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第十一部・スペイン 編

チョコレートデート

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 カカオ・タンパカは、石造りに黒い看板という店構えだ。

 建物は昨日のレストランのように、うなぎの寝床のような造りをしている。

 入ってすぐの場所にチョコレートが陳列されてあり、「よし、お土産に買っていこう」と心に決める。
 奥にはイートインスペースがあり、フェルナンドがウエイトレスに来店人数を告げた。

「わあ、おいしそ」

 ガラスケースの中には、エクレアをはじめブラウニーなどのチョコレート菓子がある。
 加えてクロワッサンやチュロス、アイスクリームもあった。

『店で買ったチョコラテを、席で食べられるよ』

『そうなんですね。なら、気になったチョコをここで食べて、お土産にするか決められますね』

『美味しいのを選んで買っていきなよ』

『はい!』

 カフェテリアにいる人は、観光客が多い印象だ。

(有名なお店があっても、高級店だと地元の人は入らないっていうアレかな……)

 そう思いつつ、香澄はメニューを見て迷う。

『チュロスってスペインのお菓子でしたっけ?』

『そうだね。世間ではスペイン発祥説とポルトガル発祥説があるけど、俺はスペイン説を推してる。スペインではチュロス・コン・チョコラテと言って、チョコラテとチュロスをセットで食べるのが主流だよ』

『ホットチョコラテはぜひ飲みたいです! ……あ、でもアイスクリームも気になるな』

 迷っていると、フェルナンドが忍び笑いをする。

『カスミってちょっと澄ました感じがあったけど、中身は普通の女の子だね。可愛い』

『食い意地が張ってるだけです……』

 初対面の人にもこう言われてしまうのか、と香澄は苦笑いする。

 久住と佐野は河野に連絡をしたあと、様子を報告するように指示を受けているようだ。
 佐野はまじめな顔でスマホを見て、香澄とフェルナンドの様子をこまめにメッセージで報告している。

 恐らく河野は、報告された事をそのまま佑に連絡する気はないのだろう。

 香澄がラテン系イケメンとデートをしていると知れば、仕事をすっぽかしてこちらに来かねない。
 情報を河野で一旦止め、何かあれば佑に判断を仰ぐやり方は、彼を働かせるのに一番効率的だ。

 結局、香澄はホットチョコラテとアイスクリームを食べる事にした。

 カロリーオーバーだが、香澄の中の食いしん坊が「気軽に来られる場所じゃないから、後悔のないように」と告げている。

 席まで行くと、フェルナンドは向かいに座る。
 彼はホットチョコラテと、チュロスのセットを頼んでいた。

『ごちそうさまです』

『気にしないで。遠い国からきた女の子が、スペインの自慢の味で〝美味しい〟って言ってくれるのが嬉しいんだ』

『じゃあ、今度フェルさんが日本に来たら、私がご馳走しますね』

『よし、約束だ。じゃあ連絡先を交換しようか』

 太陽のような笑みを向けられたが、香澄は一瞬迷う。

(教えていいのかな。でも悪い人じゃなさそうだし、久住さんに判断を仰ぐのも変だし……)

 迷ったあと、「もし変な事になったら、連絡先を削除すればいいか」と思って頷いた。

『いいですよ』

 IDを交換すると、フェルナンドの顔写真のアイコンが表示された。

『言語は英語で大丈夫? リーディング、ライティング大丈夫?』

『はい、難しい言葉でなかったら平気です』

 するとポンと音がして、見慣れないキャラクターのスタンプが送られてきた。
 負けじと香澄も、ゆるい顔をしたキャラクターの、お気に入りスタンプを送る。

 それを見て、フェルナンドがご機嫌に言った。

『日本のキャラクターって可愛いね』

『そりゃあ、自他共に認めるオタク国家ですから。キャラ物のデザインも強いと思いますよ』

 笑って言ったあと、香澄は「いただきます」とホットチョコラテを一口飲もうとする。

 ――が。

「あちっ、ん、あちちっ」

 作りたてのホットチョコラテはあつあつで、猫舌の大敵だ。

 空気を吸うだけ吸って、唇に少しホットチョコラテが触れた段階で息切れがして、一口目を諦めてしまった。

 悔しそうな顔をする香澄を、フェルナンドはプルプル震えながら見ている。
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