上 下
674 / 1,544
第十一部・スペイン 編

フェルナンドとの会話

しおりを挟む
「いただきます」

 フェルナンドが席に着いたあと、香澄は両手を合わせて小さく呟く。

『今のなに? 日本式の食前の祈り?』

『あ、えーと今のは……そうですね、日本式の食前の言葉なのですが……』

 日本の文化に興味を持ってくれたのだな、と思うと嬉しくなった。

 香澄は英語で説明をしつつ、ゆっくり朝食を始めた。





『へえ、じゃあカスミの恋人はあのタスク・ミツルギなんだ』

 朝食を終え、二人はコーヒーを飲みながら会話をしている。

 だがそろそろ朝食時間は終わりのようで、周囲にいる人もまばらになってきた。

『そうなんですけど……。あの、そろそろ時間のようなので……』

『そうだね。楽しくてつい時間を忘れた。俺は休暇なんだけど、もし良かったらカフェテリアでも行ってコーヒーを飲み直さないか? もっと日本の話を聞きたいな』

 誘われて、香澄は考える。

(話していて特におかしな人じゃないし、距離感も普通だった。久住さんたちにいてもらうなら、いい……のかな?)

 恐らく先ほどの段階で、久住たちは佑や河野に連絡を入れているだろう。
 それで特に警戒しろという指示がないのなら……、と思った。

『分かりました。ただ、護衛の同行を了承してください』

 護衛と言われ、フェルナンドは久住と佐野を見た。

『いいよ。君を異性として見ている訳じゃないけど、彼らも仕事をしないとね』

 レストランを出たあと、フェルナンドが尋ねてくる。

『このままホテルを出ても大丈夫? 支度があるなら待ってるけど』

『平気です』

 街をプラプラ歩く程度なら、がっつりメイクをするほどでもないし、貴重品は持っている。

 頷いたあと、護衛もつれてホテルを出た。
 外に出たフェルナンドは、少し考えたあと『よし』と頷く。

『カスミ、日本から来たならカカオ・タンパカのチョコ食べなよ。ここから歩いて十五分ぐらいの場所に、イートインつきの本店がある』

『ぜひ行きたいです!』

 ウェルカムチョコレートがとても美味しかったので、お土産に買いたいと思っていたので、香澄は快諾する。

『じゃあ、行こうか』

 フェルナンドと並んでブラブラと歩きながら、「妙な縁ができたな」とぼんやり考える。

『フェルさんは何をしている人なんですか?』

 あまり人の仕事を気にすると失礼なのかもしれないが、ホテルで優雅に過ごしているなら佑の〝お仲間〟なのかもしれない。

 フェルナンドは気を悪くしたでもなく答えた。

『海運関係を経営しているんだ。海上の輸送サービスと考えてくれればいい。物でも人でもなんでも運ぶよ』

『へえ、色んな方々にお会いしましたが、海運は初めてです』

『今度クルーズ船に招待しようか? もちろん、恋人も一緒に』

『んふふ、ありがとうございます』

 招待は魅力的だが、佑が何と言うか分からないので、一人で決める訳にはいかない。

「決めるのは彼じゃなくて君だろう?」と言われたとしても、香澄が一人で責任が負える話ではない。

 いつも周りに言われている通り、もう一人だけの体ではないのだ。

 フェルナンドの周りにいる女性はは、イエスかノーをハッキリ言う人ばかりなのだろう。
 彼は曖昧に笑ってごまかす香澄を不思議そうな顔で見て、少し肩をすくめた。

『ガウディ関係は見たって聞いたけど、他の都市は行ったの? マドリードとか』

『まだなんです。今回は佑さんの出張に同行しているので、まったくの観光旅行という訳ではないので』

『そうか。スペインはいい国だから、今度あちこち見る事を勧めるよ』

 彼の言葉に『はい』と笑ってから、彼が何人なのか尋ねる事にした。

『今さらなんですが、フェルさんはスペインの方ですか?』

『そうだよ。あ、カスミから見たら区別がつかないかな。日本人は〝外国人〟っていうくくりから、さらに区別するのが苦手って聞いたけど』

『んー……、ラテン系、ゲルマン系、スラブ系……と分かれているのは知識では理解したんですが、実際お会いすると難しいです』

 世界を股に掛けている佑の秘書なのに、我ながら情けない。

『まあ、仕方ないね。俺も日本人と韓国人、中国人の見分けがすぐにつくか? って言われたら、まず分からないと思う』

『ふふ、それ知っている方も言っていました』

 双子を思いだし、香澄は微笑む。

『昨今、何かあると差別差別って言うけど、分からない事は分からないってストレートに聞くのが一番な気もするけどね。尋ねられて怒る人はそれまでな気がする。文化が違う事によって、常識が相手の文化では非常識な事もあるし。それをちゃんと教えてあげるのが文化人だと俺は思うよ』

『みんなフェルさんのような考え方だと、ありがたいです』

『ありがと』

 香澄の言葉にフェルナンドはご機嫌に笑い、『あそこだよ』と前方にある店を示した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...