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第十三部・イタリア 編
帰国
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「ふぅ……」
いつもの席に座ってシートベルトを締め、香澄は胸をドキドキさせる。
飛行機に乗るときはいつも少し昂ぶるが、これから三週間ぶりに帰国できると思うと、ドキドキが増している。
「機内食には和食もある。日本での食事には及ばないかもしれないが、何でも楽しんで」
「ありがとう」
飛行機のエンジン音が大きくなったかと思うと、飛行機は滑走路を加速していく。
窓から外の景色を見てドキドキしていると、飛行機はあっという間にフワッと宙に浮いた。
地上はグングン遠くなり、見える地上の景色は空港近くの畑の茶色がメインになる。
香澄はしばらく窓に貼り付いて、イタリアの大地を目に焼き付けていた。
だが高度を増して何も見えなくなると、「はぁ……」と息をついて前を向いた。
客室乗務員が飲み物のオーダーを尋ねる。
河野をはじめ護衛たちは「やっと帰れますね」と緩んだ表情を見せていた。
香澄はオレンジジュースをもらい、おやつにビスコッティを出してもらう。
(これもきっと、佑さんが事前に連絡してくれたんだろうなぁ。私の好きな物、なんでも揃えてくれる。魔法使いみたい)
そう思った香澄は、向かいの席でタブレットを見ている佑を、チラッと盗み見して一人微笑む。
(長らく休んじゃったけど、帰国したら本当に再始動しないと。さすがの成瀬さんたちでも、長期間休んでもお咎めなしなら『ちょっと……』って思うだろうし。秘書課にもお土産を配って念入りにお詫びして、松井さんにも土下座を辞さない勢いで謝って……)
エミリアの件があってから、香澄は会社では病休になっているらしい。
しかし香澄は自分を病気だと思っていないので、罪悪感が半端ない。
(お世話になっている三人にはパリで可愛いアクセサリーとお菓子を買ったし、『またお世話になります』って挨拶しないと)
例の三人組は特に怒っておらず、「社長の婚約者だと大変だね」ぐらいしか思っていないのだが、香澄はまじめな性格ゆえに責任を感じている。
考えながら、香澄はシートのポケットから映画のプログラムを出した。
「最新の映画が見られるから、空飛ぶ映画館だよねぇ……。贅沢」
思わずそう口走ると、佑がにっこりと笑う。
「出張に付き合ってくれるなら、いつでも乗っていいぞ?」
「そっ、そうじゃなくてですね……社長」
いつも佑と一緒にいたいが、松井や河野を差し置いて出しゃばりたい訳ではない。
自分はどちらかというと、オフィスや国内出張の同行が向いている。
海外出張なら河野のほうが語学が堪能だし、いざという時に護衛にもなるだろう。
香澄は佑と笑い合ったあと、ビスコッティを囓りながら映画鑑賞タイムに入った。
**
機内ベッドで寝たあと、佑に起こされて身支度をし、朝食には胃に優しいおかゆや味噌汁を頂く。
ヨーロッパでの食生活は、何を見ても珍しくて楽しかったが、慣れない物が続くとやはり日本食が恋しくなる。
香澄はふうふうとおかゆを冷まして口に入れ、高級そうな梅干しをつついて「すっぱぁい」と顔を綻ばせた。
河野たちも表情が晴れやかで、香澄まで嬉しくなる。
約十二時間半のフライトを経て、飛行機が羽田に降り立ったのは、翌日の早朝だ。
香澄はタラップを踏んで、懐かしい関東の空を見上げた。
「ただいま!」
誰にともなく言って笑顔になると、車に乗る。
「考えてみたら、早朝に着くなら、あのおうどんはまた今度だね」
「そうだな。俺も疲れててそこまで考えられなかった。ごめん」
「ううん。いいの。次のデートの口実ができるもの」
車の中で会話をして微笑み、香澄は佑に身を預け、窓の外に見える東京の景色をぼんやりと見る。
「……帰ってきたね」
「ああ。ニセコからさらって三週間。あの一か月よりは短いけど、俺にとっては香澄と離ればなれだった気持ちを埋める濃密な三週間になった。疲れただろうけど、付き合ってくれてありがとう。帰ったらゆっくり休んでいいから」
「ありがとう。……一か月、我が儘を聞いてくれてありがとう。きっともう大丈夫」
佑から離れなきゃ、と思った二か月前の不安定な気持ちは、今はすっかりなりをひそめている。
「どれだけ不安でも、佑さんと一緒にいて愛されていると思うと、落ち着くのを身に染みて分かった。あの一か月は無駄だったのかな? って思う事もあるけど、無駄じゃなかったと思いたい」
「俺は香澄が好き過ぎて、視野が狭くなっていた自覚がある。確かにそういう時は距離を取るのも大事なんだろう。これからもそういう時間はあってもいいと思ってる。でも、絶対に連絡ありで」
「んふふ、うん!」
ぎゅっと佑の手を握った香澄は、白金台にある御劔邸に着くまで目を閉じて休む事にした。
