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第十一部・スペイン 編

誘惑の仕返し

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「ふぅん?」

 小さな電子音が聞こえたのは、佑がスマホを操作したからだろうか。

(あれ? 撮影されてる?)

 不安になって彼のほうを見ようと思った時、剥き出しのお尻を撫でられた。

「ひぁっ」

 ピクンッと体を震わせ顔を上げると、やはり佑が動画を撮っている。
 彼はニヤニヤ笑いながら、空いた手で香澄を撫でてきた。

「んぅ……っ、ん、や、やぁっ」

 佑は香澄の太腿やお尻を撫で、体勢が崩れたところで、まるで犬猫にするかのようにお腹を撫でくり回す。

「んふっ、ん、も、もぉっ、佑さんっ?」

「香澄、笑って」

「やだ、撮影されながらとかやだ! 変態っぽいよ?」

 佑の手が胸元の布に触れ、たやすくその下に潜り込んで柔肉を直に揉んできた。

「俺は一か月、香澄が食器を洗う動画だけで性欲を抑えたんだ。万が一のため、もっと色っぽい動画があってもいいだろ? なるべく起きてる時の動画がいい」

「お、起きてる時って、私が寝てる間に動画撮ってたの!?」

 ガバッと起き上がった香澄は、目をまん丸にして佑を凝視する。
 食器を洗う動画で性欲をどう宥めたのかも疑問だが、寝ている間に動画を撮られたというのは聞き捨てならない。

「え? 当たり前だろ?」

「ちょ……っ、い、いかがわしい動画じゃない?」

「半分は寝顔だよ」

「も、もう半分は?」

「んー……。想像に任せるかな?」

「あぁぁ……」

 香澄は肺の中の空気を絞り出すような溜め息をつき、脱力してベッドの上に転がった。

 佑はまたスマホで香澄を撮影し、まっすぐな黒髪を手で弄んではサラサラと零す。
 あまりにも愛しそうな目で見てくるので、怒るに怒れない。

「……へんたい」

「香澄だけの変態だよ」

 大きな手が頬を撫で、唇をプルンと弾く。

「佑さんは変態だから、ここから先のお触りは駄目です」

「ええ? それは生殺しだろ。俺は下着一枚で待ってたのに」

 佑は不服そうな声で言ってから、構わず香澄の二の腕をすべすべと撫でる。

「駄目です。踊り子さんに触れないでください」

 香澄は冗談めかして言うと、起き上がって膝立ちになり、照れながら自分の手で胸を寄せてみせた。
 誘惑するように胸を強調し、「我慢してください」とわざとツンとして言う。

 それに乗った佑は、変な交渉をしてくる。

「じゃあ、五十万出すから触らせてください」

「ええ!? お、お金で解決するのは駄目です。それに一回のエッチにご、五十……」

「安いか? なら倍で百万」

「い、いらないから! お金なんていらないの」

「じゃあ、タダで抱かせてくれる?」

 綺麗な顔で微笑まれ、香澄は「う……」と言葉に詰まる。

「だって佑さんいっつもエッチな事するんだもん。たまにお休みしないと、体に悪いよ? ……多分」

「ふぅん? それはぜひ、エビデンスをお聞きしたいですね?」

 佑はスマホを置き、両手を彼女の体にかざす。
 香澄の体に触れないように空中で輪郭をたどり、その肢体を視姦した。

「う……っ、手が……。目が、エッチ……」

 意地悪していたつもりだったのに、逆に追い詰められている。
〝自分の行動一つでアウトになる〟状態に香澄は焦りを覚えた。

 どれだけ煽ったつもりでも、気がつけば攻められている。

 何だかんだで誤魔化していたが、今とても恥ずかしいランジェリーを着ている。
 ブラジャーとパンティより布面積が多いはずなのに、どうもこのヒラヒラはいやらしい。

 じわじわと赤面する香澄に、佑が迫る。

「『セックスは体に悪い』の根拠は? 納得できるように説明したら諦めてあげるよ」

 余裕たっぷりに微笑んでいる佑は、香澄が絶対に説明しきれないと分かっている。

「うー……。そ、そんな……。諦めるとか、絶対にダメって言ってる訳じゃなくて……」

 弱った香澄は言い訳を考えるが、何を口にしても論破されてしまいそうだ。

「じゃなくて?」

 佑は楽しそうに先を促す。
 香澄が自分を拒絶するなどあり得ないと分かっているから、こんなにも余裕がある。

 彼にとってはこの時間も、焦らしプレイの一つなのかもしれない。

 そう思うと「敵わないな……」と思い、香澄は降参した。
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