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第十二部・パリ 編

パールとハーネス

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 けれど〝親切に案内してくれた人〟という印象が強いので、どこか申し訳ない気持ちもある。

「あ、そうだ」

 香澄はフェルナンドと連絡先を交換したのを思いだした。
 いつも佑や麻衣、家族など限られた人以外は確認を後回しにしているので、もしかしたらフェルナンドからもメッセージが入っているかもしれない。

(もしきてたら、連絡はできませんって謝らないと)

 そう思うとすぐ行動をした方がいい気がし、香澄はバスルームから出てバスタオルで体を拭く。

 それはそうと、ヨーロッパのタオルは重たい。

 こちらはタオルの密度が濃く、重量があるし大きい。
 恐らく外国人の体を包む大きさとして考えられているのだろうが、いかに日本のタオルが軽いかを思い知った。

 食器も重たく、西洋のテーブルマナーでは食器を持ち上げずに食べるので、納得を覚えた。

 なのでレストランで空になった皿を手や腕に何枚も重ねているウエイターを見ると、心の底から尊敬する。

 香澄も八谷で働いていた時、アルバイトの手が足りない時は自ら食事や飲み物を運んだ。

 特に『月見茶屋』でジョッキの大量オーダーがあると、両手に中ジョッキを六つずつ持っていた。なので腕力には少し自信がある。

(……懐かしいなぁ)

 札幌時代を思い出しつつ、香澄は髪の毛に洗い流さないトリートメントを塗る。
 フェイスケアをしっかりしてから、体にも化粧水を塗ってジョン・アルクールのボディクリームを塗った。

 それから持参してきた日本のドライヤーで髪を乾かす。
 勿論、変圧器があるので問題なく使える。

 マイナスイオンやら、色々いいものが出ているらしいドライヤーを使い終わると、髪の毛はツヤツヤサラサラになった。

 下着をつけてこれも買ってもらったばかりの、ハイブランドのガウンを羽織ってバスルームを出ると、佑がリビングのソファに座っていた。

「あれ、お帰りなさい」

「ただいま。先に入ってたのか。一緒に入ろうと思ったのに」

「んふふ、お先に頂きました。佑さんも入ったら?」

「あぁ、そうだけど……。忘れてないよな?」

 そう言って佑が示したのは、テーブルの上に置かれてあるオーバードの包みだ。
 一瞬にして真っ赤になった香澄は、裸より恥ずかしい下着を思いだす。

「今着けてみてくれるか?」

「う、うーん……。……わ、……かった」

 了承すると、彼が紙袋から薄紙に包まれた下着――もとい、ちょっとのレースとパール、そしてチェーンを取りだす。

「…………」

 香澄はそれを手に取り、首をひねる。

(レースの穴あきパンツはともかく、このハーネスってどうやって着けるんだろう?)

 手に持ったまましげしげと眺めていると、佑が香澄のガウンを脱がせた。
 思わず両手で体を隠し、香澄は「むー」と佑を軽く睨んだ。

「着替えてくるから、フライングはダメ」

 ぷりぷりとしたお尻を片手で隠し、香澄はベッドルームに駆け込んだ。

(えっと……)

 とりあえず着けたばかりの下着を脱ぎ、香澄は下着とも言えないレースとチェーンを見て苦笑いする。

(……佑さんを元気づけるためだもんね。本当に最近元気なかったし)

 手に取ったパンティ――のように見えるレースとパールの紐は、後ろがスッカスカだ。
 けれどかろうじてフロントにレースがあるので、まだ救いがある。

(スケスケレースをこんなに頼もしく思う日がくるとは……)

 パンティに脚を通すと、尻たぶにパールが当たってヒヤリと冷たい。
 お尻の割れ目で、パールがドレープカーテンのように左右に広がっているデザインだ。

「うー……」

(クロッチは一応あるけど、後ろ……お尻が丸見え……!)

 佑に見せる前から顔が真っ赤だ。

 次にチェーンハーネスを手に取る。

(これは……。チョーカーをまずつけるのかな?)

 ベルベットのチョーカーから伸びているチェーンは、どうやら首から胸の谷間を通って脇を通り、背中で合流して首の後ろに戻るのが正解らしい。
 理解したあと、チョーカーの金具を外して体にチェーンを通す。

 そして再びチョーカーの金具を止めようとしていると、佑の声がした。

「香澄」

「へぁっ!」

 ドッキーン! と鼓動が跳ね上がり、文字通り香澄は小さく飛び上がった。
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