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第十二部・パリ 編

自分たちの関係はそれでいい

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「すごい……。可愛い」

「もー……。やだ……」

 反射的に閉じかかった香澄の太腿を、佑は手で押さえてスリスリと撫でる。

「すっごいやらしい」

「……でしょうとも」

 恥ずかしくて半ば投げやりになった香澄は、両手で秘部を覆う代わりに顔を隠した。

「……ごめん、香澄。こんな事させて幻滅した? 変態で引いたか?」

 さすがに佑も思うところがあったのか、香澄の顔を覗き込むようにして尋ねる。

 香澄は指の間からチラッと佑を見て、小さく首を横に振った。

「……いいの。何があっても佑さんが好きだからいいの。凄く痛い事じゃない限り、佑さんが悦んでくれるなら、できるだけ応えたい。……でも応えちゃう私って、淫乱なんじゃないかって、それが恥ずかしくて……」

 言い訳をしながら、香澄はどんどん小声になっていく。

「いつも言ってるけど、俺だけに淫乱なら最高だよ」

 とろけるように笑われると、思わず香澄も微笑んでしまう。

「大好きな香澄には、沢山エロい格好をしてほしいって思う。でも〝スペシャル〟を毎回してたら刺激がなくなる。だから本当にたまに」

「うん、分かってるよ。今回は特別」

 香澄は足をそろえて床に下ろすと、佑の顔を両手で包んでちゅっとキスをした。

「佑さんは弱みを私にあまり見せないけど、パリにくる前から雰囲気がおかしかったのは分かってるの。『人に会う』って言っていたのは、誰の事か分からないけど、……嫌な事があったんでしょ?」

 香澄は濡れた佑の髪を撫で、彼の額に優しくキスをする。

 図星だったのか、佑は曖昧に微笑んだまま何も答えない。

 言ってくれなくてもいいと、香澄は微笑んだ。

 彼は世界に名を馳せる凄い人で、自分では想像もつかない悩み事があって当然だ

 自分が彼の悩みを知っても、慰める事すらできないかもしれない。
 だから、教えてくれなくてもいいから、彼が癒やしとして自分を求めるのなら、できるだけ応えたい。

 自分たちの関係はそれでいいのだと思っていた。

「私じゃ頼りないかもしれないけど、話ならいつでも聞くからね。それに、こんな事で佑さんの落ち込みが解消されるなら、おやすいご用だもの。……だからと言って、ホントに毎回はダメだけどね」

 最後に悪戯っぽく笑うと、香澄は立ち上がった。

「……ありがとう」

 佑は今にも泣きそうな顔で笑い、彼女の手の甲にキスをする。

「どういたしまして」

 微笑んだ香澄は、空気をシリアスにしないよう、わざとおどけて歩いた。

「わ……っ、と。……んー……お股が閉じられない。変な感じ……」

 ぎこちなく歩いて洗面台の前まで行くと、鏡に映った自分の姿を見る。

「わぁぁ……。卑猥……」

 胸は丸出しで、秘部はフロントのみレースがあるけれど、秘唇からお尻は出ている。
 全裸といっていい格好なのに、全身にチェーンやパールがありとてもいやらしい。

 鏡の前に立っていると、温まった佑がバスタブから出てバスタオルで体を拭き始めた。

「可愛いだろ? 世界で一匹だけの俺のうさぎだ」

 そう言われた香澄は、ベルベットのうさ耳に触れ、後ろを向いてお尻に生えたフワフワの尻尾も確認する。
 股の間のリングは、歩くとチャラチャラと音がしていやらしい。

「……卑猥なうさぎ」
「そのうさぎは、これから俺に食べられるんだよ」

「……『注文の多い料理店』みたい」

 思わず言うと、佑が笑った。

 ――不意に、彼は何かを思いついた顔をする。

「生クリームプレイとかもいいな。今度やってみるか?」

「もぉ! すぐ変態に頭がいく。御劔社長の優秀な頭脳を欲している所は、沢山あるんですからね? 社長ってばすぐエッチな事を考えるんですから」

 半ばふざけて秘書モードになったが、佑は頭に被ったタオルの間からジッとこちらを見ている。

「……なに」

「……香澄が秘書に復帰したら、すぐ盛りそうでヤバいな」

「だっ、駄目だからね!? お仕事中は絶対ダメ! 会社は聖域です」

 言い捨ててトコトコとバスルームを出ると、後ろから佑の笑い声が聞こえた。





 先にバスルームを出たはいいけれど、どこでどう待っていたらいいのか分からない。

 そもそも〝待っている〟というのも、これからの展開を歓迎しているようで恥ずかしい。

 結局、香澄は続き部屋の間をうろうろとしていたのだが、ドライヤーで髪を乾かした佑にうろつく姿を笑われてしまった。
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