721 / 1,544
第十二部・パリ 編
エアよしよし
しおりを挟む
「香澄しかいないじゃないか」
照れたのか、香澄が黙った。
「五月くらいかな。気温の高かった日に、白い総レースのトップスのインナーに白のキャミソール。下はハイウエストのジーンズだったかな。髪の毛はポニーテールにしてて、とても可愛かった」
『あ、あー……。その格好なら覚えているかも。レースとジーンズ合わせるの気に入ってて』
「これから冬になるけど、暖かくなってきたらまた色々俺の目を楽しませて」
『うん』
車外の景色はもうミュンヘンの中心が近くなっていて、賑やかだ。
「これから少し、オーパや双子、エルマー伯父さんと飲む。一時間ぐらいで切り上げて帰るから、安心してくれ」
『あー、いいなぁ。宜しくお伝えしてね。こっちのホテルに戻るの、何時くらいになる?』
「寝ていていいよ。フライト時間に加えて、パリに着いてからの車移動もあるし」
『んー……』
「香澄? エアよしよししてあげるから。いい子で寝ていて」
『もー……。うん……』
目の前で香澄がしょぼん……としているのが想像でき、佑は愛しげに微笑む。
『……よしよしして』
「よし、よし」
目の前にエア香澄がいる気持ちで、佑は手をかざして頭を撫でる。
あまりに甘い空気に呉代が一人百面相をして悶えているが、もちろん眼中にない。
「もう少しで帰るから。……愛してるよ」
『……ん、私も』
はにかんだ香澄の声を聞いて微笑み、佑は通話口に向かってちゅっとリップ音を立てた。
「じゃあ、切るよ」
『おやすみなさい』
通話が切れ、香澄充ができた佑は満足して息をつく。
「社長、幸せそうっすね。リア充ですわ」
呉代の恨めしげな声が聞こえるが、佑は目を閉じたままぞんざいに答えるだけだ。
「お陰様で。呉代にもいい出会いがあるよう祈ってるよ」
本当は佑が半ば強引に香澄をスカウトしたのだが、それは棚に置いておく。
「合コン行っても、護衛って言ったらなんか特殊な目で見られるんです。やっぱり普通のサラリーマンとかがウケがいいのかなぁ。もっと言えば商社とか。結構高給取りだと思うんですけどねぇ。瀬尾さんは奥さんがいていいっすね」
「え、わ、私ですか? ……妻は学生時代からの付き合いですし」
いきなり話題を振られた瀬尾が焦った声をだす。
「……瀬尾、次の角で停まってくれ。俺が下りたら適当な所で待っていてくれ」
「承知致しました」
車は静かに停止し、佑と呉代がサッと降車した。
後ろでもアドラーたちが乗った車が停まり、中から四人と護衛が出てくる。
「そこのバー、日本料理出してるんだ」
言語を日本語に切り替えたアロイスが前方にある店を示して笑う。
看板には『酔人』と書かれてあり、居酒屋っぽい。
「オーパはちょっと前まで日本にいたからいいけどさ。僕たち日本食に飢えてるんだよね。ここ、おでんもやってるんだぜ」
「ファーティ、だし巻き玉子好きだろ」
「ああ」
エルマーも疲れた様子だが、日本食と聞いて表情が柔らかくなっている。
「マスター! こんばんは!」
アロイスが一番に店に入り、日本人のマスターに挨拶をする。
「アロ、知り合いか?」
「何回か来てるよ。日本の話よくしてるから、顔覚えられたんだ。双子っていうのもあると思うし」
「マスター、五人座れる?」
クラウスの声に、五十代ほどの男性店主が奥の席を示す。
「どうぞ、アロイスさん、クラウスさん」
「Danke!」
奥のテーブル席に座ると、時間がないのを分かってかアロイスが暗記しているかのようにオーダーする。
「枝豆二つにだし巻き玉子、唐揚げ二つ、たこワサ、おでんと餃子。とりあえずよろしく。あとビールはヴァイセの0.5リットル五つ」
ヴァイセとはドイツビールの中でもエールと呼ばれる、フルーティーな味わいのビールの種類の一つだ。
ブルーメンブラットヴィルは南ドイツであるため、地域のビールもフルーティーな物が多い。
その味で育ったため、クラウザー家の面々はエールを好んでいる。
