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第十三部・イタリア 編

〝愛玩うさぎ〟

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「おいしい」

「それは良かった」

 一口飲んで息をつき、香澄はマグカップをテーブルに置くと、佑と腕を組みコテンと頭を預ける。

「佑さん」
「ん?」

 佑も香澄の頭にこつんと軽く頭をつけ、返事をする。

「いい子、いい子」

 香澄は横からパフッと抱きつくと、彼の頭を優しく撫でた。

「ゆっくりできるんだから……。ね? 甘えていいよ」

 コソッと佑の耳に囁いて、香澄は膝立ちになって彼の頭を抱き締める。

「……香澄?」

 腕の中で佑は戸惑った声を出すが、香澄は構わず彼の頭に頬ずりをする。

「佑さんも疲れてるでしょう? パリでの事もあるし、強がらなくていいの。私の前で弱音を吐きたくなかったら、言わなくてもいい。……でもね、人ってただくっついてるだけでも、安心できるんだって。だから、〝愛玩うさぎ〟を役立ててください」

 ずっとこうして、佑を甘やかしたかった。

 今までおんぶに抱っこで、何でも言う事を聞いてもらっていた。

「そのお返しに何ができるだろう?」と考え、こうなった。

 自分にできる事が、『愛玩される事』なのは少し情けない。
 もしずば抜けた仕事能力や特技があれば、彼の仕事を直接手助けできただろう。

(でも私には何もないから、できる事を精一杯するんだ。私を抱いて気持ちいいって思ってくれるなら、体磨きをもっと頑張る。一緒にいて安らぐって思ってくれるなら、優しくしてあげたい。『私にはそれしかできない』じゃなくて、できる事をもっと突き詰めていくんだ)

 佑は腕の中で身じろぎし、香澄を見上げる。

「好きだよ、佑さん。だからくっつこう? 人肌って安心するんだって」

 微笑んで、香澄はスリスリと頬ずりをした。

 ――とんっ、とマグカップをテーブルに置く音がしたかと思うと、香澄の視界がぐるんっと反転した。

(あれ?)

 視界にフレスコ画の描かれた天井が映り、こちらを見下ろす佑の顔が見えた。

「煽ったな?」

 目を細めて笑った佑は、もうすでにスイッチが入っている。

「ち、ちが、ちが、……違うのっ! 本当に癒やされてほしくて……」

「じゃあ、癒やしてくれよ」

 低い声で囁いたと思うと、佑が覆い被さるようにキスをしてきた。

「ん、……ン」

 唇を押しつけられただけで、香澄の下腹部にズン……と甘い疼きが訪れ、女のスイッチが入った。

 スリスリと鼻先をすり合わせるノーズキスをされ、くすぐったさと彼から溢れる親密さに、体の奥から何かが溢れそうになる。
 そのうち唇が舐められ、香澄は微かに開いた唇からあえかな吐息を漏らす。

「あ……、ン、……ん、んぅ……」

 ワンピースの裾をたくし上げられ、香澄はもぞもぞと腰を揺らした。

「んん、んんぅ!」

 首を横に振ると、佑が顔を離した。

「嫌か?」

「そ……じゃないけど……。声……聞こえちゃう」

 真っ赤になって河野たちを気にすると、佑が妖艶に笑う。

「声、我慢してて」

 声を出すような事をするつもりだと察し、香澄はブンブンと首を横に振る。

 すると彼が顎を片手で捉え、キュッと掴んできた。

「香澄? 煽っておいて『ノー』を言うのか?」

 微笑んだ彼が怖い。

「う……、うぅ……」

 香澄は動揺し、目をキョロキョロ動かして逃げ道を探そうとする。

(煽ったつもりはない! 癒やされてほしかっただけで!)

 心の中で叫びつつも、開かれた脚の間には早くも芯を持った彼の屹立を感じる。
 本能的にむずむずと腰を揺らしていると、言葉を催促するように尻肉を掴まれた。

「香澄?」

「う……。うー……。……甘えてほしかったんだけど、ちょっとイチャイチャできたらいいなって思ってただけで……」

「最後までしないのか?」

 最初から生殺しの予定だったと知った佑は、軽く目を瞠る。

「えっ? そ、そうじゃない」

「ん?」

「そうじゃない」と否定され、佑はできるのかと目を輝かせる。

 しかし香澄は残酷な現実を突きつけた。
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