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第十三部・イタリア 編

ねぼすけうさぎ

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「っ、……と」

 さすがに少し驚いたようで、香澄は嬉しくなってギュウッと彼を抱き締めた。

「悪いねぼすけうさぎだな」

 佑が香澄の両手を引っ張り、密着度を高める。

「よく眠れたか? 体調は?」

「うん、平気。よいしょ」

 香澄はソファの裏側から背もたれを跨ぎ、佑の隣に座った。

「斎藤さんは? いい匂いの名残がするけど」

「仕込みが終わって、いま離れにいる。呼んだら来てくれて、いつでも作ってもらえるようになってる」

「そっか。……あ、白湯飲もう」

 立ち上がり、香澄はキッチンに向かってウォーターサーバーの白湯を飲む。

 ヨーロッパでは、ミネラルウォーターを飲むにも金がかかる。
 なので日本で気にせず水を飲めるのはありがたい。

 とはいえ、佑が契約しているウォーターサーバーであるが。

「はぁ……」

 ずっとホテル暮らしで、毎朝のルーティンができない日もあった。

 なるべく朝は一番に白湯を飲んで、体を目覚めさせながらストレッチ、そしてジョギングをしてシャワーに入り、出社の準備……というのが理想だった。

 旅行中はずっと自由ではあったものの、護衛についてきてもらう問題や、ジョギングをするにも土地勘がないなどもがあり、何でもできるとは言いがたかった。

 佑には「治安の悪い所に行ってはいけない」と、口を酸っぱくして言われていた。
 土地勘がない状態でジョギングして、迷っては困る。

「こうなったら困る」で何もできないのは考え物だが、香澄は自分のしたい事よりも佑の心の平安を守りたかった。

「斎藤さん、呼ぶか?」

「うん、もうちょっと……。まだ起きたてだから胃が動いてなくて。一時間弱ぐらいしてからでいい?」

「いいよ」

 ゆっくり白湯を飲んだあと、冷蔵庫を開けると昨日飲んだ柑橘の果肉ジュースのストックがあったので、ルンルンしながら手に取る。

 キッチンにある仕込みの終わった物が気になり、鍋の蓋を一つ開けると肉じゃがが入っていた。

 少し蕩けた、ほこっとしたじゃがいもと、高級牛肉をふんだんに使った肉じゃがだ。乱切りにされた人参の彩りも良く、出汁の香りもいい。

「んー」

 思わずにっこりした香澄は、残る鍋のチェックはお楽しみにしようと思い、佑のもとに戻った。

「ふぁ……」

 佑の隣に戻ってまたちゅるちゅるとジュースを飲み、彼が手にしているタブレットを覗き込む。

「株?」

「ああ」

 香澄は安くなったら買って、高くなったら売るぐらいしか知らない。

 そもそもどうやって始められるのか知らないし、失敗した時が怖くて手を出せない。

 佑は株だけでも億単位の金を動かしているそうで、聞いただけでも「ひえっ」となってしまう。
 何やら現在では黙っているだけで、配当金が年間億単位入ってきているそうだ。

 その他にもFXやら国債やら金、先物に投資信託、ETFやら、専門用語が出てよく分からない。

「お金持ってるのにね」

「いざという時のために、金はどれだけあってもいいと思ってる。不動産も」

「あー……そっか。佑さん、不動産も沢山持ってるものね」

 そもそもにして、eホーム御劔のCEOだ。

 佑がどれぐらい資産を持っているかは、詳しく聞いた事がないので分からない。

 ただChief Everyとeホーム御劔、CEPを取り仕切っている他にも、外部顧問もしているらしいので、香澄が考えている以上に収入はあるのだろう。

 それ以外にも本の印税もあるだろうし、細かなところから沢山収入があると思う。

 秘書として佑の仕事を把握しているし、契約を結んでいる会社や経営者の名前も分かっている。

 だが仕事内容を知っているからといって、どれぐらい稼いでいるかまでは分からない。

 加えて、金の話を聞きすぎると下品になる。

 佑は「知りたい事があるなら何でも話すよ」と言ってくれるが、香澄は踏み込み過ぎないようにしていた。

 今の生活で十分すぎるし、香澄だって多すぎるほどの給料をもらっている。

 なら、家族とはいえ人様がどれだけお金を持っているか、知りたがる必要はない。

 結婚したなら、家計を考えるために夫の財布事情を把握する事は必要かもしれない。

 だが佑はお小遣いを気にする人ではないし、この大きすぎる家の光熱費、水道代などを今まで一人でまかなってきた。

 だから結婚したとしても、今後の香澄のお財布事情は変わらない気がする。

「……ごめんね」

「何が?」

 ぽつんと謝ると、佑が「訳が分からない」という顔でこちらを見る。
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