693 / 1,548
第十一部・スペイン 編
もう分かり合えないのかな?
しおりを挟む
「…………もー」
クシャッと笑った香澄は、仰向けになった佑の上に体を預ける。
「……苦しくない? 重いでしょ」
「大丈夫だよ。それよりマッサージ師さん、キスして」
後頭部を撫でつつおねだりをされ、香澄は笑いながら言う事をきいた。
「調子の悪い所はございませんか?」
〝ごっこ〟を楽しみながら、香澄は佑の頬を両手で包み優しくキスをする。
何度か触れるだけのキスをし、柔らかい唇を軽く噛んだ頃、下腹のあたりに佑の盛り上がりを感じた。
「…………」
思わず瞠目して彼を見ても、佑は何も言わない。
ただ微笑んで香澄の背中やお尻を撫でるだけだ。
「……駄目だよ」
あまり伸びない佑の頬を軽く引っ張っても、彼は意味深に微笑むまま。
口よりものを言う手が動き、香澄のワンピースの中に潜り込み、パンティのクロッチを撫でてくる。
「だ、駄目だったら!」
ガバッと起き上がろうとしても、腰をしっかり押さえられていて逃げられない。
「……スペインに来てから毎日してるじゃない」
「俺はいつでも香澄が足りないよ」
そんなセリフをとろけそうな顔で言うので、強くノーを言えない。
「……もう。今は休憩の時間なの」
隣に寝転ぶと、ギュッと彼を抱き締めた。
彼の香りを吸い込み温もりを感じていると、ニセコで一人で気を張っていた緊張感が嘘のようだ。
「あのね……、またブルーメンブラットヴィルに行きたい。アドラーさんと節子さんと、アロイスさんとクラウスさんと、他の皆さんにもお会いして、ちゃんとやり直したい。もし会えるなら、マティアスさんともちゃんと話したい」
「……分かった。香澄が言うならそうしよう。ただ、俺も立ち会う」
「うん」
「他は? 香澄の望みを何でも言ってみて」
言われて、香澄は少し沈黙する。
これを言うと佑は絶対にネガティブな反応をするのは分かっていた。
それでも、どうしても引っかかっている事があった。
「……エミリアさんとは、もう分かり合えないのかな?」
「駄目だ」
思った通りの反応があり、香澄は視線を下げて佑の喉仏を見た。
「香澄。世の中には分かり合えない人がいる。香澄がどれだけ正面から和解を求めても、向こうは歩み寄るとか、話し合うなんて考えていない。香澄とあいつは互いに違う方向を向いていて、進む方向も違う。そういう関係もあるんだ」
佑の言いたい事は分かる。
それでもエミリアに〝親切にしてもらった〟のは事実だ。
「ぼんやりとしか覚えてないけど、マティアスさんの事があって、エミリアさんに服を貸してもらったの。別のホテルに移って、すぐ飛行機を手配してくれた。ファーストクラスに乗せてくれて、その代金もいつかお返ししないとって思ってた。頭痛薬もくれたし……。親切にしてくれたように……思えたんだけど」
佑の腕に力がこもったかと思うと、痛いほどの力で抱き締められていた。
頭の上から、ひどく苦しそうな声が聞こえる。
「……世の中には目的のためなら、幾らでも偽りの優しさを振りまける人がいる。そのためなら金だって使う。自覚はないだろうけど、香澄はエミリアにとって、ダイヤモンドより価値のある存在だった。あいつは俺のもとから大切なダイヤを盗んで、隠して、傷付けようとした。……だから、俺は絶対にあいつを許せない。香澄も、もう考えなくていい。…………考えないでくれ。頼む、一生のお願いだ」
絞り出すような声を聞き、香澄は自分が失言した事を知る。
エミリアの話をしていて、ぼんやりとロンドンでの事を思いだした。
香澄は彼女とロンドンの立派なホテルに入って、ディナーのために青いワンピースを着た気がする。
――そこから先を思い出そうとして、何もかもがぼやける。
苦しいとか、何かを飲んだとか、移動して、甘いものを舌に感じたとか、断片的な記憶が蘇る事はある。
けれど香澄の記憶はぼやけたまま、元に戻ってくれない。
思い出すのを諦め、香澄は溜め息混じりに言う。
「……エミリアさん、私よりも前から佑さんの事が好きだったんだよね」
佑の体が少し強張った。
「……嫉妬で、他の女性を犯させようとする気持ちって……。どんなものなんだろう」
呟いて、考える。
