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第十三部・イタリア 編

疲れて眠る

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 郷に入っては郷に従えで、香澄は前髪を斜めに分けて、できるだけ額を出していた。

 事前に「終わったらレストランに行く」と言われていたので、きれいめのワンピースを用意しておいた。

「さて、フィオーレ家ではたっぷりパスタ料理を頂いたから、香澄の要望はピザとリゾットだな?」

「うん! 佑さん、分かってる~!」

 香澄は冗談めかして褒め、サムズアップする。
 それに対し、佑は胸に手を当てて慇懃にお辞儀をしてみせた。

 クスクス笑い合い、二人はメニューを覗き込む。

「チーズリゾット美味しそう」

「うん、じゃあ頼もう。あ、ラムチョップ美味そうだな」

「食べよう!」

 香澄が即答し、佑も笑う。

 ピザはベーシックなマルゲリータを頼み、二人でシェアする事にした。

 呉代、小山内、瀬尾は少し離れたテーブルにいて、あちらも話し合いながらオーダーしている。
 例によって現地のボディガードは店内にさり気なく立っていた。

「イタリアデート、楽しいね」

 つんつん、とテーブルの上にある佑の手をつつくと、ギュッと握られる。

「香澄とのデートなら、どこでも楽しいよ」

「私も!」

 笑顔で返事をした時、テーブルクロスの下で佑の足が香澄のふくらはぎを撫でた。

「!?」

 ビクッとして脚を寄せようとするが、佑は滑らかな革靴を押しつけ、スルスルと脚のラインをなぞる。

「…………」

 目をまん丸にして固まっている香澄を見て、佑はプハッと破顔してクツクツ笑いだした。

「本物のうさぎも、驚いたらそうやって固まるのかな」

「も、もぉぉ……。あんまりからかうと、知らないんだから!」

 佑の足を軽く蹴って言い返すと、彼は軽やかに笑った。



**



 フィオーレ家に着いたのは夕方頃で、香澄は佑の背中でぐっすりと眠っていた。

『で、疲れて寝てる、と』

 佑の目の前には呆れたように笑ったルカがいて、香澄の平和な寝姿を見て微笑んでいる。

『久しぶりに温泉に浸かったし、体が温まってストレスも取れたんじゃないかな。マッサージもたっぷり受けたし、いいストレス解消になったと思う』

『平和に寝てるね。で、夕食はどうしようか。それまで起きるかな?』

『分からない。三週間近くあちこち連れ回したから、相当疲れていると思う。できるだけ寝かせてあげたい』

『OK、僕もそうしたほうがいいと思う。作りたてじゃなくていいなら、君たちの分のご飯を残しておくよ。離れにレンジもあるし、温めて食べて。夕食の準備ができたら、離れに持って行くね』

『ありがとう。助かる』

 ルカに挨拶をし、佑は離れに向かった。



**




「よい、しょ」

 おんぶした香澄ごとベッドの端に座り、彼女を仰向けに寝かせる。

 寝かせたあと立ち上がると、香澄は剥き玉子のようなツヤツヤのすっぴんを晒したまま、くぅくぅと寝ている。

「……疲れさせたもんな。温泉で疲れを取るって行っても、往復三時間はかかるし。結局は一日がかりで出掛けたも同然だな」

 とりあえず服を脱がせ、楽になるかと思ってブラジャーのホックも外した。

「寝間着にしてるキャミソールとタップパンツ、どこだっけ」

 ウォークインクローゼットに向かうと香澄の服が置いてある場所の隅に、ハイブランドのロゴ入りの巾着袋が幾つかある。

「これかな。ちょっと見るよ。ごめん」

 巾着の口を開くと、「おっと」と小さく声を漏らす。

「下着だったか。これは違う、と」

 いま開いた巾着にはレースのパンティが何枚も入っていて、「ラッキー」と思ってしまった。

 だが佑にとって、下着は香澄が穿いて初めて価値が出る。
〝香澄のパンティ〟なら価値はあるが、下着そのものにはあまり興味はない。

 一か月香澄と離ればなれだった時は、彼女の下着で抜いてしまおうかと思った事もあったが、やめておいた。

 ファッションに関係する物ならオタク気質なまでに偏愛しているが、下着や女性が身につける物単体を前にしても、フェチ的な興奮を得る事はなかった。

「こっちの巾着かな」

 別のハイブランドの巾着を開くと、見慣れたシルクサテンが目に入った。
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