731 / 1,562
第十二部・パリ 編
パリのブランチ
しおりを挟む
「……私のおっぱいでいいなら、好きにしていいよ」
「……香澄のおっぱいじゃないと嫌だよ」
二人は互いの温もりを感じ、とりとめのない事を話す。
佑の調子が完全に戻ったと思える頃まで、香澄は努めて佑に甘えていた。
佑はパリでは仕事の予定がないようで、その日はホテルの部屋でゆったり過ごす事にした。
彼は観光に行ってもいいと言ってくれたのだが、どうにも朝の様子が気になってならない。
無理をさせたくないので、二人でジョン・アルクールのバスオイルをジェットバスに垂らし、いい香りに包まれて優雅なバスタイムを過ごした。
結局クロックムッシュを食べたのは、十一時が近くなってからだ。
ブランチになったので、佑はフロアコンシェルジュに少し腹に溜まるメニューを頼んだようだ。
白いプレートの上にはクロックムッシュがあり、たっぷりサラダが入ったボウルに、ハムやチーズの盛り合わせもある。
マッシュルームのオイル煮に、バスケットには焼きたてのクロワッサンが入っている。
おまけにデザートには高級そうなモンブランケーキもあった。
「わぁ、凄い! 豪華!」
テーブルの上に並べられた料理を見るだけで、SNS映えする。
香澄はスマホで写真を撮り、満足気に微笑む。
オレンジジュースとグレープフルーツジュースの入ったデキャンタもあり、佑は優雅にシャンパンだ。
「いただきます!」
ぱん、と胸の前で両手を合わせ、香澄はぺこぺこのお腹を癒やすためにフォークとナイフを手にした。
一度食べて病みつきになったクロワッサンにまず手が伸びて、皿の上でサクサクの生地を手でちぎった。
口に入れると、サクふわの食感にバターの香りがし、この上なく美味しい。
「んん~っ……。この一口のために生きてる……」
「どこかのおじさんみたいだよ」
佑はそう言って笑い、香澄もつられて笑顔になる。
香澄は何を食べても感動しているが、彼は慣れっこなのか普通に食事を進めていく。
クロワッサンを食べたあとはサラダをモシャモシャと食べ、キノコ類が大好きなのでマッシュルームに取り掛かる。
「ん! 美味しい! やっぱりキノコは外さない! 日本だとマッシュルームってマイナーだよね。こんなに沢山食べられるの嬉しい」
アヒージョのようなマッシュルームは、ほんの少しピリッと辛く絶妙に美味しい。
「佑さん、我が儘言っていい?」
「ん? 何でも言って」
香澄からのおねだりが珍しいのか、佑は嬉しそうに笑う。
「あのね、明日の朝もこのマッシュルーム食べたい。……というか、ボウル一杯ぐらいたっぷり食べたい……」
恥ずかしそうに小声でおねだりをすると、佑は横を向いて激しく噎せたあとに笑いだした。
「……そんなにおかしかった? ……ごめんね。食い意地張ってて……」
香澄はカァ……と赤面し、俯く。
それでも手は動き、フォークでマッシュルームを刺すと口に運んでいた。
「いや、ごめん。そうじゃない。香澄の〝我が儘〟があんまりにも可愛いから、拍子抜けして……。てっきりジュエリーか何か買って欲しいって言うかと思ったんだ」
佑はすぐ謝り、香澄も彼と自分の認識の差に思わず苦笑いになる。
「私、いつも宝石は要らないっていってるじゃない。ご飯から宝石の流れにはならないよ」
「……いや、俺が考えてたんだ。今着てるワンピースなら、どんな色のジュエリーが映えるかな? って思って」
食事前、佑に着てほしいと言われてハイブランドのワンピースを着ていた。
モノトーン柄に鮮やかな花柄が描かれていて、まさにパリを歩くに相応しい。
正直、ホテルの部屋なので気持ち的にはスウェットで十分だ。
けれどこの素晴らしいスイートルームで食事をするなら、きちんとした格好をしないといけないのかな、と思い、言われるがままお洒落をした。
ちなみに室内にはバトラーが控えていて、二人の飲み物がなくなりかけると注いでくれている。
「佑さん、宝石を買ったらきりがないでしょう。誕生石とか星座石とか、好きな色とか石の意味とか……。理由をつけて贈りたがるに決まっているんだから」
ブランド物の服を着て星付きホテルでブランチを取り、婚約者に余計な買い物をするなと文句を垂れ、我ながら何様かと思ってしまう。
「……香澄のおっぱいじゃないと嫌だよ」
二人は互いの温もりを感じ、とりとめのない事を話す。
佑の調子が完全に戻ったと思える頃まで、香澄は努めて佑に甘えていた。
佑はパリでは仕事の予定がないようで、その日はホテルの部屋でゆったり過ごす事にした。
彼は観光に行ってもいいと言ってくれたのだが、どうにも朝の様子が気になってならない。
無理をさせたくないので、二人でジョン・アルクールのバスオイルをジェットバスに垂らし、いい香りに包まれて優雅なバスタイムを過ごした。
結局クロックムッシュを食べたのは、十一時が近くなってからだ。
