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第十一部・スペイン 編
グエル公園からの眺め
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「河野、もう一枚頼む」
佑が河野に自分のスマホを渡し、あろう事か周囲を気にせずキスをしてきた。
「んんーっ!」
慌てた香澄は抵抗しようとするが、強く抱き寄せられ離れられない。
そこに容赦のない、ハキハキとした声が飛び込んだ。
「写しますよ。はい、リア充」
「…………!」
恥ずかしさのあまり、ボカン、と体内で何かが爆発した気がした。
「OK、ありがとう」
佑は真っ赤になって固まっている香澄をポンポンと撫で、平然としてスマホを受け取る。
「リア充」と言った河野には何のお咎めもなしだ。
香澄はいたたまれない気持ちになったまま、力なく歩き始める。
神殿のように見える列柱ホールに至るまでもう一つ蛇の噴水があり、こちらはモーゼを助けた蛇なのだという。
噴水らしいが、口からチョロチョロと水が出ている程度だ。
(噴水っていうより……)
思った時、佑が口を開いた。
「俺は初めて見た時、『あ、涎垂らしてるな』と思った」
「あはは!」
同じ事を考えていたと知り、香澄は屈託なく笑った。
やがて階段を上りきり、目の前にドーリア式の柱が並んでいるのが見える。
「わあ、凄いね。ギリシャ神話の神殿ってこんなんだったのかな」
「ギリシャの神殿跡はまともに形が残っている所は少ないけど、いつか行こう」
「うん!」
その後、〝洗濯女の回廊〟と呼ばれる場所を歩き、思わず目の錯覚が起こってしまいそうな石の壁に圧倒される。
スカートを穿き、頭に洗濯籠を載せた女性が柱になっていて、頭の上からオーバーハングの壁に続いている。
それから先ほどのホールの上が、ラ・ナトゥーラ広場だ。
際にはカラフルな粉砕タイルの塀が曲線を描いて続き、広場というだけあってかなり開けている。
広場からはバルセロナの街が一望できて、香澄は風に吹かれる髪を押さえて目を細めた。
遠くにはこれから向かう、いまだ工事中のサグラダファミリアが見える。
「ゆっくり車まで戻ってサグラダファミリアに向かおうか。のんびりしてもいいけど、入場チケットが時間指定なんだ」
「それは大変! 間に合う?」
「まだ大丈夫だよ」
二人はまた手を繋ぎ、ゆっくりグエル公園を堪能してからサグラダファミリアに向かった。
サグラダファミリアの当日券はほぼ手には入らないそうだが、さすが佑と言うべきか、護衛たちの分も手配してあった。
チケットは時間指定されていて、閉館直前のものなら当日でも手に入りやすいらしい。
「本当はミサも体験させてあげたかったけど、人数制限があって飛び入りするには難しいみたいだ」
「ううん、いいの。こんな凄い建物を見られただけでも満足だよ」
二人が立っているのは、生誕の門の前だ。
「この生誕の門はガウディの生前にほぼ完成させられた、唯一のファサードだ」
「ファサード?」
「建物の入り口っていう意味」
「ほう」
見上げる門は精緻な彫刻で作り上げられており、香澄は他の新しい部分よりもこのファサードがとても好きだと思った。
「私、ここ好きだな。まったく個人の感想なんだけど、最近作られた所って割とデザインがツルッとしてるでしょ? でもこの生誕の門はこまかーく作られていて、素人ながら芸術だと思う。いや、他の新しい部分も芸術なんだけど」
誤解を招かないように言ってみたが、佑は軽く笑い「俺もだよ」と同意してくれる。
「俺も最初に訪れた時、まったく同じ事を考えた。気が合うな」
そう言って、佑はこのファサードを建築するのに四十一年がかかった事や、三十三体の彫刻があること、イエス=キリストにまつわる出来事が彫られてあるのだと説明してくれた。
目を凝らして色々見ていると、聖母マリアや東方三賢人、羊飼いなどキリストにまつわる彫刻が見えてくる。
しばらく生誕の門を鑑賞し、香澄はポツンと呟く。
「……罰当たりなこと言っていい?」
「いいよ。大らかにいこう」
「屋根がヤングコーンみたい」
「ぶふっ」
香澄の例えに佑が噴きだした。
確かに生誕の門の遙か頭上、四つある尖塔はヤングコーンのようにも見える。
「やっぱり見えるよな。俺も絶対ヤングコーンだと思ってた」
「んふふふ、良かった……。仲間だ。佑さんも道連れ」
