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第十二部・パリ 編

限界 ☆

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「っ…………!!」

 堪らず、佑は腕の中にいる清らかで華奢な存在を、力の限り抱き締めた。
 腰を震わせてドプドプと彼女の中に吐精しながら、華奢な彼女に縋り付く。

「……は……っ、――あぁ、――あぁあああ……っ」

 香澄が悩ましい吐息をつき、口内に溜まった唾液を嚥下して抱き締め返してきた。

 しばらく二人とも、荒くなった呼吸を繰り返して絶頂後の余韻を貪る。
 ふぅ、ふぅ、と息を整えていた香澄が、頭を撫でてきた。

「大丈夫だよ」

 耳元で聖母のような声がし、サラサラと髪を梳る。

「……分からないけど、大丈夫」

 胸板に柔らかな乳房を押しつけ、佑だけの聖母が彼を救済しようとする。

「……俺は香澄を駄目にする」

 そんな風に、弱気で香澄を手放しそうな言葉は、いつもの彼なら絶対に口にしなかっただろう。

 御劔佑という男は、もっとタフで愛する女に弱音など吐かない。

「私はそう簡単に駄目になったりしないよ」

 佑の剛直に貫かれ媚肉をヒクつかせつつも、香澄は毅然と言いきる。

「俺の手は真っ黒に汚れている。香澄の知らない、裏側の顔もある」

「経営者なんて、そんなものでしょ。私だって子供じゃないもの。佑さん、私を何だと思ってるの? あなたの秘書だよ?」

 小さな手で佑の頬を包み、香澄はまっすぐに見つめてくる。

 清らかな彼女が堪らなく愛しくて、遠くて、――憎く思う時すらある。

「……俺は心の底では、香澄を汚したいって思ってる。グチャグチャのドロドロにして、可愛い顔で綺麗な事を言えないようにしてやりたくなる」

 佑は乾いた笑みを浮かべ、本音の一欠片を口にだす。

 傷付いた目で試すように彼女を見ると、さすがに目を丸くしていた。

「俺の事しか考えられないようにして、俺がいないと生きられないようにしたい。正直、秘書として働かなくたっていい。家に閉じ込めて、誰にも会わせないで俺の顔と体だけ覚えて生きてくれればいいって、何度も思ってるよ」

 佑は唇を歪め、さあどうすると香澄に目で問う。

 好きな人を困らせて試すなど、最低な人間のする事だ。
 分かっているのに、深く傷ついた佑はそうしなければ香澄の気持ちを信じられないような気がしていた。

 あまりに自分の抱えた闇が重たく、手に余って全身に纏わり付いてくる。


 彼は耐えきれず、音を上げたのだ。





 香澄は両手で挟んだ佑の秀麗な顔を凝視し、彼の本意を探っていた。

 言われなくても分かっている。

 彼はいま、とんでもなく打ちのめされて弱っている。

 調子が悪そうだなと思っていたが、とうとう限界を迎えてしまったのだ。

「佑さん、疲れてるでしょ。とっても傷ついて、私を試すような事を言わなきゃいけないぐらい、自分を見失いかけてる」

 いつもなら佑は堂々としていて自信に溢れ、余裕たっぷりに香澄を翻弄する。
 けれど今の佑の目は、刹那的な感情にまかせ、本心ではない事を口走っている。

「佑さんがいま言った、ヤンデレの権化みたいな言葉も、ある意味本音なんだと思う。でも私は、本当はそうじゃない事を知ってるよ」

「……本当の俺ってなんだ?」

 静かに問われ、香澄は溜め息をつき彼を抱き締めた。

「……落ち着いて」

「落ち着いてるよ」

 お互い、言ってはいけない言葉を口走りそうな、ギリギリのラインに立っている。

「……お願い、ちゃんと話したいから、尻尾止めて、抜いて」

 いまだ震えている尻尾の存在を口にすると、佑は黙ってリモコンを手に取り、スイッチを切ってくれた。
 彼の手がうさぎの尻尾にかかり、ぐぷ……とアナルプラグが慎重に抜かれる。

 それはもう、このお遊びが終わる事を意味していた。

「佑さん、寝よ」

 優しく呼びかけ、香澄は羽根布団の中に潜る。
 寄り添った佑の頭を、香澄は優しく抱き締めた。

 そして彼の気持ちを落ち着かせるために、手を握って自分の乳房を揉ませた。

「あのね、私の体なら好きにしていいよ。佑さんがしたいなら、大人の玩具を使っても、多少SMチックな事をしても構わない。私は何をされても、佑さんを嫌いにならない。一年近く一緒に住んでいるから、新しい性癖を見せても、心の闇を見せても動じない。多少驚くけど、好きだし結婚したいって思ってるから受け入れられるの。……それは、分かってくれるよね? 自信過剰みたいに聞こえるけど、佑さんだって私の事をそう思ってくれてるでしょ?」

「……ああ」

 頷いた佑の髪を撫で、その額に唇を押しつける。
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