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第十三部・イタリア 編

意識し合う夜

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『はい、マリアさんと女同士の話をしました。お腹も少しこなれてきましたし、今日は休ませて頂いてもいいですか?』

『ええ、勿論! ゆっくり休んでちょうだい』

『ありがとうございます』

 カロリーヌとハグをすると、次々にハグ大会が始まる。

 佑も隣で挨拶をし、二人で母屋を出た。

「ふんふーん、ふふふ、ふふふーん」

 香澄はなぜだかモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を鼻歌で歌い、イタリアの夜空を見上げる。

「ご機嫌だな」

「美味しい物を食べたからかな?」

 佑の手を握り、香澄はワルツのようにクルリと回ってみせた。

「はは、本当にご機嫌だな。俺の姫君は。……よっ」

「きゃっ」

 佑が屈んだかと思うと、香澄は軽々と抱き上げられていた。

 とっさに佑の首に両腕を回すと、ばちっと至近距離で目が合う。
 庭の照明に照らされ、佑の秀麗な顔が迫る。

 思わずその美しい瞳に見とれ、呼吸すら忘れてしまう。

 香澄が固まっている間、佑は顔を傾け――、ちゅ、とキスをしてきた。
 隙を突かれて目を丸くする香澄の前で、彼は優しく微笑んだ。

「愛してるよ」

 突如告白され、じわぁっと顔が熱を持った。

「……ど、どうしたの。急に」

「気持ちを伝えるのは大切だと思ったから」

 そのまま佑は離れまで香澄を運び、玄関の前でストンと下ろす。

「そ、そうだね。気持ち伝えるの大事」

 すっかり照れてしまった香澄は、ぎく、しゃく、と足を動かして離れに入る。

 着替えるためにクローゼットに向かいながら、「これから寝る予定だけれどどうなるんだろう?」とぼんやり考える。

(出血してるって言っちゃったし、エッチはナシだよね。また胸で……って言っても、私一人で満足するのは申し訳ないし。……うん。ちゃっちゃと寝る準備して、くっついて寝よう)

 こくんと頷くと、とりあえず寝間着に着替える事にした。

 佑と同棲して一年近く経つが、同じ空間で着替えるのはまだ恥ずかしい。
 なのでクローゼットからキャミソールとタップパンツを出すと洗面所に向かった。

(……あれ、まだ酔ってるのかな)

 洗面所の鏡を見ると、顔が赤いのに気づく。

(それにしても、佑さんもこっちの人も顔色が変わらないよなぁ。人種でアルコールを分解する体のつくりが違うって教えてくれたの、アロイスさんとクラウスさんだっけ)

 ワンピースも下着も脱いでしまうと、自分の裸身を鏡で見てみた。

「……太ってないかな?」

 ヨーロッパに来てから美味しい物を食べ続けていたので、数キロ増えていてもおかしくない。

 ホテル滞在時の空き時間に、室内でできるトレーニングは続けていたものの、日本にいた時のようにジョギングをしたり、トレーナーに見てもらったりはしていない。

 鏡を見ながら体を横に捻り、後ろを向いて振り向いたりしながら、香澄はお腹やお尻、背中をペタペタ触る。

「うーん……。分からない……。帰ったらトレーナーさんに連絡して、しごいてもらわないと」

 決意したあとはパパッと着替え、服を畳んで部屋に戻る。

(おっとぉ……!)

 その途中で下着一枚の佑を見てしまい、立ち止まってバッと横を向いた。
 けれどチラッチラッと、鍛え抜かれた体を見てしまう。

(背中広いなぁ。広背筋? だっけ? 綺麗な逆三角形の体)

 香澄が横を向いている隙に、佑がスウェットを穿いたのに気づかなかった。
 ハッとした時には彼がこちらを向いてニヤリと笑い、一言いう。

「見たいなら見せるのに」

「ちっ、ちが……っ! へ、変態だよ!? それ、変態の言葉だよ!?」

 焦ってワンピースを抱えたままスーツケースを置いている場所に向かい、「あれ、鍵どこだっけ?」と立ち止まった時、後ろから抱き締められた。

「ひゃっ」

 剥き出しの腕や肩に、佑の体温を感じて香澄はピシッと固まる。

「……ん、いい匂いがする」

 スン、と耳の裏や首筋の匂いを嗅がれ、ゾクッと腰から震えが走った。

「……やぁ……」

 香澄は身を守るようにギュッと背中を丸め、佑の腕の中でどんどん小さくなる。

 けれど佑は離してくれず、一緒にしゃがみ込んで香澄を腕の中に閉じ込めた。

 ちゅ、ちゅ、と首筋から背中の上部にキスをされ、ゾクゾクしてしまう。

「やだ、や、ん、……や、……あぁ、……んーっ、……や」

 彼に愛される悦びを知ったからか、キスされているだけでもどんどん発情していく。
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