照れたのか、香澄が黙った。
「五月くらいかな。気温の高かった日に、白い総レースのトップスのインナーに白のキャミソール。下はハイウエストのジーンズだったかな。髪の毛はポニーテールにしてて、とても可愛かった」
『あ、あー……。その格好なら覚えているかも。レースとジーンズ合わせるの気に入ってて』
「これから冬になるけど、暖かくなってきたらまた色々俺の目を楽しませて」
『うん』
車外の景色はもうミュンヘンの中心が近くなっていて、賑やかだ。
「これから少し、オーパや双子、エルマー伯父さんと飲む。一時間ぐらいで切り上げて帰るから、安心してくれ」
『あー、いいなぁ。宜しくお伝えしてね。こっちのホテルに戻るの、何時くらいになる?』
「寝ていていいよ。フライト時間に加えて、パリに着いてからの車移動もあるし」
『んー……』
「香澄? エアよしよししてあげるから。いい子で寝ていて」
『もー……。うん……』
目の前で香澄がしょぼん……としているのが想像でき、佑は愛しげに微笑む。
『……よしよしして』
「よし、よし」
目の前にエア香澄がいる気持ちで、佑は手をかざして頭を撫でる。
あまりに甘い空気に呉代が一人百面相をして悶えているが、もちろん眼中にない。
「もう少しで帰るから。……愛してるよ」
『……ん、私も』
はにかんだ香澄の声を聞いて微笑み、佑は通話口に向かってちゅっとリップ音を立てた。
「じゃあ、切るよ」
『おやすみなさい』
通話が切れ、香澄充ができた佑は満足して息をつく。
「社長、幸せそうっすね。リア充ですわ」
呉代の恨めしげな声が聞こえるが、佑は目を閉じたままぞんざいに答えるだけだ。
「お陰様で。呉代にもいい出会いがあるよう祈ってるよ」
本当は佑が半ば強引に香澄をスカウトしたのだが、それは棚に置いておく。
「合コン行っても、護衛って言ったらなんか特殊な目で見られるんです。やっぱり普通のサラリーマンとかがウケがいいのかなぁ。もっと言えば商社とか。結構高給取りだと思うんですけどねぇ。瀬尾さんは奥さんがいていいっすね」
「え、わ、私ですか? ……妻は学生時代からの付き合いですし」
いきなり話題を振られた瀬尾が焦った声をだす。
「……瀬尾、次の角で停まってくれ。俺が下りたら適当な所で待っていてくれ」
「承知致しました」
車は静かに停止し、佑と呉代がサッと降車した。
後ろでもアドラーたちが乗った車が停まり、中から四人と護衛が出てくる。
「そこのバー、日本料理出してるんだ」
言語を日本語に切り替えたアロイスが前方にある店を示して笑う。
看板には『酔人』と書かれてあり、居酒屋っぽい。
「オーパはちょっと前まで日本にいたからいいけどさ。僕たち日本食に飢えてるんだよね。ここ、おでんもやってるんだぜ」
「ファーティ、だし巻き玉子好きだろ」
「ああ」
エルマーも疲れた様子だが、日本食と聞いて表情が柔らかくなっている。
「マスター! こんばんは!」
アロイスが一番に店に入り、日本人のマスターに挨拶をする。
「アロ、知り合いか?」
「何回か来てるよ。日本の話よくしてるから、顔覚えられたんだ。双子っていうのもあると思うし」
「マスター、五人座れる?」
クラウスの声に、五十代ほどの男性店主が奥の席を示す。
「どうぞ、アロイスさん、クラウスさん」
「Danke!」
奥のテーブル席に座ると、時間がないのを分かってかアロイスが暗記しているかのようにオーダーする。
「枝豆二つにだし巻き玉子、唐揚げ二つ、たこワサ、おでんと餃子。とりあえずよろしく。あとビールはヴァイセの0.5リットル五つ」
ヴァイセとはドイツビールの中でもエールと呼ばれる、フルーティーな味わいのビールの種類の一つだ。
ブルーメンブラットヴィルは南ドイツであるため、地域のビールもフルーティーな物が多い。
その味で育ったため、クラウザー家の面々はエールを好んでいる。
22
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる