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第十三部・イタリア 編

ティラミス

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「……何時?」

「んーと、十六時過ぎ。私もついさっき起きたばっかり。なんかもう、時間の感覚がおかしくなってる」

 スマホを横に置いて笑う香澄の手を、佑が握ってくる。
 彼はスリスリと香澄の手を撫で、手の甲にキスをした。

「佑さんも疲れてるでしょ。少しは休めた?」

「ああ、平気だ」

 もう一度目を擦ってから、佑はのそりと起き上がる。
 ふあ……と欠伸をする姿が、寝起きの獣のようだ。

 腕を組んでピトリとくっつくと、佑もコツンと頭をくっつけてくれる。

 帰国してからの事を考えつつ、佑にくっついていると、雰囲気を考えない音が二人を邪魔した。

 ぐぅ……ぐぉんん……きゅるるる……。

「んぷ……っ、ん、――ふふ、ふふふ……」

 佑は横を向いて懸命に笑いを堪えるが、香澄は自分の腹部をポカポカ叩いて真っ赤になっている。

「……け、健康でごめんね……?」

「いや、健康で結構。夕食はもう少し後だと思うけど、キッチンの冷蔵庫にある物をもらうか」

「う、うん。……覗いてみる」

 ここで「我慢する」と言えない自分が情けない。

 モソモソとベッドから下りると、佑もルームシューズを履いて立ち上がり、しなやかな体を伸ばす。
 Tシャツ越しに分かる鍛えられた体をチラッと盗み見し、香澄は先に歩きながらにやけた。

(今日も佑さんが格好いい)

 はぁ、と溜め息をつく自分は、推しに満たされている。

 キッチンに着いて冷蔵庫を開けると、中身はなかなか充実していた。

「わああ……」

 ルカは「ミニバーにある程度の飲み物やデザート」と言っていたが、それ以上の物がそろっている。

 ミネラルウォーターやソフトドリンク、ビールの他、保存容器にはどう見ても手作りのティラミスが入っている。
 他にもトマトやレモン、オレンジをはじめとしたフルーツ類、美味しそうなサーモンや生ハムが真空パックに入っている。勿論チーズやオリーブもある。
 キッチンにはオリーブオイルやビネガー、チーズを削る道具に、塩・胡椒をはじめとする調味料も揃っていた。

「軽いパーティーでも開けそう」

「本当だな。まずこのティラミス、手作りっぽいし早めに食べようか」

「うん! ティラミス大好き!」

 キッチンの戸棚には食器が揃っている。
 香澄はスプーンを出すと、保存容器からざっくりとティラミスをすくう。

「佑さんどれだけ食べる? 大体二人で三回分くらいかな」

「香澄がよそってくれる分だけでいいよ。香澄の好物だし腹が減ってるなら、好きなだけ食べればいいよ」

「太らせる魂胆ですね? 社長」

 冗談を言いつつ、香澄は誘惑に負けて自分の皿に多めによそってしまう。

「肉付きの良くなったうさぎも大好物だよ。網タイツを穿いた脚がむっちりしていても、魅力的じゃないか」

「もぉぉ……。佑さんのバニーガール好きも変わらないなぁ。はい、どうぞ」

「どうも。毎度言ってるけど、俺が興奮するのは香澄のバニーガール姿だからな?」

 変な会話をしながら、二人はプレートとスプーンを手にダイニングテーブルにつく。

 光沢のある木製テーブルは見るからに高級そうで、脚には見事な彫刻がある。
 八脚そろった椅子も座面に見覚えのある、イタリア高級ブランドの鮮やかな色使いがあり、座るのが怖い。

「ああ、これダヴィガリだな。古い椅子だからリメイクしたんだな」

 イタリアのハイブランド、ダヴィア&ガッリャーノの名前を出され、香澄はすんっと足が地面から一cm浮いた感覚になる。

「そ、そんなことできるの?」

「金さえ出せば依頼に応えてくれるんじゃないか? 座面の張り替えと、生地を指定するぐらいならできると思うけど」

 そう言って佑は遠慮なく座ったので、香澄もおそるおそる高級椅子に腰掛ける。

「いただきます」

 佑が食べ始め、香澄も「いただきます」を言ってスプーンですくったティラミスを口に入れた。

「んン……? ん! んぅ! おいふぃ!」

 香澄手で口元を押さえ、何度もコクコクと頷く。
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