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第十二部・パリ 編

動画

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 潤んだ目で佑を振り向くと、彼はネクタイを緩めている。

「する……の?」

 クスンと鼻を鳴らし尋ねると、彼は含みのある笑みを浮かべた。

「欲しいならすぐ始めてもいいけど、少し慣らしてからにしよう。風呂に入っておきたいし」

「あ、そっ……か。う、うん。どうぞ、ごゆっくり……」

 アナルプラグを入れられたからといって、すぐに〝ご褒美〟を期待してしまった自分が恥ずかしい。

(そっか、そうだよね。さっきお風呂どうぞって自分で言ったもん)

 いやらしい事で頭がいっぱいになってしまい、赤面する。

 これが〝焦らしプレイ〟の一環とは気づかず、香澄はごまかし笑いを浮かべて「どうぞどうぞ」とバスルームのほうを手で示した。

 佑は「ありがとう」と微笑み、スーツを脱いでウォークインクローゼットのハンガーに掛け、下着姿でバスルームに向かった。

(どうしよう……。ここで待ってたらいいのかな)

 迷った香澄は一瞬佑の後を追おうとしたが、スマホがピコンと音を立てたのを聞いて、それを手にする。

(〝いつもの感じ〟でスマホを弄ってたら、お尻のやつを意識しなくて済むかも)

 そう思い、努めて平静を装って通知を確認していく。

(そうだ、フェルナンドさんの連絡先を消さないと)

 そう思ってコネクターナウのトーク画面を開くと、彼から新しくメッセージが入っていた。

(気付かなかった)

 香澄はマメにスマホの通知をチェックし、アプリに赤いバッジが溜まらないようにするタイプだ。
 けれどヨーロッパに来てからの毎日は慌ただしく、麻衣とのやりとりも停滞させてしまう時もあった。

 もっとも麻衣は即レスしなければ駄目など言わないので、「いつでもいいよ」と言ってくれているのでありがたい。

 香澄はお尻に違和感を覚えつつ、フェルナンドとのトークルームをチェックする。

『プールではごめんね。ナンパのように思ったならすまない。俺はただ君と友達になりたかったんだ。でも縁がなかったなら諦めるよ』

 そんなメッセージを見ると、何だか申し訳なくなる。

『お詫びに、うちの会社のPR動画見てくれる? 綺麗に撮影できたから気に入ってるんだ。日本だとスペインのCMも見られないだろ?』

 動画のサムネイルには、カラフルな洋服に身を包んだ女性が映っている。

(なんだろ……。綺麗そう)

 動画をタップすると、英語で『ダウンロードしますか?』という確認画面が出たので、「Yes」をタップする。

 すると画面が大きくなり、動画が再生された。

 アクティブなBGMと同時に、ファッションショーのようにモデルがカラフルな洋服を着てキャットウォークをしている。

 それを何度も挟むように、スペイン国内とおぼしき景色や観光地、海の映像が挟まる。
 咲き誇る花のCGエフェクトがあり、見るも鮮やかで美しい動画だ。

(あれ? フェルナンドさんの会社って、海運じゃなかったっけ? 服飾の会社も兼ねてるのかな?)

 六十秒のCMが終わる頃に、『Diosa del mar』という社名ロゴがアップになり、動画が終わった。

(……綺麗だったなぁ)

 最後に「Thank you!」と出たので画面を戻し、フェルナンドからの最後のメッセージを見る。

『カスミのこれからに、幸あらんことを』

 それ以降フェルナンドからの連絡はない。

 彼からメッセージがあったのは、どうやらプールで会ったあの日らしい。

(……気付かなくて申し訳なかったな。せめて『ありがとう』とか『ごめんなさい』とか言えたら良かったけど。今だともう遅いし、今さらお返事をしたら、変に気を持たせちゃうよね)

 慎重に考えた香澄は、断腸の思いでフェルナンドの連絡先を削除した。

「……ごめんなさい」

 ふぅ、と呟いた時、いきなりうさぎの尻尾がヴィィィ……と震えた。

「っきゃあ!」

 文字通り飛び上がって驚いた香澄は、「え? え?」と混乱してその場でトントンと足踏みをする。

「っ佑さん!」

 香澄はスマホをポイッとベッドの上に放り投げ、ピョコピョコと跳ねながらバスルームに向かった。
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