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第十一部・スペイン 編
写真撮影
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『プラータ・ボタフメイロ』に入るとすぐ席に案内され、奥行きのある店内を進んでいく。
佑と香澄は二人掛けのテーブルにつき、近くに護衛たちが座った。
「ずいぶんな人数だけど、よく当日に席を確保できたね?」
ドリンクメニューが出され、佑はスペイン語でシャンパンを頼む。
「香澄は?」と尋ねられたが、無難なところでやはりオレンジジュースにしておいた。
「本当は出張でスペインに向かうと決めた時から、大体の行動を予想して店をおさえてあったんだ。香澄をニセコに迎えに行く日も、日本での予備日も考えて空港を発つ日付も。……色々、俺のシナリオ通りですまない」
「ううん。佑さんに任せておくと間違いないもの。逆にありがとう!」
にっこり笑い、香澄は店内を見回す。
「こんなに奥に広いなんて意外。お店の入り口は結構こぢんまりしてたもんね?」
「そうだな。ここは建物が密集してる、建物の造りが京都のうなぎの寝床っぽいから、工夫があるんだろうな」
佑が選んだだけあり、店内は高級そうな雰囲気がある。
香澄たちが座っている席は、店の奥にある階段を上がった場所だ。
ウッド調の店内は見るだけでも居心地がよく、オレンジ色の照明が温かみを演出していた。
階段やバルコニーのようになった二階の柵も、凝った木の装飾が見事で思わず写真を撮りたくなる。
「……写真、撮ってもいいかな?」
「いいと思うよ。フランスでは聞いたほうが無難だと思うけど、スペインはそんなに厳しくない印象だ。客の顔を写さない限りOKだと思う」
大丈夫だと言われ、香澄は人物が入らないように店内をスマホで撮る。
万が一人物が入っていても、ちゃんとモザイクアプリで誤魔化すのは常識だと思っていた。
「フランスは厳しいんだね」
「あの国は美食の国として有名だろ? 高級レストランでは〝作品〟として見なされている事も多い。デザインやアイデアをSNSで拡散する行為……と思うと、嫌がる気持ちも分かる。あとは日本でも写真NGのの店はあるけど、『食べる事に集中してほしいから』というのも、店主の方針だから、言われたらその通りにするしかないかな」
「確かに。お店のこだわりに従ったほうがいい場合はあるよね」
時々、SNSで店の主張と客の望みが合わず、「こんな店けしからん」と拡散されているのを見るが、大体客側が我が儘を通そうとした結果だと思っている。
「他にもフランスでは料理を他人とシェアしないとか、日本とは違う〝当たり前〟があるよ。レディーファーストの文化だから、シェアする時に料理を取り分けるのは男の仕事、飲み物をオーダーするのも女性から、注がれる時もグラスを持たずに注いでもらうとか」
「へええ……」
いつもの感覚だと、つい「私がやりますね」となってしまいそうなので、胸に留め置こうと思った。
「ここは星つきじゃないレストランだから、畏まらないでいいよ。魚介類が美味しいから気に入ってるんだ。せっかくスペインに来たなら、パエリア食べたいだろ?」
「うん!」
「シェアもOKだし、カジュアルに楽しんで」
佑がそう言ったとき飲み物が運ばれてきて、佑が隣のテーブルに「好きな物を注文してくれ」と告げる。
佑は待っている間にメニューを見てあらかた決めたようで、ウェイターに向かってスペイン語で注文をしていった。
「香澄は何か食べたい物ある?」
「メニューを見てたけど、英語表記のを見てもスペインの料理を知らないから、あんまりよく分からないの。佑さんがスペインっぽい物を頼んでくれるって信じてるから、出てきた物を食べるよ」
「分かった」
隣のテーブルからは河野がメインでオーダーをし、注文が終わってから乾杯をした。
護衛たちは仕事ができなくなっては困るので、もちろんソフトドリンクだ。
オレンジジュースを飲んでいる香澄を、佑がニコニコして見てくる。
「……なに?」
「いや、可愛いと思って」
ジュースを飲んでいるだけなのに、極上の男にそう言われるので申し訳ない。
「離れていた時間が長いからかな。もとから見飽きないけど、いつまでも見ていられるな」
テーブルに頬杖をついた佑が、恥ずかしい事を言ってくる。
「や……やめてよもぉ……。別テーブルとはいえ、すぐ側に河野さん達がいるんだから」
香澄は小声で言い、ブーティーのつま先でトンと佑の足をつつくが、彼は動じない。
「隣のテーブルは空席だと思って」
「んんーっ」
(通じてない……!)
