイレの物入れを開けてみる。

 すると予備のトイレットペーパーに紛れて封筒を見つけた。

「これかな?」

 ワクワクして封筒を開けてみると、コーヒーショップ『サンアドバンス』のカードが入っていた。

「わあ、当分フラペチーノを飲むのに困らなさそう。……佑さんの事だから、えぐい金額を登録してるんだろうな……」

 香澄はそう言って笑う

 ひとまず用足しを終え、私室にカードを置きがてら、どこにミニプレゼントが隠されているのか考えてワクワクする。

「いつ仕込んだのかな? 昨晩私が寝たあとなら、二十八個もプレゼント仕込んでこのバラを用意するって……寝てないんじゃないのかな」

 寝間着を脱いでから、靴下を履いた上にレギンスを穿き、その上にワンピースをスポッと被った。

「よし! ご飯を食べて宝探し始めましょうか!」

 なにせ地下一階から地上三階、屋根裏まであるので、隠しがいがあっただろう。

 リビングに下りて斎藤に「バラまみれなんです!」と伝えると、「ですねぇ」と笑われる。
 一階にもふんだんに花が飾られてあった。

「幸せですね」

「そうですね。こんな大がかりな祝い方をしてくれる人って、そういないと思います」

 ひとまず朝食をとる事にし、斎藤の支度を手伝う。

「今日、目玉焼きでご飯食べていいですか?」

「ええ、もちろん。焼き魚はいらないですか?」

「はい」

 斎藤が味噌汁を温めて、酢の物を小鉢に盛り……としている間、香澄は自分で手早く目玉焼きを作ってしまう。

 ダイニングテーブルの上に香澄の朝食が並び、醤油を持って椅子に座った香澄は一人で「いただきます」を言う。

 香澄が一人で食事をする時は、いつも斎藤が話し相手になってくれる。

 と言っても、あまり食べながら話せないので、斎藤が今朝の佑の様子を教えてくれたり、今日の天気や昼食、夕食の予定などを話す感じだ。

「私、こうやって目玉焼きの黄身だけ切り取って、ご飯にのせてお醤油かけて卵ご飯にするの好きなんですけど、変ですか? ちなみに残った白身にお醤油かけて食べるのは、もっと大好きなんです」

 言いながら、香澄は箸で目玉焼きの黄身だけを切り、白米の上にポトンと落とす。
 半熟の黄身を潰して中身をトロッと出し、醤油をかけてご飯全体が黄色くなるまで混ぜる。

「TKGは立派な食べ物ジャンルですし、どう食べてもいいと思いますよ。外でなら多少のマナーはあるかもしれませんが、家の中でなら自由です。自分が美味しいように食べるのが一番です。私の息子なんて、インスタントラーメンを鍋のまま食べてますね」

 斎藤の言葉に、香澄は笑う。
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