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第十一部・スペイン 編

マドリードへ

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 翌日は久住と佐野に付き合ってもらい、ホテル内のジムで走り、筋トレをこなした。

 東京にいれば専属トレーナーが御劔邸まで通ってくれるが、出張先ではそうもいかない。
 今まで教わったトレーニングを頭に、香澄は久しぶりに思いきり汗を流した。

 ちなみにシューズやウェアは、ホテルでレンタルだ。

 ジムで汗を流したあと、軽くシャワーを浴びてから水着に着替え、今度は屋内プールで流す程度に泳ぐ。

 しっかりしないと、という気持ちを胸に、ひたすら体を動かし頭をスッキリさせるつもりだった。

 水着は先日の買い物で佑が買ってくれたがビキニがあるが、オシャレビキニでスポーツは無理だ。

 よってホテルでちゃんと泳げる水着を購入した。
 キャップとゴーグルはレンタルできるのでありがたい。

 護衛にプールサイドで貴重品の番をしてもらい、ひたすら泳ぐ。

「っぷぅ!」

 タンッとプールサイドに手を突き、香澄はハァハァと呼吸を繰り返す。

 海外のプールは1.5mほどあり、当たり前に160cmの香澄の身長なら溺れてしまう。なので泳ぐ時は本気だ。

『驚いた。結構泳げるんだね?』

 その時、いきなり頭上から英語で話しかけられ、ハッとして顔を上げる。

 プールサイドには水着姿のフェルナンドがしゃがんでいて、明るい表情でこちらを見下ろしていた。

 チラッと久住と佐野を見ると、慌てて久住がこちらにやって来るところだ。

 彼の仕事を増やしてはいけないと思い、香澄はゴーグルを上げてフェルナンドに詫びる。

『ごめんなさい。先日出かけた事、婚約者に怒られてしまったんです。なのであなたとはお話できません』

 少し驚いた様子のフェルナンドへの申し訳なさがあるので、もう一言つけ加える。

『でも親切にチョコレートショップまで付き合ってくれた事や、楽しくお話してくれた事には感謝しています。親切にしてくださってありがとうございます』

 ニコッと微笑んでから香澄はまたゴーグルをつけ、壁を蹴って反対側へ泳ぎ始めた。

 若干良心が痛むが、もう佑に苦しい思いをさせたくない。

 二十五メートルプールを往復したあと、香澄はしばらくプールサイドで休む事にした。





 フェルナンドはゆったりとデッキチェアに脚を投げ出している。

 そしてプールサイドに上がってスイムキャップを取り、久住からタオルを受け取った香澄をジッと見ていた。

『いいケツしてるな。胸の形もいい』

 呟いた台詞は、香澄の前とは別人だ。

「あいつの……弱点」

 香澄が「太陽のような笑顔」と思った微笑みを浮かべ、フェルナンドはサングラスを掛ける。

 そしてスマホを手に持ち――操作しているふりをして香澄の写真を撮る。

 ズームして久住に向けて笑っている顔を、――もう一枚撮った。



**



 佑の仕事が終わったあと、二人は空港に向かった。

「どうせならプラド美術館でも見ようか」と言われ、急遽マドリードまで飛んだのだ。

 約一時間半のフライトは札幌から東京までと同じだ。

 バルセロナがスペインの中でもフランスに近い北東の海沿いにあるのに対し、マドリードはほぼスペインのど真ん中と言っていい場所にある。

 スペイン滞在の最後は、マドリードで過ごすらしい。

 翌日はパリに向かうようで、さすが〝世界の御劔〟のスケジュールだ。

 午前中にマドリード=バラハス・アドルフォ・スアレス空港に到着し、車で移動する。

 宿泊するホテルは『ザ・ロッドフォード・パレス・マドリード』と言い、その名前だけですぐ理解した。

 バルセロナでは、ホテル王のショーン・ロッドフォードと友人だと教えてもらった。

 あのとき佑は「ドイツの知り合いの友人」と関係をぼかしていた。

 だが後日それとなく尋ねると、エミリアの兄にテオという人がいるようで、そのテオがアメリカで人脈を広げているようだ。

 彼の友人の一人がショーン・ロッドフォードで、テオに紹介されて仲良くなったらしい。

(やっぱりお金持ちは知り合いも凄いんだなぁ)

 会話にエミリアの名前が出てくるから気を遣ってくれたらしいが、エミリアの兄と言われても、会った事がないので何とも思わない。
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