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第十三部・イタリア 編

自分自身のプライドの問題

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「佑さんと結婚するなら、生活費のために、私も株とか覚えてお金稼げるようになったほうがいいのかな?」

「ふ、……ふふふ……」

 真面目に言ったのだが、佑は肩を揺らして笑いだす。

「え? な、なに?」

「いや、まじめだなって思って。俺が資産を増やしているのは、半分趣味みたいなものだから、香澄は気にしなくていいよ」

「そうなの? ……私、お給料も佑さんからもらってるのに、何だか申し訳なくて」

「いいんだよ。香澄は俺に養われるのは嫌か?」

 ポンポンと頭を撫でられ、人を堕落させる言葉を言われる。

 いつもなら、ここで「自立していたい」と言ったかもしれない。
 けれど北海道に戻った頃あたりから、香澄にも少しずつ気持ちの変化がある。

「……自分の分は頑張るけど、あとは、……お任せします」

「ん、ありがとう」

 少し頑張って言うと、佑が満足げに目を細めた。

「無理してない? 俺は〝言わせて〟ない?」

 顔を覗き込まれ、頭を撫でられたまま香澄は首を左右に振る。

「大丈夫。私、今まで佑さんと〝対等〟になろうとしてたって気づいたの。自分を卑下している訳じゃなくて、私と佑さんは立場や財産、生まれ持ったものとか、色んなものが違う。だから、張り合うっていうか……〝同じ〟であろうと背伸びをするのはちょっと違うって分かった」

「……ん」

 香澄の言葉を、佑は静かに頷いて聞いてくれる。

「佑さんは優しいから、〝差〟みたいなものを指摘しなかった。『俺のほうが稼いでるんだから、稼ぎの少ないお前は黙って養われてろ』みたいな乱暴な言い方もしなかった」

「それ、言ったら人として終わりじゃないか」

 思わず佑が笑う。
 香澄も少し微笑み、自分に言い聞かせるように続きを口にした。

「どうにもならない現実があるのに、私は意地を張って『私だって頑張れば稼げるんだから』って、どこか張り合ってた。……自分が佑さんより〝弱い立場〟で、〝庇護されて当たり前〟と認めるのが悔しかったんだと思う。……佑さんに張り合うっていうか、自分自身のプライドの問題かな」

「うん」

 頭を撫でていた佑の手が香澄の肩にまわり、優しく抱き寄せてくる。

「これからちょっとずつ、佑さんに寄りかかれるようになるね。まだ硬い殻に包まれている部分もあるかもだけど、ゆっくり……」

「ん」

 ご褒美のように佑が香澄の額にキスをし、その温もりと唇の柔らかさが愛しい。
 ひとつ自分の弱さを話してしまうと、安堵で力が抜けてしまった。

「佑さん」

「ん?」

「タブレット弄ったままでいいから、抱っこして」

「いいよ」

 ポンと何のためらいもなくタブレットを置き、佑は香澄を迎える。
 香澄は佑の膝を跨ぎ、向かいから抱きついた。

「ん……。安心する」

 佑の胸板に頬をつけ、香澄は幸せいっぱいに顔をぐりぐりと押しつける。

「香澄」

「ん?」

「あと三日で誕生日だな」

「あ!」

 ちょこちょこ話題には出ていたものの、ヨーロッパ滞在と帰国のバタバタですっかり忘れていた。

「俺はしっかりプランを考えてあるから、楽しみにしていて」

 にっこりと微笑まれ、嬉しいような、何をプレゼントされるのか半分怖いような……で、香澄は中途半端に、にこぉ……と笑い返す。

「ん? 何だ? その顔は」

 ふにふにと頬を摘ままれ、香澄は唇を尖らせる。

「ひゃんれもない」

「本当か? 嘘ついたらキスするぞ」

「んー、……じゃあ、嘘」

 キスしてほしいがためにそう言うと、佑がクシャッと笑った。

「好きだよ」

 抱き締められて優しいキスをされる。

 それから互いに触れ合っては何度もキスを繰り返す、優しい時間になった。



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