視線だけでチラッと右側を気にしたが、四人は特に反応せず楽しそうに雑談をしている。
佑と香澄は二人掛けのテーブルにつき、近くに護衛たちが座った。
「ずいぶんな人数だけど、よく当日に席を確保できたね?」
ドリンクメニューが出され、佑はスペイン語でシャンパンを頼む。
「香澄は?」と尋ねられたが、無難なところでやはりオレンジジュースにしておいた。
「本当は出張でスペインに向かうと決めた時から、大体の行動を予想して店をおさえてあったんだ。香澄をニセコに迎えに行く日も、日本での予備日も考えて空港を発つ日付も。……色々、俺のシナリオ通りですまない」
「ううん。佑さんに任せておくと間違いないもの。逆にありがとう!」
にっこり笑い、香澄は店内を見回す。
「こんなに奥に広いなんて意外。お店の入り口は結構こぢんまりしてたもんね?」
「そうだな。ここは建物が密集してる、建物の造りが京都のうなぎの寝床っぽいから、工夫があるんだろうな」
佑が選んだだけあり、店内は高級そうな雰囲気がある。
香澄たちが座っている席は、店の奥にある階段を上がった場所だ。
ウッド調の店内は見るだけでも居心地がよく、オレンジ色の照明が温かみを演出していた。
階段やバルコニーのようになった二階の柵も、凝った木の装飾が見事で思わず写真を撮りたくなる。
「……写真、撮ってもいいかな?」
「いいと思うよ。フランスでは聞いたほうが無難だと思うけど、スペインはそんなに厳しくない印象だ。客の顔を写さない限りOKだと思う」
大丈夫だと言われ、香澄は人物が入らないように店内をスマホで撮る。
万が一人物が入っていても、ちゃんとモザイクアプリで誤魔化すのは常識だと思っていた。
「フランスは厳しいんだね」
「あの国は美食の国として有名だろ? 高級レストランでは〝作品〟として見なされている事も多い。デザインやアイデアをSNSで拡散する行為……と思うと、嫌がる気持ちも分かる。あとは日本でも写真NGのの店はあるけど、『食べる事に集中してほしいから』というのも、店主の方針だから、言われたらその通りにするしかないかな」
「確かに。お店のこだわりに従ったほうがいい場合はあるよね」
時々、SNSで店の主張と客の望みが合わず、「こんな店けしからん」と拡散されているのを見るが、大体客側が我が儘を通そうとした結果だと思っている。
「他にもフランスでは料理を他人とシェアしないとか、日本とは違う〝当たり前〟があるよ。レディーファーストの文化だから、シェアする時に料理を取り分けるのは男の仕事、飲み物をオーダーするのも女性から、注がれる時もグラスを持たずに注いでもらうとか」
「へええ……」
いつもの感覚だと、つい「私がやりますね」となってしまいそうなので、胸に留め置こうと思った。
「ここは星つきじゃないレストランだから、畏まらないでいいよ。魚介類が美味しいから気に入ってるんだ。せっかくスペインに来たなら、パエリア食べたいだろ?」
「うん!」
「シェアもOKだし、カジュアルに楽しんで」
佑がそう言ったとき飲み物が運ばれてきて、佑が隣のテーブルに「好きな物を注文してくれ」と告げる。
佑は待っている間にメニューを見てあらかた決めたようで、ウェイターに向かってスペイン語で注文をしていった。
「香澄は何か食べたい物ある?」
「メニューを見てたけど、英語表記のを見てもスペインの料理を知らないから、あんまりよく分からないの。佑さんがスペインっぽい物を頼んでくれるって信じてるから、出てきた物を食べるよ」
「分かった」
隣のテーブルからは河野がメインでオーダーをし、注文が終わってから乾杯をした。
護衛たちは仕事ができなくなっては困るので、もちろんソフトドリンクだ。
オレンジジュースを飲んでいる香澄を、佑がニコニコして見てくる。
「……なに?」
「いや、可愛いと思って」
ジュースを飲んでいるだけなのに、極上の男にそう言われるので申し訳ない。
「離れていた時間が長いからかな。もとから見飽きないけど、いつまでも見ていられるな」
テーブルに頬杖をついた佑が、恥ずかしい事を言ってくる。
「や……やめてよもぉ……。別テーブルとはいえ、すぐ側に河野さん達がいるんだから」
香澄は小声で言い、ブーティーのつま先でトンと佑の足をつつくが、彼は動じない。
「隣のテーブルは空席だと思って」
「んんーっ」
(通じてない……!)
視線だけでチラッと右側を気にしたが、四人は特に反応せず楽しそうに雑談をしている。
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