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第十一部・スペイン 編
昨日のお詫び
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「…………これ……」
ご丁寧にあのベルトまで一緒に入っている。
「こっちも」
言われて箱を開くと、あのマネキンが履いていた赤茶色のパンプスがある。
「え……。あ、……ありがとう……」
まさかプレゼントしてもらえると思っておらず、香澄は呆然としたまま礼を言う。
「脱がせますよ、お嬢さん」
佑は冗談めかした言い方をし、香澄の着ているトップスを脱がせた。
続いてニセコから持ってきたフューシャピンクのスカートを脱がせ、キャミソールとストッキング姿にしてしまう。
それから丁寧にターコイズブルーのワンピースのボタンを外し、香澄に着せるとまたボタンを一つずつ留めていく。
「着心地は? 結構いいニットだと思うけど、チクチクしない?」
「うん、とても滑らか」
細いブラウンのベルトをウエストに回され、締め付けない程度に締められる。
最後に赤いパンプスを出し、跪いて香澄に履かせた。
「どう? 香澄のサイズを出してもらったけど、靴擦れしなさそう?」
「う、うん。歩いてみるね」
「鏡で見てきてごらん」
「はい」
歩いてみても、パンプスに特に違和感はない。
ウォークインクローゼットまで歩き、鏡の前で全身を見てみた。
(わあ……)
いつもは体のラインが出ない服を選び、タイトスカートを穿く時もトップスはゆったりした物を選んでいる。
こんなふうに体のラインが強調されているのは、慣れていなくて恥ずかしい。
それでも憧れていた服を着られた喜びはある。
体を左右にひねって確認していると、後ろから佑がやってきた。
「どう? 気に入った?」
「うん! ありがとう!」
両手を佑の首に回し、ギューッと抱きつき頬にキスをすると、佑がとろけそうに笑う。
「良かった」
「……もしかして昨日のお詫び?」
佑がプレゼントをしてくれるのはいつもの事だが、ワンピースの話題をした時から「もしかしたら……」と思っていた。
狙って話題にした訳ではないが、佑なら買いかねない。
加えてお仕置きとして強めに抱かれたのも事実で、彼はそれを少し後悔していそうだった。
「…………半分はそうかな」
彼が微妙な顔で笑うので、香澄は「もう」と笑顔になる。
「もう終わった事だし、気を遣わないで。そもそも私が心配させたんだし」
よしよしと佑の髪を撫でたあと、香澄は彼の腕の中で回れ右をしてまた鏡を見る。
そして佑の腕を自分の体に回し、もう怒っていないと示すために甘えた。
「大人っぽく仕上げるなら、リップはボルドーとかなのかな」
「そうだな。アクセサリーはゴールドが似合いそうだ」
二人でお洒落の相談をし、鏡越しに微笑む。
(不器用だなぁ)
不意に、佑を愛しく思う。
(大丈夫だからね。こうやって贈り物をしなくても、おへそを曲げたりしないから)
ポンポンと胸の前にある佑の手を撫でると、彼が笑みを深めた。
彼があそこまで取り乱すほど愛するのは、香澄が初めてなのだろう。
信じられない事に、女性とそつなく付き合っていそうな彼が、初恋のような恋をしているらしい。
だから仲がこじれるたび、どうやって仲直りするべきか懸命に考えているのかもしれない。
香澄の父も少し不器用な人で、口数がそれほど多くない代わりに、何かあると香澄に色々買い与える。
なので、言葉の代わりについ贈り物をする人の気持ちが何となく分かる気がした。
香澄だっていつだったか麻衣と喧嘩をした時、プレゼントとケーキを買って、泣きながら謝りに行った。
怒らせてしまったほうはいつだって必死だ。
嫌われるのが怖くて、全力で謝りにいく。
(だからもう、私は何も言わないよ。いつも通りにして楽しもうね)
