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第十一部・スペイン 編
バルセロナグルメ
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「冷製スープなんだね。すっかり騙された」
あつあつスープかと思って、ふうふうしてしまった自分に香澄は笑う。
スープはトマトをベースに、他の野菜も入っているようだ。
だがこれといった具がある訳ではなく、満遍なくミキサーにかけられていて何が入っているか分からない。
「んー……」
一口一口、香澄は味わいつつ何の野菜が入っているか当てていく。
「玉ねぎは入っていそう。それに……んー……。赤パプリカも入っているのかな? にんじん? んー……分かんない」
「ふふふ、そんなに考えながらスープを飲む人は初めてだ」
「夏場だったら沢山お野菜入っているし、体にいいかな? って思って。来年になったらレシピ調べて作ってみようかな」
「楽しみにしてるよ。今は秋でちょっと季節外れだけど、スペインでスープって言ったらやっぱりガスパチョだから、頼んでみた」
「うん、ありがとう」
ちびちびとスープを飲んでいるうちに、エビのソテーが運ばれてきた。
「わあ、姿焼きだ」
「素材の味が生きていて、シンプルだけど美味しいよ」
「いただきます」
香澄はエビに手を伸ばし、「あちち」と言いながら殻を剥いていく。
殻を剥くと中からジュワッと汁が出て、慌てて指をチュッと舐めた。
「んー、ぷりっぷりだ」
殻を剥いたエビにかぶりつくと、ひと噛みごとにエビがプリプリと口の中で踊る。
「んふっ、ん、ぅ、ん」
ハフハフと熱さを堪えつつ噛むごとに、シンプルな塩味だけで整えられたエビの旨みが広がった。
「美味いか?」
「うまい!」
いつものように佑の口まねをし、香澄は満面の笑みを浮かべる。
エビのソテーは皿の上に沢山あったが、佑と二人でどんどん食べ、あっという間になくなってしまった。
他にもマグロのタルタル、カニグラタンにコロッケ、生ハムや生牡蠣、タコをシェアしてペロッと食べ、とうとうパエリアがドン! と出てきた。
「おおー……。このラスボス感」
思わず香澄は写真撮影をし、「うん」と満足気に頷く。
ちなみに今までの料理もきっちり撮影してある。
麻衣から「ジャフォチェックするから、美味しい写真や綺麗な写真、いっぱい投稿して!」と言われているので、期待に応えなければいけない。
「他の料理で腹が膨れてるから、全員で分けたら丁度いいだろ」
「うん」
パエリアが運ばれると同時に、佑が皿のチェンジを頼んだ。
香澄は新しい皿にパエリアを取り分けるために立ちあがった。
「おっとっと」
けれどそれを佑に窘められ、キョトンと目を瞬かせる。
「さっきも言ったレディファースト、慣れておいて」
「あっ」
言われて、つい「私が……」と自然にやろうとしていたのに気付いた。
「クリスマスのターキーとかもだけど、こういうのは一家の主がやるのが西欧風だよ。覚えておいて」
そう言って佑は取り皿を手にし、パエリアをよそっていく。
まず香澄に盛り、次に河野たちの分をよそった。
「すみません、ありがとうございます」
河野はいつも通りの顔で受け取ったが、護衛たちは恐縮しきっている。
スペイン人の護衛の分もよそったあと、最後に佑は自分の分をとった。
「じゃあ、いただきます」
一口パエリアを食べ、自分で作るのとはまったく違う味わいに香澄はすぐ夢中になった。
パエリアには海老とムール貝、レモンがのっていて、海鮮の旨みや本場の調味料の使い方もあり本当に美味しい。
スペインに着いた時に佑が言っていたうさぎ肉は、バレンシア地方のもののようだ。
しかし郷土料理だけあってこだわりが強く、それぞれ地方で入れる物が決まっていて、一つでも余計な物が入ればパエリアと見なされないらしく、厳しい。
思っていたのと少し違ったのは、サフランで鮮やかに黄色くなった米を想像していたのだが、本場のパエリアはそれほどでもない。強いて言うなら少し黄色みがかった茶色だ。
それを指摘すると、佑が答えてくれる。
「あんまり使うと、サフランの味が強くなるからじゃないかな? 一つまみを色づけに使うぐらいで、真っ黄色になるまではやらないはずだ。日本は映えを意識するから、それで浸透していったんじゃないかな」
「なるほど」
納得の回答があり、香澄はふんふんと頷く。
あつあつスープかと思って、ふうふうしてしまった自分に香澄は笑う。
スープはトマトをベースに、他の野菜も入っているようだ。
だがこれといった具がある訳ではなく、満遍なくミキサーにかけられていて何が入っているか分からない。
「んー……」
一口一口、香澄は味わいつつ何の野菜が入っているか当てていく。
「玉ねぎは入っていそう。それに……んー……。赤パプリカも入っているのかな? にんじん? んー……分かんない」
「ふふふ、そんなに考えながらスープを飲む人は初めてだ」
「夏場だったら沢山お野菜入っているし、体にいいかな? って思って。来年になったらレシピ調べて作ってみようかな」
「楽しみにしてるよ。今は秋でちょっと季節外れだけど、スペインでスープって言ったらやっぱりガスパチョだから、頼んでみた」
「うん、ありがとう」
ちびちびとスープを飲んでいるうちに、エビのソテーが運ばれてきた。
「わあ、姿焼きだ」
「素材の味が生きていて、シンプルだけど美味しいよ」
「いただきます」
香澄はエビに手を伸ばし、「あちち」と言いながら殻を剥いていく。
殻を剥くと中からジュワッと汁が出て、慌てて指をチュッと舐めた。
「んー、ぷりっぷりだ」
殻を剥いたエビにかぶりつくと、ひと噛みごとにエビがプリプリと口の中で踊る。
「んふっ、ん、ぅ、ん」
ハフハフと熱さを堪えつつ噛むごとに、シンプルな塩味だけで整えられたエビの旨みが広がった。
「美味いか?」
「うまい!」
いつものように佑の口まねをし、香澄は満面の笑みを浮かべる。
エビのソテーは皿の上に沢山あったが、佑と二人でどんどん食べ、あっという間になくなってしまった。
他にもマグロのタルタル、カニグラタンにコロッケ、生ハムや生牡蠣、タコをシェアしてペロッと食べ、とうとうパエリアがドン! と出てきた。
「おおー……。このラスボス感」
思わず香澄は写真撮影をし、「うん」と満足気に頷く。
ちなみに今までの料理もきっちり撮影してある。
麻衣から「ジャフォチェックするから、美味しい写真や綺麗な写真、いっぱい投稿して!」と言われているので、期待に応えなければいけない。
「他の料理で腹が膨れてるから、全員で分けたら丁度いいだろ」
「うん」
パエリアが運ばれると同時に、佑が皿のチェンジを頼んだ。
香澄は新しい皿にパエリアを取り分けるために立ちあがった。
「おっとっと」
けれどそれを佑に窘められ、キョトンと目を瞬かせる。
「さっきも言ったレディファースト、慣れておいて」
「あっ」
言われて、つい「私が……」と自然にやろうとしていたのに気付いた。
「クリスマスのターキーとかもだけど、こういうのは一家の主がやるのが西欧風だよ。覚えておいて」
そう言って佑は取り皿を手にし、パエリアをよそっていく。
まず香澄に盛り、次に河野たちの分をよそった。
「すみません、ありがとうございます」
河野はいつも通りの顔で受け取ったが、護衛たちは恐縮しきっている。
スペイン人の護衛の分もよそったあと、最後に佑は自分の分をとった。
「じゃあ、いただきます」
一口パエリアを食べ、自分で作るのとはまったく違う味わいに香澄はすぐ夢中になった。
パエリアには海老とムール貝、レモンがのっていて、海鮮の旨みや本場の調味料の使い方もあり本当に美味しい。
スペインに着いた時に佑が言っていたうさぎ肉は、バレンシア地方のもののようだ。
しかし郷土料理だけあってこだわりが強く、それぞれ地方で入れる物が決まっていて、一つでも余計な物が入ればパエリアと見なされないらしく、厳しい。
思っていたのと少し違ったのは、サフランで鮮やかに黄色くなった米を想像していたのだが、本場のパエリアはそれほどでもない。強いて言うなら少し黄色みがかった茶色だ。
それを指摘すると、佑が答えてくれる。
「あんまり使うと、サフランの味が強くなるからじゃないかな? 一つまみを色づけに使うぐらいで、真っ黄色になるまではやらないはずだ。日本は映えを意識するから、それで浸透していったんじゃないかな」
「なるほど」
納得の回答があり、香澄はふんふんと頷く。
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