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第十二部・パリ 編
運命的じゃないか
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「ううん、こんなに想われて幸せだよ」
体重を預けてくる佑は、まるで大型犬のようだ。
全身全霊で香澄を守り、やりすぎると反省してすり寄ってくる。
香澄を愛しすぎるがゆえに、タガが外れてしまう人なのだと思うと、愛しくて堪らない。
たとえそれが世間に〝病んだ愛〟だと思われても、香澄には関係ないし愛し返したい。
「……今日はもう、寝よっか」
「……ああ。せっかくの余韻を台無しにしてごめん」
「ううん。このチェーンとかも、取っていい?」
「ん、俺が外してあげる」
佑が起き上がり、まだ濡れている香澄の秘唇からリングを外す。
「痛くなかったか?」
「……ちょっと違和感あるけど、大丈夫」
チェーンハーネスやほとんど紐のパンティも脱ぎ、香澄は生まれたままの姿になってホッと息をつく。
「佑さん、玩具使いたかった人?」
羽根布団の下に隠されていた玩具の事を言うと、佑は悪びれもせず笑う。
「使いたかった」
「もー」
苦笑いすると、佑はきまり悪そうに笑って言い訳をした。
「少し不安定だったから、香澄に甘えたかった。香澄は何をしても俺を受け入れてくれるって、試したかったんだと思う。……好きな人を試すなんて、最低なやり方だ」
もうすっかり冷静になった佑を見て、香澄は安堵した。
「気にしないで。私たちは、好き合ってる最強カップルだよ。何回も言ったけど、痛い事やハードSMとか、汚い事じゃなかったら、私は受け入れるよ。それに佑さんがどれだけ自分を追い詰めても、そんな姿すら愛しいと思っちゃう。OK?」
そう言って微笑むと、佑はギュッと抱き締めてきた。
「ありがとう。愛してる」
耳元で告白されて香澄は幸せ一杯に微笑む。
そのあとはゴロゴロして、眠りについた。
**
何とか誤魔化して眠ったものの、佑の眠りは浅かった。
翌朝も早朝に目が覚め、くぅくぅと眠る香澄の体温を感じながら、ぼんやりと考え事をする。
(香澄は『すべてを見せてほしい』と言ってくれたけど、さすがにすべて知ったら『重い』と言うだろう。冗談ではなくて、ずっと家にいて俺の事だけ考えていてほしいって本気で思っている。その重さや執着を知られたら……別れるって言われかねない)
大人になって学んだのは、沈黙が美徳であるという事だ。
自他共に認めるように、佑がここまで執着する女性は香澄が初めてだ。
それまでの女性とはドライに付き合っていたし、結婚を考えた美智瑠にも「嫌われたら死ぬかも」など思わなかった。
美智瑠が自分のもとを去っても、追いかけて復縁しようと思わなかった。
名残惜しさや申し訳なさはあったが、当時の佑は体調を崩して精神的にも参っていたため、同時に複数の〝大切〟を作れなかった。
三十歳を越してChief Everyが安定して売り上げを伸ばしているのも、香澄に夢中になれる原因の一つだと思う。
二十代は会社を育てるのに精一杯で、美智瑠とゆっくり過ごし、彼女を喜ばせるような付き合い方ができなかった。
(香澄ともっと早くに出会いたかった。……でも二十代の俺なら、頼りなくて駄目だったろう。きっと香澄と付き合えているのは〝今〟だからだ。出会いが札幌なのも、彼女がバニーガールの格好をしていたのも、すべてタイミング。……そう思えば、全部運命的じゃないか)
堪らず、佑は腕枕をしていた香澄の額にキスをした。
香澄は血色のいい唇を半開きにして平和に寝ている。
(……この時間が永遠に続けばいいな。仕事も人付き合いも置いて、ホテルに籠もってセックスばっかりしていたい)
駄目人間の思考回路になり、そんな自分に笑みが漏れる。
だが、ふ……と真顔になり、彼女を悩ませてしまった事について考えた。
(出会ってすぐ『結婚したい』なんて、我ながら盲目になっていた。香澄が事故に遭ったのはエミリアのせいだけど、式を挙げようと動いた時にストップがかかったから、冷静になる時間を得られた、逆に悩む心の余裕ができたというか)
あの事故は必然だった。
エミリアに頼まれてフランクが汚い条件を出し、可哀想な老人にアクセルを踏ませた。
その事を思うと心の奥底に黒い炎が燃え立つ。
(……駄目だ。また暴走する。……抑えろ)
自分の中に、これほど誰かを憎む感情が生まれるとは思っていなかった。
相手を殺したくなるほどの憎悪。体が震え、体調がおかしくなるほどの怒り。
さまざまな負の感情がごちゃ混ぜになって、グラグラと煮えている。
体重を預けてくる佑は、まるで大型犬のようだ。
全身全霊で香澄を守り、やりすぎると反省してすり寄ってくる。
香澄を愛しすぎるがゆえに、タガが外れてしまう人なのだと思うと、愛しくて堪らない。
たとえそれが世間に〝病んだ愛〟だと思われても、香澄には関係ないし愛し返したい。
「……今日はもう、寝よっか」
「……ああ。せっかくの余韻を台無しにしてごめん」
「ううん。このチェーンとかも、取っていい?」
「ん、俺が外してあげる」
佑が起き上がり、まだ濡れている香澄の秘唇からリングを外す。
「痛くなかったか?」
「……ちょっと違和感あるけど、大丈夫」
チェーンハーネスやほとんど紐のパンティも脱ぎ、香澄は生まれたままの姿になってホッと息をつく。
「佑さん、玩具使いたかった人?」
羽根布団の下に隠されていた玩具の事を言うと、佑は悪びれもせず笑う。
「使いたかった」
「もー」
苦笑いすると、佑はきまり悪そうに笑って言い訳をした。
「少し不安定だったから、香澄に甘えたかった。香澄は何をしても俺を受け入れてくれるって、試したかったんだと思う。……好きな人を試すなんて、最低なやり方だ」
もうすっかり冷静になった佑を見て、香澄は安堵した。
「気にしないで。私たちは、好き合ってる最強カップルだよ。何回も言ったけど、痛い事やハードSMとか、汚い事じゃなかったら、私は受け入れるよ。それに佑さんがどれだけ自分を追い詰めても、そんな姿すら愛しいと思っちゃう。OK?」
そう言って微笑むと、佑はギュッと抱き締めてきた。
「ありがとう。愛してる」
耳元で告白されて香澄は幸せ一杯に微笑む。
そのあとはゴロゴロして、眠りについた。
**
何とか誤魔化して眠ったものの、佑の眠りは浅かった。
翌朝も早朝に目が覚め、くぅくぅと眠る香澄の体温を感じながら、ぼんやりと考え事をする。
(香澄は『すべてを見せてほしい』と言ってくれたけど、さすがにすべて知ったら『重い』と言うだろう。冗談ではなくて、ずっと家にいて俺の事だけ考えていてほしいって本気で思っている。その重さや執着を知られたら……別れるって言われかねない)
大人になって学んだのは、沈黙が美徳であるという事だ。
自他共に認めるように、佑がここまで執着する女性は香澄が初めてだ。
それまでの女性とはドライに付き合っていたし、結婚を考えた美智瑠にも「嫌われたら死ぬかも」など思わなかった。
美智瑠が自分のもとを去っても、追いかけて復縁しようと思わなかった。
名残惜しさや申し訳なさはあったが、当時の佑は体調を崩して精神的にも参っていたため、同時に複数の〝大切〟を作れなかった。
三十歳を越してChief Everyが安定して売り上げを伸ばしているのも、香澄に夢中になれる原因の一つだと思う。
二十代は会社を育てるのに精一杯で、美智瑠とゆっくり過ごし、彼女を喜ばせるような付き合い方ができなかった。
(香澄ともっと早くに出会いたかった。……でも二十代の俺なら、頼りなくて駄目だったろう。きっと香澄と付き合えているのは〝今〟だからだ。出会いが札幌なのも、彼女がバニーガールの格好をしていたのも、すべてタイミング。……そう思えば、全部運命的じゃないか)
堪らず、佑は腕枕をしていた香澄の額にキスをした。
香澄は血色のいい唇を半開きにして平和に寝ている。
(……この時間が永遠に続けばいいな。仕事も人付き合いも置いて、ホテルに籠もってセックスばっかりしていたい)
駄目人間の思考回路になり、そんな自分に笑みが漏れる。
だが、ふ……と真顔になり、彼女を悩ませてしまった事について考えた。
(出会ってすぐ『結婚したい』なんて、我ながら盲目になっていた。香澄が事故に遭ったのはエミリアのせいだけど、式を挙げようと動いた時にストップがかかったから、冷静になる時間を得られた、逆に悩む心の余裕ができたというか)
あの事故は必然だった。
エミリアに頼まれてフランクが汚い条件を出し、可哀想な老人にアクセルを踏ませた。
その事を思うと心の奥底に黒い炎が燃え立つ。
(……駄目だ。また暴走する。……抑えろ)
自分の中に、これほど誰かを憎む感情が生まれるとは思っていなかった。
相手を殺したくなるほどの憎悪。体が震え、体調がおかしくなるほどの怒り。
さまざまな負の感情がごちゃ混ぜになって、グラグラと煮えている。
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