ブランチになったので、佑はフロアコンシェルジュに少し腹に溜まるメニューを頼んだようだ。
白いプレートの上にはクロックムッシュがあり、たっぷりサラダが入ったボウルに、ハムやチーズの盛り合わせもある。
マッシュルームのオイル煮に、バスケットには焼きたてのクロワッサンが入っている。
おまけにデザートには高級そうなモンブランケーキもあった。
「わぁ、凄い! 豪華!」
テーブルの上に並べられた料理を見るだけで、SNS映えする。
香澄はスマホで写真を撮り、満足気に微笑む。
オレンジジュースとグレープフルーツジュースの入ったデキャンタもあり、佑は優雅にシャンパンだ。
「いただきます!」
ぱん、と胸の前で両手を合わせ、香澄はぺこぺこのお腹を癒やすためにフォークとナイフを手にした。
一度食べて病みつきになったクロワッサンにまず手が伸びて、皿の上でサクサクの生地を手でちぎった。
口に入れると、サクふわの食感にバターの香りがし、この上なく美味しい。
「んん~っ……。この一口のために生きてる……」
「どこかのおじさんみたいだよ」
佑はそう言って笑い、香澄もつられて笑顔になる。
香澄は何を食べても感動しているが、彼は慣れっこなのか普通に食事を進めていく。
クロワッサンを食べたあとはサラダをモシャモシャと食べ、キノコ類が大好きなのでマッシュルームに取り掛かる。
「ん! 美味しい! やっぱりキノコは外さない! 日本だとマッシュルームってマイナーだよね。こんなに沢山食べられるの嬉しい」
アヒージョのようなマッシュルームは、ほんの少しピリッと辛く絶妙に美味しい。
「佑さん、我が儘言っていい?」
「ん? 何でも言って」
香澄からのおねだりが珍しいのか、佑は嬉しそうに笑う。
「あのね、明日の朝もこのマッシュルーム食べたい。……というか、ボウル一杯ぐらいたっぷり食べたい……」
恥ずかしそうに小声でおねだりをすると、佑は横を向いて激しく噎せたあとに笑いだした。
「……そんなにおかしかった? ……ごめんね。食い意地張ってて……」
香澄はカァ……と赤面し、俯く。
それでも手は動き、フォークでマッシュルームを刺すと口に運んでいた。
「いや、ごめん。そうじゃない。香澄の〝我が儘〟があんまりにも可愛いから、拍子抜けして……。てっきりジュエリーか何か買って欲しいって言うかと思ったんだ」
佑はすぐ謝り、香澄も彼と自分の認識の差に思わず苦笑いになる。
「私、いつも宝石は要らないっていってるじゃない。ご飯から宝石の流れにはならないよ」
「……いや、俺が考えてたんだ。今着てるワンピースなら、どんな色のジュエリーが映えるかな? って思って」
食事前、佑に着てほしいと言われてハイブランドのワンピースを着ていた。
モノトーン柄に鮮やかな花柄が描かれていて、まさにパリを歩くに相応しい。
正直、ホテルの部屋なので気持ち的にはスウェットで十分だ。
けれどこの素晴らしいスイートルームで食事をするなら、きちんとした格好をしないといけないのかな、と思い、言われるがままお洒落をした。
ちなみに室内にはバトラーが控えていて、二人の飲み物がなくなりかけると注いでくれている。
「佑さん、宝石を買ったらきりがないでしょう。誕生石とか星座石とか、好きな色とか石の意味とか……。理由をつけて贈りたがるに決まっているんだから」
ブランド物の服を着て星付きホテルでブランチを取り、婚約者に余計な買い物をするなと文句を垂れ、我ながら何様かと思ってしまう。
23
お気に入りに追加
2,577
あなたにおすすめの小説

知らずに双子パパになっていた御曹司社長は、愛する妻子を溺愛したい
及川 桜
恋愛
児童養護施設の学習ボランティアにとんでもない男が入ってきた!?
眉目秀麗、高学歴、おまけに財閥御曹司。
不愛想でいけすかない奴だと思っていたのに、どんどん惹かれていって・・・
子どもができたことは彼には内緒。
誰よりも大切なあなたの将来のために。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
不埒な社長と熱い一夜を過ごしたら、溺愛沼に堕とされました
加地アヤメ
恋愛
カフェの新規開発を担当する三十歳の真白。仕事は充実しているし、今更恋愛をするのもいろいろと面倒くさい。気付けばすっかり、おひとり様生活を満喫していた。そんなある日、仕事相手のイケメン社長・八子と脳が溶けるような濃密な一夜を経験してしまう。色恋に長けていそうな極上のモテ男とのあり得ない事態に、きっとワンナイトの遊びだろうとサクッと脳内消去するはずが……真摯な告白と容赦ないアプローチで大人の恋に強制参加!? 「俺が本気だってこと、まだ分からない?」不埒で一途なイケメン社長と、恋愛脳退化中の残念OLの蕩けるまじラブ!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる