上 下
687 / 1,549
第十一部・スペイン 編

スパダリとヤンデレ

しおりを挟む
(やば……っ。またはつらい!)

 思えば今朝は起きた時にはすでに佑に挿入されていて、そのまま抱かれてしまった。

 腰が立たない間に彼は仕事に行き、シエスタに激しく抱かれ――、それでまた……というのはやりすぎだ。

「ちょ、ちょ、待って、待って!?」

 香澄は必死に佑の手首を握り、下着を脱がそうとする手を止める。

「ん? なに?」

「ねぇ、よーく考えてみて? 今朝したよね?」

「……ああ」

「で、シエスタにもしたよね? すっごい激しいの」

「そうだな」

「で、今も……は流石につらい! 夜も遠慮したい」

「…………」

 みるみる佑の目から光が消え、シュン……としていく。

(あ……)

 ここまでガッカリされると、香澄も心苦しい。

 それでも食事ではないのだから、一日三回も四回もされると、本当に体調が心配になってしまう。

「ご……ごめんね? あの……手とか口でならしてあげるから」

「いや、俺だけ気持ち良くなっても仕方ないし」

 悲しそうに言って、佑は脱力して仰向けになった。

(どうしよう……。ガッカリさせちゃった……)

 何て声を掛けようと思っていると、また佑に抱き締められる。

「勝手だよな、ごめん。香澄が側にいてくれるのが本当に嬉しいんだ。……一か月会えず、連絡も取れなかったのは本当に堪えた」

「ううん。その一か月は、私が言いだした事だし……」

 彼の言葉を聞き、今さらだが「そうか……」と納得した。

 一か月の間、香澄は寂しいと思いながらも親友と楽しく過ごし、ニセコでも新しい環境で自分にできる事を……と、ポジティブに過ごしていた。

 ルカと出会えたのも財産だし、秋山もいい人だ。
 和也や真奈美の事はあったが、北海道で充実した時間を過ごしていた。

 けれど佑は……。

(河野さんがポンコツって言うほどだったみたいだしなぁ……)

 佑は香澄の谷間に顔を埋め、スーッと息を吸い込む。

「香澄」

「うん?」

 返事をし、香澄は佑の髪を撫でる。
 すると顔を上げた彼が、この上もなく幸せそうに笑った。

「好きだよ」

「……うん。……私も」

 気持ちを確認したあと、佑は起き上がってベッドのヘッドボードに背中を預けて座る。

 そして意外な事を口にした。

「俺って……あれじゃないよな。えーと……何だっけ。スパダリ?」

「嘘! 佑さんがスパダリって言葉知ってる!」

 ガバッと体を起こすと、言葉に馴染んでいなさそうな彼が微妙な顔をしている。

「河野に言われたんだ。『社長ってスパダリですよね』って。単語が分からなくて意味を調べたら……、大した事が書いてあったけど……。俺は社会的地位はそうかもしれなくても、中身は違う。香澄に他の男の影が迫ったら、ガキみたいにみっともなく嫉妬する。時に、力づくでも言う事を聞かせようとする、一人の嫉妬深い男だ」

 香澄はすぐに茶々を入れる。。

「ヤンデレは? 調べた?」

「ああ、それも前に言われたっけ」

 そう言って佑はスマホに手を伸ばし、検索する。

 香澄はワクワクして佑を見守り、彼の表情が微妙なものになるのを目の当たりにしてケタケタと笑いだす。

「……俺、別に病んでる自覚はないけど。……境界性パーソナリティ障害……」

 困った時のウェキペディアを読んだ佑は、何やらまじめに落ち込んでいる。

「んふふふふ……。おかしぃ。別に佑さんが病気だって言いたい訳じゃないけどね。時々思い込みが激しくなるから、茶化しただけなんだけど」

「……ふぅん、世間的にはこういう単語があるのか。キャラづけみたいなものかな」

「そう。クールとか熱血とか俺様とか」

「香澄はどこでそういう情報を仕入れるんだ?」

 言われてドキッとする。まさか電子書籍の本棚を見せる訳にいかない。

「うーんと……。マンガとか恋愛小説とか」

「俺がいるのに恋愛……いや、なんでもない」

 佑はヒラヒラと手を振り、溜め息をつく。

「んー? 私に恋愛小説読んでほしくないの?」

 だが香澄はニヤニヤしたまま、佑の頬をツンツンとつつく。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...