**
いつもの席に座ってシートベルトを締め、香澄は胸をドキドキさせる。
飛行機に乗るときはいつも少し昂ぶるが、これから三週間ぶりに帰国できると思うと、ドキドキが増している。
「機内食には和食もある。日本での食事には及ばないかもしれないが、何でも楽しんで」
「ありがとう」
飛行機のエンジン音が大きくなったかと思うと、飛行機は滑走路を加速していく。
窓から外の景色を見てドキドキしていると、飛行機はあっという間にフワッと宙に浮いた。
地上はグングン遠くなり、見える地上の景色は空港近くの畑の茶色がメインになる。
香澄はしばらく窓に貼り付いて、イタリアの大地を目に焼き付けていた。
だが高度を増して何も見えなくなると、「はぁ……」と息をついて前を向いた。
客室乗務員が飲み物のオーダーを尋ねる。
河野をはじめ護衛たちは「やっと帰れますね」と緩んだ表情を見せていた。
香澄はオレンジジュースをもらい、おやつにビスコッティを出してもらう。
(これもきっと、佑さんが事前に連絡してくれたんだろうなぁ。私の好きな物、なんでも揃えてくれる。魔法使いみたい)
そう思った香澄は、向かいの席でタブレットを見ている佑を、チラッと盗み見して一人微笑む。
(長らく休んじゃったけど、帰国したら本当に再始動しないと。さすがの成瀬さんたちでも、長期間休んでもお咎めなしなら『ちょっと……』って思うだろうし。秘書課にもお土産を配って念入りにお詫びして、松井さんにも土下座を辞さない勢いで謝って……)
エミリアの件があってから、香澄は会社では病休になっているらしい。
しかし香澄は自分を病気だと思っていないので、罪悪感が半端ない。
(お世話になっている三人にはパリで可愛いアクセサリーとお菓子を買ったし、『またお世話になります』って挨拶しないと)
例の三人組は特に怒っておらず、「社長の婚約者だと大変だね」ぐらいしか思っていないのだが、香澄はまじめな性格ゆえに責任を感じている。
考えながら、香澄はシートのポケットから映画のプログラムを出した。
「最新の映画が見られるから、空飛ぶ映画館だよねぇ……。贅沢」
思わずそう口走ると、佑がにっこりと笑う。
「出張に付き合ってくれるなら、いつでも乗っていいぞ?」
「そっ、そうじゃなくてですね……社長」
いつも佑と一緒にいたいが、松井や河野を差し置いて出しゃばりたい訳ではない。
自分はどちらかというと、オフィスや国内出張の同行が向いている。
海外出張なら河野のほうが語学が堪能だし、いざという時に護衛にもなるだろう。
香澄は佑と笑い合ったあと、ビスコッティを囓りながら映画鑑賞タイムに入った。
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機内ベッドで寝たあと、佑に起こされて身支度をし、朝食には胃に優しいおかゆや味噌汁を頂く。
ヨーロッパでの食生活は、何を見ても珍しくて楽しかったが、慣れない物が続くとやはり日本食が恋しくなる。
香澄はふうふうとおかゆを冷まして口に入れ、高級そうな梅干しをつついて「すっぱぁい」と顔を綻ばせた。
河野たちも表情が晴れやかで、香澄まで嬉しくなる。
約十二時間半のフライトを経て、飛行機が羽田に降り立ったのは、翌日の早朝だ。
香澄はタラップを踏んで、懐かしい関東の空を見上げた。
「ただいま!」
誰にともなく言って笑顔になると、車に乗る。
「考えてみたら、早朝に着くなら、あのおうどんはまた今度だね」
「そうだな。俺も疲れててそこまで考えられなかった。ごめん」
「ううん。いいの。次のデートの口実ができるもの」
車の中で会話をして微笑み、香澄は佑に身を預け、窓の外に見える東京の景色をぼんやりと見る。
「……帰ってきたね」
「ああ。ニセコからさらって三週間。あの一か月よりは短いけど、俺にとっては香澄と離ればなれだった気持ちを埋める濃密な三週間になった。疲れただろうけど、付き合ってくれてありがとう。帰ったらゆっくり休んでいいから」
「ありがとう。……一か月、我が儘を聞いてくれてありがとう。きっともう大丈夫」
佑から離れなきゃ、と思った二か月前の不安定な気持ちは、今はすっかりなりをひそめている。
「どれだけ不安でも、佑さんと一緒にいて愛されていると思うと、落ち着くのを身に染みて分かった。あの一か月は無駄だったのかな? って思う事もあるけど、無駄じゃなかったと思いたい」
「俺は香澄が好き過ぎて、視野が狭くなっていた自覚がある。確かにそういう時は距離を取るのも大事なんだろう。これからもそういう時間はあってもいいと思ってる。でも、絶対に連絡ありで」
「んふふ、うん!」
ぎゅっと佑の手を握った香澄は、白金台にある御劔邸に着くまで目を閉じて休む事にした。
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