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第十二部・パリ 編

双子へのメッセージ

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 エレベーターで最上階までいくと、そこは276メートルの高さだ。

 最上階には、ギュスターブ・エッフェルのオフィスが再現されていた。

「んひひ……。高い。怖い」

 高いところにくると、また変な笑いが漏れる。

「香澄が壊れた所を見るのは面白いな」

 しっかり自分の腕に掴まらせ、佑はスマホで動画を撮ってくる。

「もぉ! すぐ動画撮るクセ禁止!」

 香澄が佑の胸板をぺんと叩いた時、「すぐ動画撮るクセ」に反応したのか、背後で呉代がゴフッと咳き込んだ。

「……? 呉代さん?」

「い、いえ。何でもありません」

 何かを想像したらしい呉代を、佑は冷ややかな目で睨む。

 その後ゆっくりと最上階を一周して、パリの街並みを眺望した。

「そろそろ下りようか」

「うん」

 またエレベーターに乗って地上まで下りると、今度はセーヌ河沿いに歩いてホテルまで戻るコースだ。

 少し寒いけれど、セーヌ河沿いを佑と手を繋いでブラブラ歩けるなんて、人生のご褒美に思える。

「ねぇ、佑さん。私幸せ」

「ん? 俺も幸せだよ」

 一か月離れていたからこそ、以前より互いを想う気持ちが深まった気がする。
 意図的に試練として空けた一か月ではなかったが、雨降って地固まるという感じになれた。

「東京だとこんな風にデートできないだろうね」

「そうだな。俺は日本人だから、日本人のファンが多いのは道理だ。中には海外から熱烈なコールもあるけど……。たまにジャストフォトのハッシュタグを追ってると、俺へのメッセージを動画で撮ってくれてる人とかいるよ。オープンな表現を見てると、たまに双子を思いだす」

 そこまで言って、「一応フォローはしてるけど、特に気にしてあいつらのSNSは見ないけど」と付け足すのが面白い。

「そうだ、ドイツに行ったんでしょ? アロイスさんとクラウスさん、元気だった?」

「変わってないよ。あ、髪を切ってたかな」

「へぇ、見てみたい」

「あいつらからメッセージはないのか?」

「そうだね。以前の事があってから、連絡を控えているみたい。気にしてるのかな」

 何だかんだ、双子は優しい。
 自由奔放で人の迷惑を考えないと思われがちだが、根っこの所では常識人だ。

「私から連絡してみようかな」

「……パリでいちゃついてる写真でも送ってやろう」

 冗談めかした佑の言葉に、香澄はクスクス笑う。

「いいの? 写真撮っちゃうよ?」

「いいよ。どうせあいつらも予定があるから、すぐは来られないだろう。見せつけるだけ見せつけて、あとはローマに行くだけだ」

「もー、性格悪いなぁ」

 笑いながら香澄はスマホを取りだし、セーヌ川を背景に佑とのツーショットを撮ろうとする。

「撮るよ? はい、三、二、一」

 カシャッとシャッター音がし、香澄は満足して写真を確かめる。

「ちょっと待ってね。加工する」

 ちょいちょい、とアプリで彩度や明るさ、影などを調整したあと、香澄はコネクターナウを開く。
 そして柵にもたれかかり、メッセージを打った。

『アロイスさん、クラウスさん、お元気ですか? お久しぶりです。私はいまパリにいます。クレープやガレット、クロワッサン。美味しい物を沢山食べられて幸せです! 今日は凱旋門とエッフェル塔に行きました。佑さんからお元気そうだと伺いました。また今度会いましょうね』

 メッセージを打って送り、そのあと写真を送信した。
 するとすぐに既読がつき、少しの間があく。

「どうしたのかな? いつも即レスなんだけど」

 スマホを見ながらまたゆっくり歩き始めると、佑は香澄が転ばないように肩を抱いてくれる。

 少し待ってから諦め、スマホをしまおうとした時、ピロンピロンと凄まじい勢いで通知が鳴りだした。

「わっ」

「本当にあいつら極端だな」

「どれどれ……」

 笑いながらまたスマホを開くと、双子とのトークルームにメッセージとスタンプが溢れていた。
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