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第十一部・スペイン 編
カサ・ミラ
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延々と佑の目の前で着替えさせられたあと、ようやくフィッティングルームを出られた。
だが河野たちに聞こえる場所で着替えていたので、しばらく彼らの顔を見られなかった。
グラシア通りに来てからずっと、いたたまれない気持ちだ。
しかし買い物が終わってガウディが手がけたというカサ・ミラ、カサ・バトリョを見られ時は、きちんと観光ができた気持ちになり嬉しかった。
「わあ、建物がうねうねしてるね」
「海草を表現したそうだ。地元の人はこの建物を〝石切場〟という意味のペドレラという呼び方をしているらしい。カサ・ミラは〝ミラの家〟という意味。家主のミラさん夫婦がここのプリンシパルに住んでいたそうだ」
言われたとおり、荒々しい岩でできた海岸のような印象を受ける。
「プリンシパル? バレエ?」
「日本では地上三階の事。一般的にバレエ団の花形を指す言葉になっているけど、『主な』という意味があるんだ。こっちは階数の数え方がちょっと独特で、昔は家主さんが皆プリンシパルに住んでいて、そこだけ贅沢な作りになっているんだ。階数の数え方が変わっているの、泊まってるホテルでも地上一階がゼロ階で驚いてただろ」
言われて、エレベーターのフロアボタンにゼロがあったのを思いだす。
「うん。グランドのGならまだ理解できるんだけど、ゼロは初めて」
「スペインでは地上一階をゼロ階と言ったり『メインの階』、『下の階』という表現をするから、少しややこしいな。因みに普通の人が住む住居では階数の単位をピソと言って、商用のオフィスやデパートではプランタと数えるんだ」
「うーん、複雑」
感心して頷くと、佑がニヤッと笑う。
「もっと面白い話をすると、この建物、ガウディの建築物っていう事で家賃が高そうだろ?」
「うん。すっごく高そう」
「それが当時あまりに外見が風変わりだったから、なかなか住む人が見つからなかったそうだ。それで『三世代のあいだ値上げをしない』と契約してしまったらしい。今でもこの素晴らしい物件が、破格の値段で住めているんだ」
「へええー! すごい。住んでいる人、ラッキーだね」
「確かに」
笑い合い、写真を撮ったあと移動する。
来た道を戻った場所にあるカサ・バトリョは、やはり『バトリョの家』という意味だ。
「こっちは廃材を利用したエコな建築物なんだ」
建物がよく見えるよう向かいの道路に立ち、佑が説明する。
建物は全体的に青緑っぽい色をして、バルコニーの意匠はもとより壁面の模様が美しく、窓ガラスもステンドグラスで美しい。
日差しを浴びて様々な色に輝く壁面は、貝殻の内側を見ているようだ。
「とっても綺麗だね」
「粉砕タイルやガラスは、地元の会社から譲り受けた廃棄物だそうだ。中も青いタイルが壁に敷き詰められていて、綺麗だよ。入る?」
中に入りたいが、物凄い行列ができている。
「うーん、見たいのはやまやまだけど、お昼のレストランも予約したんでしょう? さっき河野さんが電話してるの、チラッと聞いちゃったし」
「ん……」
佑は可能な限り楽しませたいと思ってくれているようだが、レストランの時間が迫っているのも事実らしい。
「また後日にしよう? 今回は外観を見られただけで満足。それに沢山色々買ってくれてありがとう」
笑顔でお礼を言うと、佑も嬉しそうな顔をして頭を撫でてくれた。
スペインの飲食店の開店時間は、日本の感覚と大きくずれている。
ランチタイムが十三時半から十六時、ディナーは二十一時から二十四時、真夜中までとなっている。
河野が予約をした『プラータ・ボタフメイロ』は、グラシア通りにある。
といっても今まで買い物をしたメインストリートではなく、少し奥まった場所だ。
近くなので佑と手を繋ぎ、景色を楽しみながら歩いて向かう事にした。
「歩道が広いね」
「そうだな。オランダにいるともっと顕著に感じるけど、歩行者や自転車への配慮がきちんとされている。土地が広い事もあるんだろうけど」
「オランダって自転車大国だっけ」
「そう。あとみんな背が大きいよ。きっとびっくりすると思う。あとは酪農大国で牛乳が美味しい」
「ううーん、魅力的。風車とかチューリップもあるよね」
