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第十一部・スペイン 編

ワンピース

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 そのうち佑の手が、明らかに香澄を求める動きで動きだす。

 背中を撫で、総レースのパンティに包まれた尻たぶを揉み、――剥き出しの乳房を揉む。

「ん……」

 何度も繰り返された優しいキスで、頭の中がフワフワとしている。

(さっきは拒否しちゃったけど、もう一回ぐらいならいいかな)

 愛撫されるうちに、心が柔らかくとろけていく。



 結局、食事をしにいく二十一時までたっぷり愛される事になった。



**



 翌日は外出を控えめにして、グラスランドで購入した電子書籍を読んでいた。

 こういう時、電子書籍はありがたい。
 新しい本を買う時も、カードを登録してあるので手間がない。

 本当は紙の本のほうが好きで、絶対に手元に置いておきたい本は紙と電子で二重買いにしている。

 読書に飽きたら動画を見てストレッチやトレーニングをし、時間を合わせて麻衣にも連絡をする。

 スペインでの香澄の活動時間――十時から十七時は、日本時間で十七時から夜中の零時にあたる。
 麻衣に連絡をしても、リアルタイムで返事がくるのでありがたい。

 加えて気分転換に、一度久住に連絡をして例のブティックまで足を伸ばしてみた。

「Hola.」と挨拶をしてプラプラ服を見るが、どことなく日本とはセンスが違う。

 加えて五つ星ホテルに入っているだけあって高級感があり、店でのマナーも日本とは違うらしいので、大人しく見学するのみにしておこうと思った。

 日本では客が勝手に商品に触り、店員は「見てもらってありがたい」という立場だが、海外では「店に入れてもらい、商品を見せてもらう」という考え方だという。

 失礼な態度を取るつもりはまったくないが、悪気がなくても気を悪くさせてしまう可能性はあるので、へたな行動はしないに限る。

 例のターコイズブルーのワンピースは、まだショーウィンドウにある。

 ニットのカーディガンワンピースで、胸元は深いVネックだ。
 フロントにボタンが並び、スカートには深いスリットがある。

 ウエストマークの細いベルトは、別売りの物なのだろう。

(私もあれぐらい脚が長かったらなぁ)

 マネキンを見て溜め息をつき、いい目の保養になったと微笑む。

(着て着られない事はないけど、体のラインが出るし恥ずかしいな。脚もきっと太腿の真ん中くらいまでチラ見えしちゃうし)

 きっと佑は喜んでくれるかもしれないが、自分としてはそんな物を着て一体どこへ行くのかと言いたくなる。

 自分ではないセクシーな女性向けの服に思え、普段使いする服ではないと判断する。

 旅先で素敵だなと思う服は、現地の女性向けのセンス、デザインで、帰国したあとに着ようとすると「なんか違う……」となるのは、あるあるらしい。

 いわゆる、旅行マジックだ。

「素敵だな」と思っても、自分に似合うかどうかの問題だ。

 佑は「自分が気持ちよくなれるなら、TPOを守った上でどんな服を着たって構わない」と全肯定しているし、その考え方は素敵だと思う。

 けれど香澄は、「慣れない物に手を出さないほうがいいな」という気持ちになった。

 そのあとブラリと店やロビーを見てから、久住と佐野に部屋に戻る旨を告げ、佑が戻るまで大人しくしていた。





 ドアが開く音が聞こえ、香澄はスマホを置いて佑を迎えに行く。

「お帰りなさい!」

「ただいま」

 チュッチュッと両頬にキスがあり、今日も仕事終えた佑が微笑む。

「はい、お土産」

「え?」

 佑の手には紙袋が二つあり、その一つには箱が入っている。

「何だろ……」

 どうやらお菓子ではないらしく、香澄は小首を傾げた。

「開けてごらん」

「うん、ありがとう」

 テーブルの上に載せると、柔らかくて布のようだ。

「まさか……」と思って包装紙を広げると、中にはあのターコイズブルーのワンピースが入っていた。
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