二人は笑い合い、生誕の門の写真もたっぷり撮ったので、中に入る事にした。
佑が河野に自分のスマホを渡し、あろう事か周囲を気にせずキスをしてきた。
「んんーっ!」
慌てた香澄は抵抗しようとするが、強く抱き寄せられ離れられない。
そこに容赦のない、ハキハキとした声が飛び込んだ。
「写しますよ。はい、リア充」
「…………!」
恥ずかしさのあまり、ボカン、と体内で何かが爆発した気がした。
「OK、ありがとう」
佑は真っ赤になって固まっている香澄をポンポンと撫で、平然としてスマホを受け取る。
「リア充」と言った河野には何のお咎めもなしだ。
香澄はいたたまれない気持ちになったまま、力なく歩き始める。
神殿のように見える列柱ホールに至るまでもう一つ蛇の噴水があり、こちらはモーゼを助けた蛇なのだという。
噴水らしいが、口からチョロチョロと水が出ている程度だ。
(噴水っていうより……)
思った時、佑が口を開いた。
「俺は初めて見た時、『あ、涎垂らしてるな』と思った」
「あはは!」
同じ事を考えていたと知り、香澄は屈託なく笑った。
やがて階段を上りきり、目の前にドーリア式の柱が並んでいるのが見える。
「わあ、凄いね。ギリシャ神話の神殿ってこんなんだったのかな」
「ギリシャの神殿跡はまともに形が残っている所は少ないけど、いつか行こう」
「うん!」
その後、〝洗濯女の回廊〟と呼ばれる場所を歩き、思わず目の錯覚が起こってしまいそうな石の壁に圧倒される。
スカートを穿き、頭に洗濯籠を載せた女性が柱になっていて、頭の上からオーバーハングの壁に続いている。
それから先ほどのホールの上が、ラ・ナトゥーラ広場だ。
際にはカラフルな粉砕タイルの塀が曲線を描いて続き、広場というだけあってかなり開けている。
広場からはバルセロナの街が一望できて、香澄は風に吹かれる髪を押さえて目を細めた。
遠くにはこれから向かう、いまだ工事中のサグラダファミリアが見える。
「ゆっくり車まで戻ってサグラダファミリアに向かおうか。のんびりしてもいいけど、入場チケットが時間指定なんだ」
「それは大変! 間に合う?」
「まだ大丈夫だよ」
二人はまた手を繋ぎ、ゆっくりグエル公園を堪能してからサグラダファミリアに向かった。
サグラダファミリアの当日券はほぼ手には入らないそうだが、さすが佑と言うべきか、護衛たちの分も手配してあった。
チケットは時間指定されていて、閉館直前のものなら当日でも手に入りやすいらしい。
「本当はミサも体験させてあげたかったけど、人数制限があって飛び入りするには難しいみたいだ」
「ううん、いいの。こんな凄い建物を見られただけでも満足だよ」
二人が立っているのは、生誕の門の前だ。
「この生誕の門はガウディの生前にほぼ完成させられた、唯一のファサードだ」
「ファサード?」
「建物の入り口っていう意味」
「ほう」
見上げる門は精緻な彫刻で作り上げられており、香澄は他の新しい部分よりもこのファサードがとても好きだと思った。
「私、ここ好きだな。まったく個人の感想なんだけど、最近作られた所って割とデザインがツルッとしてるでしょ? でもこの生誕の門はこまかーく作られていて、素人ながら芸術だと思う。いや、他の新しい部分も芸術なんだけど」
誤解を招かないように言ってみたが、佑は軽く笑い「俺もだよ」と同意してくれる。
「俺も最初に訪れた時、まったく同じ事を考えた。気が合うな」
そう言って、佑はこのファサードを建築するのに四十一年がかかった事や、三十三体の彫刻があること、イエス=キリストにまつわる出来事が彫られてあるのだと説明してくれた。
目を凝らして色々見ていると、聖母マリアや東方三賢人、羊飼いなどキリストにまつわる彫刻が見えてくる。
しばらく生誕の門を鑑賞し、香澄はポツンと呟く。
「……罰当たりなこと言っていい?」
「いいよ。大らかにいこう」
「屋根がヤングコーンみたい」
「ぶふっ」
香澄の例えに佑が噴きだした。
確かに生誕の門の遙か頭上、四つある尖塔はヤングコーンのようにも見える。
「やっぱり見えるよな。俺も絶対ヤングコーンだと思ってた」
「んふふふ、良かった……。仲間だ。佑さんも道連れ」
二人は笑い合い、生誕の門の写真もたっぷり撮ったので、中に入る事にした。
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