「いつか行こうな」
「うん!」
寄り添って歩く二人を、左右後ろの護衛たちが生暖かい目で見ていた。
だが河野たちに聞こえる場所で着替えていたので、しばらく彼らの顔を見られなかった。
グラシア通りに来てからずっと、いたたまれない気持ちだ。
しかし買い物が終わってガウディが手がけたというカサ・ミラ、カサ・バトリョを見られ時は、きちんと観光ができた気持ちになり嬉しかった。
「わあ、建物がうねうねしてるね」
「海草を表現したそうだ。地元の人はこの建物を〝石切場〟という意味のペドレラという呼び方をしているらしい。カサ・ミラは〝ミラの家〟という意味。家主のミラさん夫婦がここのプリンシパルに住んでいたそうだ」
言われたとおり、荒々しい岩でできた海岸のような印象を受ける。
「プリンシパル? バレエ?」
「日本では地上三階の事。一般的にバレエ団の花形を指す言葉になっているけど、『主な』という意味があるんだ。こっちは階数の数え方がちょっと独特で、昔は家主さんが皆プリンシパルに住んでいて、そこだけ贅沢な作りになっているんだ。階数の数え方が変わっているの、泊まってるホテルでも地上一階がゼロ階で驚いてただろ」
言われて、エレベーターのフロアボタンにゼロがあったのを思いだす。
「うん。グランドのGならまだ理解できるんだけど、ゼロは初めて」
「スペインでは地上一階をゼロ階と言ったり『メインの階』、『下の階』という表現をするから、少しややこしいな。因みに普通の人が住む住居では階数の単位をピソと言って、商用のオフィスやデパートではプランタと数えるんだ」
「うーん、複雑」
感心して頷くと、佑がニヤッと笑う。
「もっと面白い話をすると、この建物、ガウディの建築物っていう事で家賃が高そうだろ?」
「うん。すっごく高そう」
「それが当時あまりに外見が風変わりだったから、なかなか住む人が見つからなかったそうだ。それで『三世代のあいだ値上げをしない』と契約してしまったらしい。今でもこの素晴らしい物件が、破格の値段で住めているんだ」
「へええー! すごい。住んでいる人、ラッキーだね」
「確かに」
笑い合い、写真を撮ったあと移動する。
来た道を戻った場所にあるカサ・バトリョは、やはり『バトリョの家』という意味だ。
「こっちは廃材を利用したエコな建築物なんだ」
建物がよく見えるよう向かいの道路に立ち、佑が説明する。
建物は全体的に青緑っぽい色をして、バルコニーの意匠はもとより壁面の模様が美しく、窓ガラスもステンドグラスで美しい。
日差しを浴びて様々な色に輝く壁面は、貝殻の内側を見ているようだ。
「とっても綺麗だね」
「粉砕タイルやガラスは、地元の会社から譲り受けた廃棄物だそうだ。中も青いタイルが壁に敷き詰められていて、綺麗だよ。入る?」
中に入りたいが、物凄い行列ができている。
「うーん、見たいのはやまやまだけど、お昼のレストランも予約したんでしょう? さっき河野さんが電話してるの、チラッと聞いちゃったし」
「ん……」
佑は可能な限り楽しませたいと思ってくれているようだが、レストランの時間が迫っているのも事実らしい。
「また後日にしよう? 今回は外観を見られただけで満足。それに沢山色々買ってくれてありがとう」
笑顔でお礼を言うと、佑も嬉しそうな顔をして頭を撫でてくれた。
スペインの飲食店の開店時間は、日本の感覚と大きくずれている。
ランチタイムが十三時半から十六時、ディナーは二十一時から二十四時、真夜中までとなっている。
河野が予約をした『プラータ・ボタフメイロ』は、グラシア通りにある。
といっても今まで買い物をしたメインストリートではなく、少し奥まった場所だ。
近くなので佑と手を繋ぎ、景色を楽しみながら歩いて向かう事にした。
「歩道が広いね」
「そうだな。オランダにいるともっと顕著に感じるけど、歩行者や自転車への配慮がきちんとされている。土地が広い事もあるんだろうけど」
「オランダって自転車大国だっけ」
「そう。あとみんな背が大きいよ。きっとびっくりすると思う。あとは酪農大国で牛乳が美味しい」
「ううーん、魅力的。風車とかチューリップもあるよね」
「いつか行こうな」
「うん!」
寄り添って歩く二人を、左右後ろの護衛たちが生暖かい目で見ていた。
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