上 下
759 / 1,549
第十二部・パリ 編

守ってくれて、ありがとう

しおりを挟む
 ワイドショーでコメンテーターたちが知ったように言っているのは、台本通りの言葉だ。

 テレビショーとして求められているのは、お茶の間の主婦層の興味関心を煽り、その不満や同意を引き出して視聴率を上げる事だ。

 ネットニュースだって思わず目を疑うような見出しで読ませ、閲覧数を稼ぐ

 現代の人は日々のストレスを、〝世間〟が悪としている事に怒って叩く事で発散している気がする。

 勿論、炎上騒ぎに加担している人は、ごく一部だという統計が出ているのは知っている。

 それでも火をつけようとする人の執念深さや、面白がって燃やそうとする人たちの無責任さは恐ろしい。

 自分がまさかそれに巻き込まれるとは思わなかったし、佑が今まで常にそういうものに晒されていたと思うだけで胸が痛む。

 好きな人が悪く言われているのを見たくないので、香澄は今まで佑について積極的に検索していなかった。

 幸いにも、検索してすぐ出てくるのは彼を称賛する言葉や、Chief EveryやCEPなどについての記事だ。

 けれど深く検索していけば、必ずネガティブな話題が出てくる。

 その手のものは絶対見るまいと思っていた。

 香澄の質問に佑は苦笑いをして答える。

「んー……。最初は当然慣れなかったよ。俺だって普通の男子学生だった。クォーターとか少し背が高いとか、そういう外見的な要素で目立ってはいたけど、登校して友達とつるんで、ちょっとした事で笑って怒って……って学生時代だった。それが真澄と起業しようってなってから、めまぐるしいスピードで変化していった」

「どのへんで慣れた?」

「二十代半ばで一回壊れた時には、もうどうでもよくなっていたかな。やめてほしいと思っても、写真を撮る人は撮る。そもそも有名人であれ一般人であれ、他人に気を遣う心の余裕のある人はそんな事をしない」

 壊れた、とあっさり言われて、胸の奥が痛くなった。

「基本的に俺は気心知れた友人と仲良くできていたら、他の有象無象にはどう思われても構わないと思っていた。学生時代から多少騒がれていたから、注目される免疫があったのかな。だから早い段階から割り切れていたと思う」

「……そっかぁ……」

 香澄はコロンと仰向けになり、溜め息をつく。

「そういう風になれるかな? 私、いまだに気持ちが田舎者なの。故郷をディスる訳じゃないけど、札幌って東京に比べたらずっと雰囲気がのんびりしてる。電車やバスの数だって比べものにならないし、人口も違う。東京は経済の中心地で、何もかも慌ただしい。……それにまだ慣れていない自分がいるの」

 佑は香澄の頭を撫で、微笑む。

「香澄はまじめで誠実なんだと思うよ。一つ一つの事に、丁寧に対処しようとする。普通の人なら受け流す事を、悪く言えばできない。すべてきちんと受け止めて、精一杯対処しようとする。……そういう所、まじめで愛しいなって思うけど、すぐ疲れてしまいそうだな、とも思う」

 彼の言葉を聞き、「確かに」と思った。

 まじめと言われたら美点に思えるが、逆を言えば融通が利かなくて頑固とも言える。

 香澄だって自分の欠点が、応用の利かないところだと分かっている。

「私、佑さんと一緒にいたい。それは心に決めてる。……でも動物園のパンダみたいに扱われるのはまだ慣れないな。〝秘書Aさん〟として話題になっちゃったけど、私は〝表〟に出る人じゃない」

 少し憂鬱になって言うと、佑はケロリとして言う。

「嫌なら徹底して守るよ。メディアには脅しをかけてるけど、もっときつくしてもいい」

「えっ?」

「脅し」という不穏な単語を聞いて、香澄はハッと佑を見る。
 すると彼はニッコリといい笑みを浮かべた。

 思わぬところで佑が権力と金を使っていて、香澄は言葉を失った。

「あ、引いた?」

「ううん。ちょっとびっくりして」

 香澄はコロリとまた佑の方を向き、彼の胸板にキスをした。

「……守ってくれて、ありがとう。私いつも、見えないところで佑さんに守られているんだね」

 さっき佑が苦しんでいた理由だって、香澄には見えない部分の事だ。

 何とも言えない気持ちになり、香澄はギュッと彼を抱き締めた。

 そんな彼女を抱き締め返し、佑はコツンと頭をぶつけてきた。

「……俺だってありがとう。こんな愛情が重たすぎる男の側にいてくれてありがとう。いつも勢いのままやらかしてから、愛想を尽かされるんじゃないかってビクビクしてる」

 苦笑混じりに言ったあと、彼は首元に顔を埋めてきた。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...