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第十三部・イタリア 編

イタリアの温泉へ

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「ビテルボっていう街にあるんだね。ふんふん、ローマから車で一時間半ぐらい、と」

「移動、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

「水着、あるよな?」

「う……うん」

 佑が嬉しそうな顔をするので、香澄は微妙な顔で頷く。

 ヨーロッパに来てから水着も買ってもらったが、いかんせんデザインが海外的なのだ。

 日本の水着の可愛らしさに比べると、こちらはセクシーを前面に出したデザインが多く、布面積も少ない。

 佑が「これ、いいな」と言ってヒョイと買ってしまったビキニがあったが、「どうせすぐ着る機会はないだろうし、帰国しても秋だし」と高をくくっていた。

 おまけに以前双子たちに「欧米でワンピースタイプとか、スカートのついた水着を着たら、『子供?』って笑われるから注意してね!」と言われたのを思いだす。

 ミニスカートのような水着は、ヒップを隠してくれる。
 日本にいても水着になる機会はあまりなかったが、もし水着が必要な時はそのタイプに逃げようと思っていた。

 だがいざ本番となると、舞台はヨーロッパでそう簡単に済ませてくれない。

「スペインで買った、『アクアマリア』の白いレースのビキニ、着てくれないか?」

「う、うー……。わ、分かった……」

 佑がスペインでご機嫌に買ったのは、三角ビキニに、紐パンだ。
 三角ビキニは三段のレースがついていて可愛いが、紐パンのバックスタイルはブラジリアンカットになっていて、やはり布面積が少ない。

「ね、ねぇ。こっちの人、皆ビキニだよね? いざ現地に行ったら私だけ痴女みたいに露出高いっていうの嫌だよ?」

「大丈夫だよ。ほぼビキニと言っていいんじゃないかな。イタリアの温泉施設は医療施設でもあるから、医師の診察の後に、温泉以外にもサウナやマッサージもある。ずっとビキニで泳がなくてもいいよ」

「へぇ! 医療施設なんだ!」

 日本では温泉と言えばお風呂の延長で、そのついでに効能がある印象だ。

「ビーチのように、プライベートの場所を用意できなくてごめん」

「何で謝るの!? さっきネットで写真見たけど、市民プールみたいな感じだし、皆で入るの当たり前でしょ? 日本だと佑さんと市民プールなんて無理だし、だったらイタリアで楽しみたいな」

「そうか? なら良かった」

 香澄の言葉に、佑はホッとした顔をする。

「佑さんは何でもセレブに考えすぎなんだよ。私の身分を考えてくれたまえ。札幌の一市民なのだから」

「そろそろ東京都民に染まってほしいのに」

 香澄の冗談を佑が冗談で返し、「ん?」と顔を覗き込んで抱き締めてくる。

「ふふ、そろそろ東京に染まらないとだけど、根っこの部分はいつでも札幌にあるよ」

 抱き締めてきた腕をキュッと握り返すと、「そうだな」と耳の裏や首筋にちゅっちゅっとキスをされた。

「さて、ゆっくり支度をして、ルカたちに出掛けると伝えるか」

「うん」

 佑の腕から解放され、香澄は件のビキニを探し始める。

 佑はルカに電話を掛け、今日の予定を話し始めた。



**




 九時半ぐらいにフィオーレ家を出る。

 ローマから車で北北西に進むと、ビテルボがある。
 ローマは海岸より少し内陸にあるので、海沿いに内陸を進んだと言ってもいい。

 ビテルボに到着したのは、十一時前だ。

「『テルメ・デイ・パーピ』というのは、『法王の温泉』という意味なんだ。もともとは別の民族が住んでいたが、ローマ人が占拠して温泉も活用した。そのあとローマ法王が利用するようになり、長期滞在用の別荘も建てた。この近くにはその名残のホテルもあるし、温泉はダンテやミケランジェロも愛用したと言われている」

「歴史が深いんだね。……というか、硫黄の匂いがクる……」

 パタパタと鼻の前を扇ぐと、佑が笑う。

「火山性の温泉だからな。さて、行こうか」

 建物の中に入ると、壁に大きく『テルメ・デイ・パーピ』とロゴがある下に、昔の浴槽とおぼしき物がある。

「ちょっと記念に撮る」

 佑に言って、香澄は入り口を写真に収めた。

 入り口のカウンターで佑がイタリア語で受付と話し、入場カードをもらって更衣室に進む。

 護衛たちも勿論、水着持参で警護に当たる。

 河野は護衛ではないが、観光半分で参加するらしく、度付き水中ゴーグルも持ってきたそうだ。
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