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第十二部・パリ 編

第十二部・序章 パリのホテルにて

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 パリのホテルに着いたのは昼過ぎだ。

 例によってスイートルームで、こちらはスペインのホテルとはまた違った豪華さがある。

 スペインのホテルがお城的なら、こちらはとてもモダンな印象だ。
 全体的に白を基調としていて、柔らかな間接照明に照らされ、清潔感があって心地よく寛げる雰囲気がある。

 広いバルコニーが特徴的で、そこにあるテーブルで食事が楽しめるらしい。

 立地もパリ一区で、目の前にルーブル美術館がある。

(高いんだろうなぁ……)

 思わず庶民的な感想を抱いてしまう香澄の向こうで、佑はコンシェルジュとフランス語で話をしている。
 やがてコンシェルジュが去ると、佑が息をついて荷物を整理し始めた。

「素敵なホテルだね。もう佑さんと一緒にいると、どこに行ってもホテルが素敵。っていうか私、普通にツインルームでいいのに……」

「ありがとう、と言っておくよ。香澄をいい気分にさせるなら、とっておきのホテルにしないと」

「んふふ、ありがとう。でも、気を遣いすぎなくていいからね」

 佑は香澄を愛しげに見たあと、「あ」と声を漏らし付け加える。

「ランチは部屋に持ってきてもらう事にした。食べたいだろうから、ガレットとクレープを頼んだ。あと足りないと困るから、クロワッサンやパン類も少々」

「ありがとう! うわぁ、本場のガレットとクレープ、クロワッサン楽しみ!」

 ウキウキした香澄も、服をハンガーに掛けていく。

 因みにスーツケースはバルセロナで佑がブランド物を購入してくれ、その中に大量に買った服や下着などが入っている。

 今すぐ着ない物は飛行機の中だ。

 これからパリ、ローマで買い物をして、入れる物がなければまた新しくスーツケースを買うというので、その感覚が恐ろしい。

 パリの滞在は四泊五日らしい。

 今日が十一月の二日で、週末を使って佑が用事を片付けるらしく、残る平日は香澄の観光に付き合ってくれるそうだ。
 そのあとローマに向かい、十一月十二日の月曜日には東京本社での仕事に復帰する予定いらしい。

 なので十一月二十日の香澄の誕生日は、東京で迎える事になる。

(誕生日、楽しみだな。どうやって過ごそうかな。佑さんに何か言ったらお金使わせちゃいそうだし、私が自分の好物を作るっていうのもいいなぁ)

 手を動かしながらそんな事を考え、仕事の復帰について考える。

(そろそろ大丈夫だし、相談しないと)

「ねぇ、佑さ……」

 持っていた服をすべてハンガーに掛けて振り向くと、後ろのクローゼットに服を掛けていた佑の手が止まっていた事に気付く。

「……佑さん?」

 後ろから抱きつくと佑はビクッと震え、異常なほどの反応で振り返る。

「え……っ」

 驚くと、佑はあからさまに誤魔化す笑みを浮かべた。

「ごめん、ボーッとしてた。やる事が多いから疲れているのかも」

「もー、しっかりしてね?」

 トントンと佑の腹部を軽く叩くと、その手を押さえられる。
 香澄は服越しに温かな体を抱き締め、自分の気持ちを伝えた。

「ねぇ、佑さん。私そろそろ仕事に復帰したい。もう大丈夫だから」

「え……」

 今度こそ佑は体ごと振り向き、スッポリと包み込むように香澄を抱いてきた。

「北海道に戻りたいと言ったのは私だし、今の生活は自由で夢みたい。我が儘を聞いてくれてありがとう。でも、心の傷は癒えた気がするし、ちゃんと働きたい」

「……そう……だな。落ち着いてきたような……気がする……けど」

 佑は一度香澄を解放し、ソファに向かう。
 それから白いコーナーソファに座ってぼんやりと香澄を見つめ、ポツンと問いかけてきた。

「仕事、したいか?」

「したい。働いてないのに優雅に旅行とか飲み食いしたくない」

 キッパリ言うと、佑は小さく溜め息をつく。

「まぁ……。北海道の一か月もあって、しっかりしたのは本当みたいだしな……。これからは俺が側にいるし、……大丈夫、……なのか」

「佑さんが本社に戻る日から私も復帰していい?」

「……ああ、分かった」

「やった!」

 社長から許可をもらえ、香澄はソファの上に膝立ちになってガッツポーズを取る。
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