クシャッと笑った香澄は、仰向けになった佑の上に体を預ける。
「……苦しくない? 重いでしょ」
「大丈夫だよ。それよりマッサージ師さん、キスして」
後頭部を撫でつつおねだりをされ、香澄は笑いながら言う事をきいた。
「調子の悪い所はございませんか?」
〝ごっこ〟を楽しみながら、香澄は佑の頬を両手で包み優しくキスをする。
何度か触れるだけのキスをし、柔らかい唇を軽く噛んだ頃、下腹のあたりに佑の盛り上がりを感じた。
「…………」
思わず瞠目して彼を見ても、佑は何も言わない。
ただ微笑んで香澄の背中やお尻を撫でるだけだ。
「……駄目だよ」
あまり伸びない佑の頬を軽く引っ張っても、彼は意味深に微笑むまま。
口よりものを言う手が動き、香澄のワンピースの中に潜り込み、パンティのクロッチを撫でてくる。
「だ、駄目だったら!」
ガバッと起き上がろうとしても、腰をしっかり押さえられていて逃げられない。
「……スペインに来てから毎日してるじゃない」
「俺はいつでも香澄が足りないよ」
そんなセリフをとろけそうな顔で言うので、強くノーを言えない。
「……もう。今は休憩の時間なの」
隣に寝転ぶと、ギュッと彼を抱き締めた。
彼の香りを吸い込み温もりを感じていると、ニセコで一人で気を張っていた緊張感が嘘のようだ。
「あのね……、またブルーメンブラットヴィルに行きたい。アドラーさんと節子さんと、アロイスさんとクラウスさんと、他の皆さんにもお会いして、ちゃんとやり直したい。もし会えるなら、マティアスさんともちゃんと話したい」
「……分かった。香澄が言うならそうしよう。ただ、俺も立ち会う」
「うん」
「他は? 香澄の望みを何でも言ってみて」
言われて、香澄は少し沈黙する。
これを言うと佑は絶対にネガティブな反応をするのは分かっていた。
それでも、どうしても引っかかっている事があった。
「……エミリアさんとは、もう分かり合えないのかな?」
「駄目だ」
思った通りの反応があり、香澄は視線を下げて佑の喉仏を見た。
「香澄。世の中には分かり合えない人がいる。香澄がどれだけ正面から和解を求めても、向こうは歩み寄るとか、話し合うなんて考えていない。香澄とあいつは互いに違う方向を向いていて、進む方向も違う。そういう関係もあるんだ」
佑の言いたい事は分かる。
それでもエミリアに〝親切にしてもらった〟のは事実だ。
「ぼんやりとしか覚えてないけど、マティアスさんの事があって、エミリアさんに服を貸してもらったの。別のホテルに移って、すぐ飛行機を手配してくれた。ファーストクラスに乗せてくれて、その代金もいつかお返ししないとって思ってた。頭痛薬もくれたし……。親切にしてくれたように……思えたんだけど」
佑の腕に力がこもったかと思うと、痛いほどの力で抱き締められていた。
頭の上から、ひどく苦しそうな声が聞こえる。
「……世の中には目的のためなら、幾らでも偽りの優しさを振りまける人がいる。そのためなら金だって使う。自覚はないだろうけど、香澄はエミリアにとって、ダイヤモンドより価値のある存在だった。あいつは俺のもとから大切なダイヤを盗んで、隠して、傷付けようとした。……だから、俺は絶対にあいつを許せない。香澄も、もう考えなくていい。…………考えないでくれ。頼む、一生のお願いだ」
絞り出すような声を聞き、香澄は自分が失言した事を知る。
エミリアの話をしていて、ぼんやりとロンドンでの事を思いだした。
香澄は彼女とロンドンの立派なホテルに入って、ディナーのために青いワンピースを着た気がする。
――そこから先を思い出そうとして、何もかもがぼやける。
苦しいとか、何かを飲んだとか、移動して、甘いものを舌に感じたとか、断片的な記憶が蘇る事はある。
けれど香澄の記憶はぼやけたまま、元に戻ってくれない。
思い出すのを諦め、香澄は溜め息混じりに言う。
「……エミリアさん、私よりも前から佑さんの事が好きだったんだよね」
佑の体が少し強張った。
「……嫉妬で、他の女性を犯させようとする気持ちって……。どんなものなんだろう」
呟いて、考える。
23
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる