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第十三部・イタリア 編
似た者彼氏を持つ彼女たち
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「とても純粋で優しくて、……優しすぎて悪意に気づけない危うさもあるって」
ニセコでの事を思いだし、ルカは和也や真奈美の事を言いたかったのだろうか、と思う。
「安心して。詳しい事は聞かされなかったわ。彼はそういう人じゃないの。でも、香澄さんは危ない目に遭っても相手を庇おうとし、信じようとしていたって聞いて、胸がギュッとなったの。『拳を振り上げられても、悪意を知らない子猫や子犬みたいに身を守らない』って言っていたわね」
「そんな……事は……」
無垢ではないと首を振る香澄の髪を、マリアは撫でてくる。
「そしてあなたも私と同じように、有名すぎる人と結婚するのに怯えているとも聞かされたわ」
「あ……」
ドキッ、と胸が鳴る。
「あなたがきっかけで私は覚悟を決められたわ。だから『何か力になれるなら、いつでも言ってほしい』って言いたかっただけなの」
思いやってくれる気持ちを感じ、香澄は微笑んで尋ねた。
「ルカさんとはその後、うまくいっているんですね?」
彼女の問いに、マリアは幸せそうに笑う。
「ええ、本当に香澄さんのお陰よ。ルカにプロポーズされて婚約指輪まで買ってもらってから、とてもブルーになって距離を取ってしまったの。ルカに『しばらく会いたくない』と言ってしまって、ひたすら仕事に打ち込んでいたわ。彼は情熱的な人だけど、愛してくれるから無理強いしなかった。私の言葉に傷つきながらも、ニセコまで行って自分の心と向き合ってくれたみたいね」
ニセコで初めてルカと会った時の事を思いだし、笑顔になる。
「ルカさん、お料理できなくてインスタントばっかり籠に入れていました。差し出がましかったかもですが、私がちょっとお節介をさせてもらいました」
その言葉に、マリアも明るく笑った。
「うふふ、ありがとう。ルカからも『美味しかった』って聞いていたわ。私も負けないように料理の腕を磨かないと。イタリア男はマンマの味が一番なの。だから嫁はちょっと肩身が狭いのよ。でもカロリーヌやフランチェスカともうまくいっているし、ダニエラとパオラとはもう姉妹みたいだわ。きっと私は幸せになれる」
まっすぐに言い切るマリアが、とても眩しく綺麗に感じられた。
「ねぇ、香澄さん。私、あなたが好きだわ。会ったのは初めてだけど、ルカといい関係を結んでくれて、彼を励ましてくれた。だから私もあなたに幸せになってほしいの」
二人ともブランコをこぐのを止めている。
マリアは両手でギュッと香澄の手を握ってきた。
「タスク・ミツルギは有名人だわ。パオラなんて大ファンだし、世界的なアーティストやモデル、アクターも、彼の服をハッシュタグつきで発信してる。デザインと品質の良さは業界一だと私は思ってる。色んなラインがあるChief Everyは魅力的だし、CEPは本当に一流よ」
「ありがとうございます。秘書として嬉しいです」
誇らしくなった香澄は、しっかり頷いてマリアに笑いかける。
「彼が作る服を、世界中の人が愛しているわ。何より彼の服には、『すべての人にファッションを楽しんでほしい』という情熱と愛が溢れている。彼の才能や経営手腕に嫉妬して色々言う人がいるけれど、それだけタスク・ミツルギが〝本物〟だという事だわ。職人の世界にも、そういう事はよくあるの」
最後に一言付け足し、マリアはペロッと舌を出す。
佑に敵が多いことは、香澄もよく分かっている。
彼の前では話題にしないけれど、SNSでやたら声の大きな人がChief Everyを『チープ・エブリィ』と揶揄しているのをたまに目にする。
その言葉は『いつもポケットチーフを胸に入れている気分で』という佑の気持ちを踏みにじるものだ。
最初に見つけた時、体が震えるほどの怒りを感じた。
けれど佑に訴えても、彼は涼しい顔で『慣れてるからどうって事はないよ』と笑うだけだった。
『よほど酷かったら名誉毀損で訴えられるけど、SNSで虚勢を張るしかできない人の活躍の場を奪う事になるだろう?』と、何とも底意地の悪い笑みを浮かべたのだ。
今までChief Everyが炎上する事は、幸いなかった。
むしろ佑が荒れていた時期に、彼自身のゴシップで話題になった事はあったが……。
そのたびにSNSで様々な旋風が吹き荒れたものの、佑ほどの人になればいちいち取り合っていられないのだろう。
よほどの事――、殺害予告や爆破予告、佑本人への付きまといがない限り、彼は動かない。
そのために護衛を雇っているし、そもそもネットの感想を見て一喜一憂する人ではないし、Chief Everyのネット戦略は広報部の仕事だ。
個人のSNSは、御劔佑だと分からない名前でしている。
