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第十三部・イタリア 編

少し休ませてもらいます

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『その赤ちゃんが、ロンドンでパオラさんが出産された子か』

 佑がベビーベッドにいる赤ん坊を見ると、マルコとカロリーヌが嬉しそうに微笑む。
 ルカが付け加える。

『ちなみにパオラの家は近所にあるよ。姉のダニエラも旦那と子供と一緒に近くに住んでる。僕はこの家とスペイン広場近の側にある、ペントハウスを行き来してる。でも、いずれマリアと結婚したら、ペントハウスに移る予定だよ』

 映画でも有名な観光地の名前が出てきて、香澄は内心「おお」となる。
 まごうことなき一等地のペントハウスに住んでいるとは、やはり金持ちだ。

 けれどそれを表に出してしまうと下品なので、微笑んで応える。

『家族仲がよくて羨ましいです。私も家族と仲がいいですが、やっぱり日本的な距離はありますね。もっと気持ちをストレートに表せたら素敵だなぁ、と思いますけど、恥ずかしくてなかなか……』

 美味しいカプチーノにビスコッティを浸して食べると、ほどよくふやけて美味しい。
 アーモンドの香りがフワッと口内に広がり、エスプレッソの苦みとミルクの味わいとのハーモニーが素晴らしい。

(やっぱり現地の物は現地で、だなぁ)

 ちなみにこのビスコッティは、カロリーヌのお手製らしい。

 美味しい物を口にしてほんわりとしていたのだが、ルカがとんでもない勘違いをした。

『え? タスクはカスミに〝愛してる〟って言わないの? 〝僕の女神〟とか〝愛しい人〟とか、どんどん言っていいんだよ? 言わないと伝わらないんだから』

 ズバッと言われ、佑と香澄はチラッとお互いの顔を見る。
 佑は溜め息混じりに、誤解されては困るという表情で異論を唱えた。

『〝愛してる〟ならちゃんと言ってる。香澄はとてもシャイだけど、彼女なりの表現で返事をしてくれる』

 するとパオラが参戦してきた。

『カスミ、タスクのようないい男を逃したら、ぜーったいにダメよ!? 世界中にハイエナみたいな女たちがウヨウヨいるんだから』

 力強く言われ、香澄は『は、はい』と頷く。

 どうやら彼女は熱狂的なファンではあるが、それ以上の感情はないらしい。
 ほんのちょっとだけ、「目の前で仲良くしたら気を悪くするかな」と心配したのだが、その意味での気遣いは無用のようだ。

 麻衣も佑の大ファンであると思いだしたが、「会ったらテンション上がるけど、それ以上の感情は抱かないね。観賞用と心の師匠」と言っていたので納得だ。

 それからイタリアに来ての印象を聞かれて話し、ルカたちが誇らしげに細かな説明してくれる。
 会話は基本的に英語だが、一応ついていけるし皆明るくて気さくな人なので話しやすい。

 楽しい時間を過ごしていたが、香澄はパリを昼前に発って二時間少し飛行機に乗って移動したので、ずっとヨーロッパにいる旅疲れもあって目をしばしばとさせていた。

『あら、カスミさん疲れているんじゃないの?』

 カロリーヌに声を掛けられ、香澄はハッと顔を上げる。

『いえ! 大丈夫です! すみません、ボーッとしていて』

 だが佑にそっと肩を抱かれ、顔を覗き込まれた。

「……移動疲れしているな。休ませてもらおう。予定では夕食を一緒にという事だし、その時間まで横になっているといい」

「でも……」

 眠くないとアピールするためにクワッと目を開くが、佑が「いいから」と頭をポンポンと撫でてきた。

『美味しいエスプレッソも頂きましたから、お言葉に甘えて少し休ませてもらいます』

『そうしなさい。ここは私たちの家だから、話そうと思えばいつでも話せる』

 マルコが快諾し、他の者も『ゆっくり休んで』と言ってくれる。

『ありがとうございます。少し横にならせてもらいますね』

 立ち上がった香澄はペコリと頭を下げ、佑と一緒に離れに向かう事にした。

『タスク、離れの説明をするから僕もついていくよ』

『ありがとう、ルカ。それとマルコ、あとで話をいいですか?』

『いいとも』

 カロリーヌやパオラたちに挨拶をし、二人はルカに付き添われて母屋を出た。

 十一月のローマは十五度前後で、香澄はワンピースの上にカーディガンを羽織っていた。
 庭に温室を見つけ、周囲の景色を見ながら歩を進める。

『そうだ、カスミ。モフモフワンダーランドはまたあとでね。母屋に全員いるんだけど、猫たちはびっくりして隠れちゃったみたいだ』

『はい、楽しみにしています』

 カデンツァの他にも母屋にはボルゾイに柴犬、ビーグルにミニチュアシュナウザーがいた。
 全員と挨拶をしたかったのだが、ルカが『あとで全員紹介するから』と言ってくれたので、彼らにはまだ触れていない。

 猫はひっそりと隠れていたが、犬たちは会話をする主人たちの足元で大人しくくつろいでいた。

 離れの建物の壁際にも、レモンやオレンジがなっている。
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