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第十三部・イタリア 編

祖父との電話

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「香澄が俺を守らなくていいんだ。それは護衛の仕事だし、クレーム対応はそれぞれの担当者、酷ければ弁護士に任せる。香澄はプライベートでの精神的な支えになってくれたらいい。適材適所。いいね?」

「……うん」

 何でも背負い込もうとする癖を抑え、香澄は頷く。

「そろそろご飯ができますよ」

 少し深刻になった空気を、斎藤の明るい声が遮った。

「あ、はぁい! お手伝いします!」

 せめて皿を運んだりするぐらいは、と思い、香澄は立ち上がってキッチンに向かった。
 佑も一緒にダイニングテーブルを台布巾で拭き、香澄と一緒にキッチン台の上に並んだ皿を運んでいく。

「美味しそう! やっぱりオムライスはこの形じゃないと」

 ラグビーボールに似た形を見て香澄が頬を綻ばせ、いつものようにランチョンマットの上に並んだ食事をスマホで撮影する。

「デザートはシャインマスカットでゼリーを作りましたから、食後にお出ししますね」

「贅沢!」

 それから佑と一緒にテーブルにつき、二人で「頂きます」を言って食事を始めた。



**



 その夜、佑は風呂に入ったあと、香澄がいるリビングに戻らず二階の書斎で電話を掛けていた。

『もしもし、佑か?』

「ああ、オーパ。昼休憩が終わる時間にすまない」

『いや、構わない。どうかしたか?』

 祖父の声に、佑は一つ息を吸ってから要件をズバリと切り出す。

「香澄に海外から不審な電話がきた。エミリアはその後ガブリエルのもとから動いていないから、彼女ではない。だが俺もどこで恨みを買っているか分からないから、オーパの方でも何か不審な情報を手に入れたらすぐ教えてほしい」

『エミリアの件は確かなのか?』

「ああ、真っ先にガブリエルに連絡をした。エミリアは軟禁状態で外部に連絡できる状況にない。それは安心してほしいと言われた」

『分かった。どの辺りまで事情を話しても大丈夫だ?』

「一族は信頼している。口が固いかどうかは疑わしいが、アロクラも香澄の身の安全が関われば、もう軽率な事はしないだろう。マティアスも無理のない範囲で利用する」

『分かった』

「マティアスはその後どうしてる?」

『うちの空いた部屋に住まわせて、秘書のような事をさせている。外に出るにも護衛付きだが、アロクラも頻繁に顔を出しているしそれほどストレスは溜まっていないだろう。フランクがいつまでマティアスを恨むかは分からないが、探偵たちの話では、不審な人物を見かける事も少なくなったようだ。なので今年いっぱい……余裕を持たせて来年の春ぐらいには、自由に出歩ける予定だ』

「そうか、分かった」

『それはそうと、フィオーレ社のマルコから連絡が来たぞ。随分世話になったようだな』

「ローマではいい息抜きになった。俺が穏やかな気持ちになれたのは、マルコやルカのお陰だ」

 微笑んで言うと、アドラーは少し拗ねたようだ。

『いざという時は私の方が頼りになるからな?』

「はいはい」

 こういう時だけ〝お爺ちゃん〟ぶるアドラーに苦笑いをし、不意にバルセロナでの事を思いだした。

「オーパ、スペインの海運会社と言ったらアベラルドしかないよな?」

『スペインの……か。そうだな。世界中、大きい海運会社は多くないが、ヨーロッパではドイツ、フランス、イギリスが強く、スペインで……となれば私もその一社しか思い当たらない』

「俺もそう思ったんだが、〝彼女〟……。オーパがいつだったか俺の婚約者にと勝手に決めたジェシカ。彼女のフェザーストン家は海運もやっているだろう? その繋がりのパーティーに出た時の事を覚えているが、スペインの海運はアベラルドしか聞いていない気がした」

 勝手に決められかけた婚約者の名前を思いだし、佑は溜め息混じりに言う。

『確かにそうだな。だがおかしいな。現在アベラルドのCEOと言えばエミリオのはずだが……』

「だよな。俺もサイトを確認したが、名前が違う。……だが顔はとても似ているらしくて……。偽名か……?」

『どうかしたのか?』

 探るようなアドラーの声に、佑はまた溜め息をつく。
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