「一般人でもネットをしていると変な敵ができますけど、佑さんみたいに有名になったら、もう相手が見えなくてキリがないんでしょうね」
ポツンと呟くと、マリアが頷く。
ニセコでの事を思いだし、ルカは和也や真奈美の事を言いたかったのだろうか、と思う。
「安心して。詳しい事は聞かされなかったわ。彼はそういう人じゃないの。でも、香澄さんは危ない目に遭っても相手を庇おうとし、信じようとしていたって聞いて、胸がギュッとなったの。『拳を振り上げられても、悪意を知らない子猫や子犬みたいに身を守らない』って言っていたわね」
「そんな……事は……」
無垢ではないと首を振る香澄の髪を、マリアは撫でてくる。
「そしてあなたも私と同じように、有名すぎる人と結婚するのに怯えているとも聞かされたわ」
「あ……」
ドキッ、と胸が鳴る。
「あなたがきっかけで私は覚悟を決められたわ。だから『何か力になれるなら、いつでも言ってほしい』って言いたかっただけなの」
思いやってくれる気持ちを感じ、香澄は微笑んで尋ねた。
「ルカさんとはその後、うまくいっているんですね?」
彼女の問いに、マリアは幸せそうに笑う。
「ええ、本当に香澄さんのお陰よ。ルカにプロポーズされて婚約指輪まで買ってもらってから、とてもブルーになって距離を取ってしまったの。ルカに『しばらく会いたくない』と言ってしまって、ひたすら仕事に打ち込んでいたわ。彼は情熱的な人だけど、愛してくれるから無理強いしなかった。私の言葉に傷つきながらも、ニセコまで行って自分の心と向き合ってくれたみたいね」
ニセコで初めてルカと会った時の事を思いだし、笑顔になる。
「ルカさん、お料理できなくてインスタントばっかり籠に入れていました。差し出がましかったかもですが、私がちょっとお節介をさせてもらいました」
その言葉に、マリアも明るく笑った。
「うふふ、ありがとう。ルカからも『美味しかった』って聞いていたわ。私も負けないように料理の腕を磨かないと。イタリア男はマンマの味が一番なの。だから嫁はちょっと肩身が狭いのよ。でもカロリーヌやフランチェスカともうまくいっているし、ダニエラとパオラとはもう姉妹みたいだわ。きっと私は幸せになれる」
まっすぐに言い切るマリアが、とても眩しく綺麗に感じられた。
「ねぇ、香澄さん。私、あなたが好きだわ。会ったのは初めてだけど、ルカといい関係を結んでくれて、彼を励ましてくれた。だから私もあなたに幸せになってほしいの」
二人ともブランコをこぐのを止めている。
マリアは両手でギュッと香澄の手を握ってきた。
「タスク・ミツルギは有名人だわ。パオラなんて大ファンだし、世界的なアーティストやモデル、アクターも、彼の服をハッシュタグつきで発信してる。デザインと品質の良さは業界一だと私は思ってる。色んなラインがあるChief Everyは魅力的だし、CEPは本当に一流よ」
「ありがとうございます。秘書として嬉しいです」
誇らしくなった香澄は、しっかり頷いてマリアに笑いかける。
「彼が作る服を、世界中の人が愛しているわ。何より彼の服には、『すべての人にファッションを楽しんでほしい』という情熱と愛が溢れている。彼の才能や経営手腕に嫉妬して色々言う人がいるけれど、それだけタスク・ミツルギが〝本物〟だという事だわ。職人の世界にも、そういう事はよくあるの」
最後に一言付け足し、マリアはペロッと舌を出す。
佑に敵が多いことは、香澄もよく分かっている。
彼の前では話題にしないけれど、SNSでやたら声の大きな人がChief Everyを『チープ・エブリィ』と揶揄しているのをたまに目にする。
その言葉は『いつもポケットチーフを胸に入れている気分で』という佑の気持ちを踏みにじるものだ。
最初に見つけた時、体が震えるほどの怒りを感じた。
けれど佑に訴えても、彼は涼しい顔で『慣れてるからどうって事はないよ』と笑うだけだった。
『よほど酷かったら名誉毀損で訴えられるけど、SNSで虚勢を張るしかできない人の活躍の場を奪う事になるだろう?』と、何とも底意地の悪い笑みを浮かべたのだ。
今までChief Everyが炎上する事は、幸いなかった。
むしろ佑が荒れていた時期に、彼自身のゴシップで話題になった事はあったが……。
そのたびにSNSで様々な旋風が吹き荒れたものの、佑ほどの人になればいちいち取り合っていられないのだろう。
よほどの事――、殺害予告や爆破予告、佑本人への付きまといがない限り、彼は動かない。
そのために護衛を雇っているし、そもそもネットの感想を見て一喜一憂する人ではないし、Chief Everyのネット戦略は広報部の仕事だ。
個人のSNSは、御劔佑だと分からない名前でしている。
「一般人でもネットをしていると変な敵ができますけど、佑さんみたいに有名になったら、もう相手が見えなくてキリがないんでしょうね」
ポツンと呟くと、マリアが頷く。
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