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第十一部・スペイン 編

スパダリとヤンデレ

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(やば……っ。またはつらい!)

 思えば今朝は起きた時にはすでに佑に挿入されていて、そのまま抱かれてしまった。

 腰が立たない間に彼は仕事に行き、シエスタに激しく抱かれ――、それでまた……というのはやりすぎだ。

「ちょ、ちょ、待って、待って!?」

 香澄は必死に佑の手首を握り、下着を脱がそうとする手を止める。

「ん? なに?」

「ねぇ、よーく考えてみて? 今朝したよね?」

「……ああ」

「で、シエスタにもしたよね? すっごい激しいの」

「そうだな」

「で、今も……は流石につらい! 夜も遠慮したい」

「…………」

 みるみる佑の目から光が消え、シュン……としていく。

(あ……)

 ここまでガッカリされると、香澄も心苦しい。

 それでも食事ではないのだから、一日三回も四回もされると、本当に体調が心配になってしまう。

「ご……ごめんね? あの……手とか口でならしてあげるから」

「いや、俺だけ気持ち良くなっても仕方ないし」

 悲しそうに言って、佑は脱力して仰向けになった。

(どうしよう……。ガッカリさせちゃった……)

 何て声を掛けようと思っていると、また佑に抱き締められる。

「勝手だよな、ごめん。香澄が側にいてくれるのが本当に嬉しいんだ。……一か月会えず、連絡も取れなかったのは本当に堪えた」

「ううん。その一か月は、私が言いだした事だし……」

 彼の言葉を聞き、今さらだが「そうか……」と納得した。

 一か月の間、香澄は寂しいと思いながらも親友と楽しく過ごし、ニセコでも新しい環境で自分にできる事を……と、ポジティブに過ごしていた。

 ルカと出会えたのも財産だし、秋山もいい人だ。
 和也や真奈美の事はあったが、北海道で充実した時間を過ごしていた。

 けれど佑は……。

(河野さんがポンコツって言うほどだったみたいだしなぁ……)

 佑は香澄の谷間に顔を埋め、スーッと息を吸い込む。

「香澄」

「うん?」

 返事をし、香澄は佑の髪を撫でる。
 すると顔を上げた彼が、この上もなく幸せそうに笑った。

「好きだよ」

「……うん。……私も」

 気持ちを確認したあと、佑は起き上がってベッドのヘッドボードに背中を預けて座る。

 そして意外な事を口にした。

「俺って……あれじゃないよな。えーと……何だっけ。スパダリ?」

「嘘! 佑さんがスパダリって言葉知ってる!」

 ガバッと体を起こすと、言葉に馴染んでいなさそうな彼が微妙な顔をしている。

「河野に言われたんだ。『社長ってスパダリですよね』って。単語が分からなくて意味を調べたら……、大した事が書いてあったけど……。俺は社会的地位はそうかもしれなくても、中身は違う。香澄に他の男の影が迫ったら、ガキみたいにみっともなく嫉妬する。時に、力づくでも言う事を聞かせようとする、一人の嫉妬深い男だ」

 香澄はすぐに茶々を入れる。。

「ヤンデレは? 調べた?」

「ああ、それも前に言われたっけ」

 そう言って佑はスマホに手を伸ばし、検索する。

 香澄はワクワクして佑を見守り、彼の表情が微妙なものになるのを目の当たりにしてケタケタと笑いだす。

「……俺、別に病んでる自覚はないけど。……境界性パーソナリティ障害……」

 困った時のウェキペディアを読んだ佑は、何やらまじめに落ち込んでいる。

「んふふふふ……。おかしぃ。別に佑さんが病気だって言いたい訳じゃないけどね。時々思い込みが激しくなるから、茶化しただけなんだけど」

「……ふぅん、世間的にはこういう単語があるのか。キャラづけみたいなものかな」

「そう。クールとか熱血とか俺様とか」

「香澄はどこでそういう情報を仕入れるんだ?」

 言われてドキッとする。まさか電子書籍の本棚を見せる訳にいかない。

「うーんと……。マンガとか恋愛小説とか」

「俺がいるのに恋愛……いや、なんでもない」

 佑はヒラヒラと手を振り、溜め息をつく。

「んー? 私に恋愛小説読んでほしくないの?」

 だが香澄はニヤニヤしたまま、佑の頬をツンツンとつつく。
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