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第十二部・パリ 編

メイヤー家へ

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 ミュンヘン空港に着陸したのは二十時すぎだ。

 空港を通って車寄せまで移動するが、その間にパスポートチェックなどを空港スタッフにしてもらう。
 プライベートジェットに乗っていると、あれこれ自分で手続きをしなくて済むのも利点だ。

 形だけ通過するという感じで空港を出て、車寄せまで行った佑の足が止まる。

『……オーパ』

 そこには、クラウザー社の超高級車の前に立っているアドラーの姿があった。
 その隣には双子と、彼らの父であるエルマーもいる。

『タスク、久しぶり』

『僕ら髪切ったんだけど、どう?』

 アロイスとクラウスは今までまったく同じ髪型をして、前髪の分け目で区別をつけるようにしていた。
 だが今は短めのアシンメトリーカットになっていて、それぞれ右サイドが長いのと、左サイドが長いのとで区別がつくようになっていた。

『はいはい、似合うな』

『カスミは?』

『連れてくる訳ないだろ』

『まー、そうだよね』

 色違いのチェスターコートを着た双子は軽い調子で笑い、『冷えるな』と白い息を吐く。

『フランクと対峙するのに、タスクだけという訳にはいかない。私たちも同行する』

 アドラーに肩をポンと叩かれ、佑は軽く頷く。

『分かった。オーパたちも清算をつけなければいけない相手だしな』

 背後では用意してあった車に、河野や瀬尾たちが荷物を積み、護衛たちが直立不動で周囲を窺っている。

『香澄はオーパたちと一から関係を結び直したいと言っている。……彼女こそ被害者なのにな。……そのためにもしっかり清算して、もう二度と香澄を悲しませないようにする』

『分かった』

『マティアスは?』

 佑の問いに、アドラーが答える。

『ブルーメンブラットヴィルに匿ったままだ。あれでも一応メイヤーの裏切り者だからな。万が一、敵地で狙撃でもされたら困る』

『賢明だな。まぁ、今の爺さんに暗殺者を雇う金があるかは謎だが』

 そこまで言って、佑は自分の車に向かった。

 暖気された車に乗り込み、間もなく発車する。

 前後を護衛の車に挟まれた佑に続き、やはり護衛の車で挟まれたアドラーたちが続く。

 クラウザー社の最新モデル車が並んで走っている姿は壮観だ。
 しかし時刻は夜なので、その物々しい車列を見て何かを思う者も少ないだろう。

(香澄はこの面子を見たらやっぱり喜ぶのかな)

 人のいい彼女の顔を思い浮かべ、佑は夜闇を見ながら考える。

 きっと、例の事などなかったかのように振る舞い、彼らに話しかけるだろう。
 優しすぎる香澄に思わず切なく笑ったあと、佑は表情を引き締める。

 今はまだ、心を凍り付かせフランクに沙汰を言い渡さなければいけない時だ。

(すべてに決着をつけたあと、楽しいムードでまた連れてきてあげよう)

 自分に言い聞かせ、佑は目を閉じた。



**



 空港より南西に向かうとミュンヘンがあるが、佑たちは中心部には向かわず近郊にあるメイヤー家の大邸宅に向かった。

 メイヤー家は高い塀と門鉄に囲われた広い敷地の屋敷で、その前にはまだマスコミが貼り付いている。

 メイヤー家も元貴族の家柄なので、屋敷に至るまで広々とした庭園がある。

 ライトアップされた道を走り、車は屋敷の前で停まった。

 運転手にドアを開けられ、佑たちは降車する。

 代表して河野が呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてからドイツ人の執事らしき男性が顔を出した。

『ヘル・メイヤーにお会いしたい。タスク・ミツルギ、及びクラウザー家よりアドラー、エルマー、アロイス、クラウスが来たと伝えてくれ』

 佑が告げると、疲労の色を見せている執事は覚悟を決めた表情で『どうぞお入りください』と玄関ホールに招き入れた。
 迎賓室の準備が整うまで、佑たちは豪華なリビングルームのような玄関ホールでくつろぐ。

『見ろよ。あの絵、爺さんのお気に入りだぜ。大枚はたいてオークションで買ったから、絶対手放したくないだろうけど、どっかから金を融通して、手放さずに済んでホッとしてるんだろうなぁ』

 ソファに座ったアロイスが印象派の絵画を指差し、性悪そうに笑う。

 アドラーは何度か訪れた事のあるライバルの屋敷の中を見て、何かを思いだしたように溜め息をつく。
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