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第十二部・パリ 編
守ってくれて、ありがとう
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ワイドショーでコメンテーターたちが知ったように言っているのは、台本通りの言葉だ。
テレビショーとして求められているのは、お茶の間の主婦層の興味関心を煽り、その不満や同意を引き出して視聴率を上げる事だ。
ネットニュースだって思わず目を疑うような見出しで読ませ、閲覧数を稼ぐ
現代の人は日々のストレスを、〝世間〟が悪としている事に怒って叩く事で発散している気がする。
勿論、炎上騒ぎに加担している人は、ごく一部だという統計が出ているのは知っている。
それでも火をつけようとする人の執念深さや、面白がって燃やそうとする人たちの無責任さは恐ろしい。
自分がまさかそれに巻き込まれるとは思わなかったし、佑が今まで常にそういうものに晒されていたと思うだけで胸が痛む。
好きな人が悪く言われているのを見たくないので、香澄は今まで佑について積極的に検索していなかった。
幸いにも、検索してすぐ出てくるのは彼を称賛する言葉や、Chief EveryやCEPなどについての記事だ。
けれど深く検索していけば、必ずネガティブな話題が出てくる。
その手のものは絶対見るまいと思っていた。
香澄の質問に佑は苦笑いをして答える。
「んー……。最初は当然慣れなかったよ。俺だって普通の男子学生だった。クォーターとか少し背が高いとか、そういう外見的な要素で目立ってはいたけど、登校して友達とつるんで、ちょっとした事で笑って怒って……って学生時代だった。それが真澄と起業しようってなってから、めまぐるしいスピードで変化していった」
「どのへんで慣れた?」
「二十代半ばで一回壊れた時には、もうどうでもよくなっていたかな。やめてほしいと思っても、写真を撮る人は撮る。そもそも有名人であれ一般人であれ、他人に気を遣う心の余裕のある人はそんな事をしない」
壊れた、とあっさり言われて、胸の奥が痛くなった。
「基本的に俺は気心知れた友人と仲良くできていたら、他の有象無象にはどう思われても構わないと思っていた。学生時代から多少騒がれていたから、注目される免疫があったのかな。だから早い段階から割り切れていたと思う」
「……そっかぁ……」
香澄はコロンと仰向けになり、溜め息をつく。
「そういう風になれるかな? 私、いまだに気持ちが田舎者なの。故郷をディスる訳じゃないけど、札幌って東京に比べたらずっと雰囲気がのんびりしてる。電車やバスの数だって比べものにならないし、人口も違う。東京は経済の中心地で、何もかも慌ただしい。……それにまだ慣れていない自分がいるの」
佑は香澄の頭を撫で、微笑む。
「香澄はまじめで誠実なんだと思うよ。一つ一つの事に、丁寧に対処しようとする。普通の人なら受け流す事を、悪く言えばできない。すべてきちんと受け止めて、精一杯対処しようとする。……そういう所、まじめで愛しいなって思うけど、すぐ疲れてしまいそうだな、とも思う」
彼の言葉を聞き、「確かに」と思った。
まじめと言われたら美点に思えるが、逆を言えば融通が利かなくて頑固とも言える。
香澄だって自分の欠点が、応用の利かないところだと分かっている。
「私、佑さんと一緒にいたい。それは心に決めてる。……でも動物園のパンダみたいに扱われるのはまだ慣れないな。〝秘書Aさん〟として話題になっちゃったけど、私は〝表〟に出る人じゃない」
少し憂鬱になって言うと、佑はケロリとして言う。
「嫌なら徹底して守るよ。メディアには脅しをかけてるけど、もっときつくしてもいい」
「えっ?」
「脅し」という不穏な単語を聞いて、香澄はハッと佑を見る。
すると彼はニッコリといい笑みを浮かべた。
思わぬところで佑が権力と金を使っていて、香澄は言葉を失った。
「あ、引いた?」
「ううん。ちょっとびっくりして」
香澄はコロリとまた佑の方を向き、彼の胸板にキスをした。
「……守ってくれて、ありがとう。私いつも、見えないところで佑さんに守られているんだね」
さっき佑が苦しんでいた理由だって、香澄には見えない部分の事だ。
何とも言えない気持ちになり、香澄はギュッと彼を抱き締めた。
そんな彼女を抱き締め返し、佑はコツンと頭をぶつけてきた。
「……俺だってありがとう。こんな愛情が重たすぎる男の側にいてくれてありがとう。いつも勢いのままやらかしてから、愛想を尽かされるんじゃないかってビクビクしてる」
苦笑混じりに言ったあと、彼は首元に顔を埋めてきた。
テレビショーとして求められているのは、お茶の間の主婦層の興味関心を煽り、その不満や同意を引き出して視聴率を上げる事だ。
ネットニュースだって思わず目を疑うような見出しで読ませ、閲覧数を稼ぐ
現代の人は日々のストレスを、〝世間〟が悪としている事に怒って叩く事で発散している気がする。
勿論、炎上騒ぎに加担している人は、ごく一部だという統計が出ているのは知っている。
それでも火をつけようとする人の執念深さや、面白がって燃やそうとする人たちの無責任さは恐ろしい。
自分がまさかそれに巻き込まれるとは思わなかったし、佑が今まで常にそういうものに晒されていたと思うだけで胸が痛む。
好きな人が悪く言われているのを見たくないので、香澄は今まで佑について積極的に検索していなかった。
幸いにも、検索してすぐ出てくるのは彼を称賛する言葉や、Chief EveryやCEPなどについての記事だ。
けれど深く検索していけば、必ずネガティブな話題が出てくる。
その手のものは絶対見るまいと思っていた。
香澄の質問に佑は苦笑いをして答える。
「んー……。最初は当然慣れなかったよ。俺だって普通の男子学生だった。クォーターとか少し背が高いとか、そういう外見的な要素で目立ってはいたけど、登校して友達とつるんで、ちょっとした事で笑って怒って……って学生時代だった。それが真澄と起業しようってなってから、めまぐるしいスピードで変化していった」
「どのへんで慣れた?」
「二十代半ばで一回壊れた時には、もうどうでもよくなっていたかな。やめてほしいと思っても、写真を撮る人は撮る。そもそも有名人であれ一般人であれ、他人に気を遣う心の余裕のある人はそんな事をしない」
壊れた、とあっさり言われて、胸の奥が痛くなった。
「基本的に俺は気心知れた友人と仲良くできていたら、他の有象無象にはどう思われても構わないと思っていた。学生時代から多少騒がれていたから、注目される免疫があったのかな。だから早い段階から割り切れていたと思う」
「……そっかぁ……」
香澄はコロンと仰向けになり、溜め息をつく。
「そういう風になれるかな? 私、いまだに気持ちが田舎者なの。故郷をディスる訳じゃないけど、札幌って東京に比べたらずっと雰囲気がのんびりしてる。電車やバスの数だって比べものにならないし、人口も違う。東京は経済の中心地で、何もかも慌ただしい。……それにまだ慣れていない自分がいるの」
佑は香澄の頭を撫で、微笑む。
「香澄はまじめで誠実なんだと思うよ。一つ一つの事に、丁寧に対処しようとする。普通の人なら受け流す事を、悪く言えばできない。すべてきちんと受け止めて、精一杯対処しようとする。……そういう所、まじめで愛しいなって思うけど、すぐ疲れてしまいそうだな、とも思う」
彼の言葉を聞き、「確かに」と思った。
まじめと言われたら美点に思えるが、逆を言えば融通が利かなくて頑固とも言える。
香澄だって自分の欠点が、応用の利かないところだと分かっている。
「私、佑さんと一緒にいたい。それは心に決めてる。……でも動物園のパンダみたいに扱われるのはまだ慣れないな。〝秘書Aさん〟として話題になっちゃったけど、私は〝表〟に出る人じゃない」
少し憂鬱になって言うと、佑はケロリとして言う。
「嫌なら徹底して守るよ。メディアには脅しをかけてるけど、もっときつくしてもいい」
「えっ?」
「脅し」という不穏な単語を聞いて、香澄はハッと佑を見る。
すると彼はニッコリといい笑みを浮かべた。
思わぬところで佑が権力と金を使っていて、香澄は言葉を失った。
「あ、引いた?」
「ううん。ちょっとびっくりして」
香澄はコロリとまた佑の方を向き、彼の胸板にキスをした。
「……守ってくれて、ありがとう。私いつも、見えないところで佑さんに守られているんだね」
さっき佑が苦しんでいた理由だって、香澄には見えない部分の事だ。
何とも言えない気持ちになり、香澄はギュッと彼を抱き締めた。
そんな彼女を抱き締め返し、佑はコツンと頭をぶつけてきた。
「……俺だってありがとう。こんな愛情が重たすぎる男の側にいてくれてありがとう。いつも勢いのままやらかしてから、愛想を尽かされるんじゃないかってビクビクしてる」
苦笑混じりに言ったあと、彼は首元に顔を埋めてきた。
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「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
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