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第十三部・イタリア 編

久しぶりの〝いつもの朝〟

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「……この密かなコレクションを知られたら、引かれるかな」

 自分でも怖いと分かっているのだが、好きな人が自分に書いてくれたメッセージはすべて取っておきたい。

「なので、秘密なのです」

 呟いてアルバムを引き出しにしまうと、洗面所に向かって朝の準備をした。



**




「おはようございます」

 リビングに下りると斎藤が挨拶をしてくる。

「おはようございます。佑さんが出社した後なのに、珍しいですね」

 斎藤は多くて日に三度の食事と間食を作りに来ているが、御劔邸に来ても仕事がない時は離れにいる事が多い。

「赤松さんが起きる頃合いで、温かい食事を出してほしいと御劔さんからのご要望です」

「ありがとうございます」

 香澄が下りてくる気配を察して、斎藤はもうキッチンに立っていた。
 味噌汁を温め、冷蔵庫から塩鮭を取り出す。

「スムージーも作りますね」

「ありがとうございます」

 香澄はキッチンにお邪魔し、ウォーターサーバーから白湯を汲んでマグカップでちびちび飲む。

 材料を切る音を聞きながら、香澄はスムージーをすぐ受け取れるようにキッチンに立ち、コットンパンツのポケットからスマホを取りだした。

 ちなみに今日は特に出掛ける用事もないので、コットンパンツに長袖Tシャツというカジュアルな格好だ。

(特に変わった連絡はないかな。今日は近いうちにお土産を送れるように、まとめたり手紙書いたりしよう)

 スーツケースの整理も、ほとんど終わっている。

 旅行中に出た洗濯物は、ホテルでクリーニングしてもらっていたが、イタリアに行ってからは普通の旅行のように着た物をスーツケースにしまっていた。

 けれどそれらも、香澄が眠っている間に斎藤が洗濯をしてくれ、プロの手が必要な物はクリーニングに出されたようだ。

 とはいえ、佑いわく「ハイブランド系の服はその時の流行もあるし、必要な時に一度着ればあとは廃棄するのが普通」と言われ、勿体ない! と震え上がったのも記憶に新しい。

 余談だが双子からもらったアロクラの服は、着ていくのに困るドレス系もあるが、割と普段に着られそうなカジュアルなアイテムもあり、ありがたく活用している。

 けれど佑は、ACのロゴを見るとあまりいい顔をしない……のが現実である。

 御劔邸の地下には佑の作業場があり、そこにプロ仕様のミシンやトルソーなどが並び、彼がデザインした物を手ずから試作している。

 なぜか香澄は立ち入り禁止になっているのだが、佑は時々そこで服を作っては、香澄に着せてシルエットを確認している。

 佑が使う布は高価な物が多く、さらにCEPの共同デザイナーでもある佑が作った一点物なので、非常に貴重な服だ。

 だが放っておくとどんどん服が増えるので、なるべく箪笥の肥やしにならないように、気を付けて袖を通していた。

「はい、どうぞ」

 斎藤がスムージーを大きめのコップに注いで置いてくれる。

「ありがとうございます」

 お礼を言った香澄は、食事の準備が終わるまでリビングのソファに座る事にした。

「なかなか時差ボケが治らなくて困ります。来週から復帰なのに」

「仕方ありませんよ。ヨーロッパと日本の時差はかなり大きいです。三週間も向こうにいたなら体内時計があちらの時間に合わせているのは当たり前ですし、無理せずゆっくり日本時間に合わせてくださいね」

「うーん、斎藤さん優しい……!」

 香澄は小松菜、バナナ、豆乳のスムージーを飲みつつ、斎藤と何気ないおしゃべりを楽しむ。

「旅行はどうでしたか?」

「凄く良かったです! 建物が全部歴史のある感じで、街並みだけでも雰囲気がありますよね。あとパリのクレープとガレット、美味しかったなぁ……」

 食べ物の話をすると、斎藤が食いついた。

「あら、それでしたら今度おやつに私がクレープとガレットを作りますね。これでもフレンチには自信がありますから」

 斎藤は力こぶを作った二の腕をポンポンと叩き、笑う。

「やったぁ!」

 二人で「あはは!」と笑い合ったあと、香澄は塩鮭が焼ける匂いを嗅いで笑顔になった。



**
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