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第十一部・スペイン 編

螺旋階段にて壊れる

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「色々あったけど、いつまでも気にしているの嫌だし、また仲良くできたらいいなって思ってるよ」

「……お人好しだな」

 佑が溜め息をついて香澄の頭をポンポンと撫でた時、エレベーターが塔の上についた。

「わあ……。思ったより狭い!」

 塔の最上部はとても狭く、両側の壁の隙間からバルセロナの街が見て取れた。

「生誕も受難も似たような感じだけど、どちらかというと受難のほうが人気があるみたいだ」

「ここはどっち?」

「受難だよ。狭いのは見て分かるけど、受難は人とすれ違う余裕があるのに対し、生誕の方はかなり窮屈みたいだ。塔に上って見える物を比べても、こちらの方が見応えがあると以前知り合いに言われたよ」

「ふぅん」

 香澄は隙間から顔を覗かせ、すぐ近くに見える尖塔の上部などを観察する。

 下から見ると、まっすぐ伸びた塔の先端に、葡萄などの色鮮やかな果物が刺さっているよう見えた。
 先ほどのキリストの天蓋にも葡萄があしらわれているという事なので、恐らく間違えてはいないと思う。

 写真を撮ってから進み、渡り廊下まで来た時、香澄が妙な声で笑いだした。

「んひひひひ……。ちょっと怖い」

 怖くなると香澄は笑い声が漏れてしまうタイプで、フェンスの向こうを覗いては「んひひひ」と笑う。

「おかし……。香澄が壊れた」

 そんな様子を見て佑は肩を震わせて笑い、記念に香澄の姿を写真に収めている。

「完成するの楽しみだね。その時はまた佑さんと来たいな」

「完成予定は二〇二六年と言われているが、どうかな。入場料を上げて金を集めて、それで目一杯進めているようだが」

「そっかぁ。結局お金なんだね」

「人は金さえあれば動くからな」

 ゆっくり下りの螺旋階段まで移動したあと、また香澄が笑いだす。

「んふふふふふ……。これ、終わりがない、足がガクガクする」

 狭い螺旋階段は手すりがなく、壁に手を添えてゆっくり下りてゆく。因みに反時計回りの螺旋階段だ。

「上半分はまだマシなんだけどな。下半分はもう少しキツイから、頑張れ」

 佑が言った通り左回りの螺旋階段を下りきると、次は少し横に移動してまた新しい螺旋階段がある。

「こっちは手すりがあるね。でも……これは怖いぃぃ……」

 情けない悲鳴を上げ、香澄はゆっくり螺旋階段を下りてゆく。

 先にスペイン人の護衛が下りてくれているので、安心と言えば安心だ。

 先ほどと反対の時計回りになった螺旋階段は、中央が吹き抜けになっていてそこから下の階段が見える。
 足はガクガクし、香澄はお腹の底からこみ上げる笑いを堪えるのに必死だ。

「上と下で螺旋の向きを変える事で、強度が増しているそうだ。こっちは巻き貝をイメージしているそうだよ。余裕があったら上を見てごらん」

 佑に言われ、香澄は手すりにしっかり掴み、上を見た。

「なるほど……。巻き貝だ」

 巻き貝というよりも、エスカルゴを連想したが似ているので最早どうでもいい。
 香澄はいま恐怖と戦って必死なのだ。

 途中棄権は絶対にできない螺旋階段をひたすら下り、何とか地上まで戻った香澄はへなへなとしゃがみ込んでしまった。

「……怖かった……」

「大丈夫か? よしよし。よく頑張ったな」

 香澄の足の震えが治るまで待ってもらい、また歩きす。

 最後は受難の門を見て、サグラダファミリアの観光は終わりだ。

「この受難の門は、キリストが十字架にかけられた苦しみを表しているそうだ。誕生の門が喜びであるのに対し、こっちは嘆きをテーマにしている」

 斜めにそびえている柱はのっぺりとしていて、骨のようにも見えるし、とても太い蜘蛛の糸のようとも思える。

 よく見ると様々な彫刻があり、あまりキリストの生涯については詳しくないが、彼が何をしたかを表したものや、最後の晩餐とおぼしき表現もあった。

「こう言うと問題があるかもだけど、やっぱり新しい所ってデザインがのっぺりしてるね。私、やっぱり誕生の門の方が好きだな。昔だからこそあんなに精緻な彫刻ができたのかもしれないけど」

「うん、それも少し補足しておこうか。二つの門のデザインがあまりに違うから、作られた時代やデザインしたスビラックス氏のせいにしてしまいがちだが、これでも受難の門はかなりガウディの意に沿った形なんだ」

「へえ!? そうなの!?」

 香澄は目を瞬かせ、かなりシンプルと言っていい受難の門を見上げる。
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