鏡越しの佑に微笑みかけ、香澄は彼の腕をギューッと抱き締めた。
**
ご丁寧にあのベルトまで一緒に入っている。
「こっちも」
言われて箱を開くと、あのマネキンが履いていた赤茶色のパンプスがある。
「え……。あ、……ありがとう……」
まさかプレゼントしてもらえると思っておらず、香澄は呆然としたまま礼を言う。
「脱がせますよ、お嬢さん」
佑は冗談めかした言い方をし、香澄の着ているトップスを脱がせた。
続いてニセコから持ってきたフューシャピンクのスカートを脱がせ、キャミソールとストッキング姿にしてしまう。
それから丁寧にターコイズブルーのワンピースのボタンを外し、香澄に着せるとまたボタンを一つずつ留めていく。
「着心地は? 結構いいニットだと思うけど、チクチクしない?」
「うん、とても滑らか」
細いブラウンのベルトをウエストに回され、締め付けない程度に締められる。
最後に赤いパンプスを出し、跪いて香澄に履かせた。
「どう? 香澄のサイズを出してもらったけど、靴擦れしなさそう?」
「う、うん。歩いてみるね」
「鏡で見てきてごらん」
「はい」
歩いてみても、パンプスに特に違和感はない。
ウォークインクローゼットまで歩き、鏡の前で全身を見てみた。
(わあ……)
いつもは体のラインが出ない服を選び、タイトスカートを穿く時もトップスはゆったりした物を選んでいる。
こんなふうに体のラインが強調されているのは、慣れていなくて恥ずかしい。
それでも憧れていた服を着られた喜びはある。
体を左右にひねって確認していると、後ろから佑がやってきた。
「どう? 気に入った?」
「うん! ありがとう!」
両手を佑の首に回し、ギューッと抱きつき頬にキスをすると、佑がとろけそうに笑う。
「良かった」
「……もしかして昨日のお詫び?」
佑がプレゼントをしてくれるのはいつもの事だが、ワンピースの話題をした時から「もしかしたら……」と思っていた。
狙って話題にした訳ではないが、佑なら買いかねない。
加えてお仕置きとして強めに抱かれたのも事実で、彼はそれを少し後悔していそうだった。
「…………半分はそうかな」
彼が微妙な顔で笑うので、香澄は「もう」と笑顔になる。
「もう終わった事だし、気を遣わないで。そもそも私が心配させたんだし」
よしよしと佑の髪を撫でたあと、香澄は彼の腕の中で回れ右をしてまた鏡を見る。
そして佑の腕を自分の体に回し、もう怒っていないと示すために甘えた。
「大人っぽく仕上げるなら、リップはボルドーとかなのかな」
「そうだな。アクセサリーはゴールドが似合いそうだ」
二人でお洒落の相談をし、鏡越しに微笑む。
(不器用だなぁ)
不意に、佑を愛しく思う。
(大丈夫だからね。こうやって贈り物をしなくても、おへそを曲げたりしないから)
ポンポンと胸の前にある佑の手を撫でると、彼が笑みを深めた。
彼があそこまで取り乱すほど愛するのは、香澄が初めてなのだろう。
信じられない事に、女性とそつなく付き合っていそうな彼が、初恋のような恋をしているらしい。
だから仲がこじれるたび、どうやって仲直りするべきか懸命に考えているのかもしれない。
香澄の父も少し不器用な人で、口数がそれほど多くない代わりに、何かあると香澄に色々買い与える。
なので、言葉の代わりについ贈り物をする人の気持ちが何となく分かる気がした。
香澄だっていつだったか麻衣と喧嘩をした時、プレゼントとケーキを買って、泣きながら謝りに行った。
怒らせてしまったほうはいつだって必死だ。
嫌われるのが怖くて、全力で謝りにいく。
(だからもう、私は何も言わないよ。いつも通りにして楽しもうね)
鏡越しの佑に微笑みかけ、香澄は彼の腕をギューッと抱き締めた。
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