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第十二部・パリ 編

セーヌ川沿いでランチ

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 アーチの内側の天井は幾何学模様になっていて、とても美しい。

 門の下には第一次世界大戦で倒れた身元不明の戦死者の一人が、戦死した兵士の代表として葬られている。
 囲いの周りには花が捧げられ、火が灯されていた。

 毎日夕方六時頃になると、セレモニーが行われているそうだ。

 その後、凱旋門の中に入って階段を上り、展望台でパリの街並みを見た。

 相変わらずな河野に「はい、リア充」と写真を撮ってもらい、香澄は展望台の上でペコペコと頭を下げる。

 凱旋門を離れると昼時になっていたので、佑が予約してくれていたセーヌ河沿いのレストランに入った。

 名前を告げるとすぐ席に通され、コース料理をオーダーする。

 目の前にはセーヌ河とエッフェル塔が見え、最高のロケーションだ。

 白ワインをお供に、手で摘まめる一口のお楽しみを食べ、前菜はマグロのタルタルだ。

 小さく角切りにされたマグロを、セルクルという丸い型を使って形成し、その周りに野菜やトマトを散らしビネガーソースが掛けられている。

 タルタルは三層になっていて、真ん中にやはり角切りのアボカドがある。

「んんう、おいふぃ」

 以前はフレンチは特別な時にしか食べなかったが、佑といると週に一回はどこかでコースを食べている気がする。

 お次は上にセップ茸がのったリゾットだ。
 セップ茸はイタリアではポルチーニ茸と呼ばれている、例のキノコだ。

 魚料理はふっくらしたカレイにペースト状にしたバジルとパセリをのせ、その下に潰したじゃが芋、レモングラスのソースを添えた物だ。

 フレンチで魚料理の時は、平らなスプーン――フィッシュスプーンがよく出される。

 フォークを使わずとも柔らかく仕上げているので、ナイフで押さえてフィッシュスプーンの側面で切り、そのままのせて口に入れる。

 最初は珍しいカトラリーの使い方も分かっていなかったが、佑が優しく教えてくれたので今では普通に使えている。

 次に赤ワインが運ばれ、メインの肉料理だ。
 脂身のないスッキリとした鴨肉のローストに、スライスした黒トリュフが掛かっている。

「まだサマートリュフだな」

「トリュフに夏があるの?」

 佑の言葉に質問すると、彼は微笑んで教えてくれる。

「黒トリュフはサマートリュフとウィンタートリュフがあるんだ。それぞれ旬が違っていて、サマートリュフのほうが香りが弱いかな。いつも行っているフレンチレストランだと、南半球では冬だからオーストラリアのトリュフを使う所もある」

「ほぉ、なるほど」

「白トリュフは黒より高価で旬が短い。丁度今、秋頃が最盛期だな。帰国したら懇意にしているレストランで白トリュフを使ったガラディナーがあると思うから、一緒に行こう」

「う、うん」

 佑は通っている飲食店の株主で、レストランに行くと優待券を使って割引で食べられる。

 そのようにお得になる優待がありがたいのもあるし、「いつも通っている店を応援できたら」という気持ちで投資しているらしい。

 加えてレストランの支配人とも懇意にしていて、ディナーパーティーがあるたびに電話が来てお誘いを受けている。

 誰でも参加できるパーティーだが、毎回来ている食通もいて、そこからさらに交流が広がっているようだ。

 口直しの甘さ抑えめのシャーベットを食べたあと、旬のビオレソリエス――黒無花果を使ったデザートが出された。

「満腹……」

 コーヒーのお供に小菓子のマカロンをつまみ、たっぷり休んで再び歩き出す頃には、お腹がポンポンになってしまっていた。

 アルマ橋を渡ってセーヌ河を越えると、少し河沿いに歩いた所にエッフェル塔があった。

「やっぱり東京タワーと似てるね」

「同じトラス構造だよ。チケットあるけど、上ってみるか?」

「え!? 勿論! ありがとう!」

 毎度ながら佑と一緒にいると痒いところに手が届きまくる。

 普通なら世界的に有名な観光スポットで、スムーズに入場はできないだろう。
 当日券は勿論あるが、やはりとても混むので、事前にネットでチケット購入をするのが一番いいのだとか。

 エッフェル塔は一階、二階とソメと呼ばれる最上階で構成されている。

 一階には公式ショップがあり、グッズや土産物が売られている。
 他にも軽食コーナーやレストラン、催し物の会場もあった。

 二階にも同様に軽食コーナーや公式ショップがあり、マカロンの店もある。

「わ! これすごい。可愛い」

 ガラスケースの中にはマカロンでできたエッフェル塔があり、香澄は思わず写真を撮った。

「あそこにあるレストランは三つ星だよ」

「へぇ。こんな景色のいい場所で三つ星の味を味わえるって凄いね」

 ずっと「凄い」しか出てこなくて、もう少し語彙力を増やしたいところだ。
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