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第十一部・スペイン 編

ランジェリーショップ

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 彼は佑を見て『いらっしゃいませ。御劔様』と上品な笑みを浮かべ、握手を交わす。
 続いて香澄とも握手をし、『どうぞお座りください』とソファを勧めた。

『突然来たにもかかわらず、温かな対応を感謝します』

『歓迎致しますとも! いま飲み物を用意致しますが、お好みはありますか?』

『では俺はコーヒーを。香澄は?』

「えっと……」

 できればコーヒーを飲みたいが、外出中なのでカフェインで手洗いが近くなってしまっては困る。
 少し迷っていると、責任者がにこやかに付け加えた。

『他にもシャンパンやソフトドリンク、アイスクリームもお出しできますよ?』

 まさかのシャンパンやアイスクリームに怖じ気づき、香澄は無難な物をお願いする。

『ではオレンジジュースをお願いします』

『承知致しました』

 責任者が退室したあと、入れ替わりで先ほどの女性スタッフが入ってきた。
 彼女は沢山の服が掛かったハンガーを搬入して、香澄はギクリと身を強張らせる。

「香澄、大人しく試着して」

 にっこり笑いかけられ、香澄は生ぬるい笑みを浮かべる。

「は、……はい……」

 それから一時間近く、色々な服を次々に試着していく事になる。

 香澄に似合う似合わないは佑が決めるので、迷う事はない。
 しかしフィッティングルームで服を破かないよう、おっかなびっくり着替えるので時間がかかる。

 それでも一時間半後にはすべての会計と梱包が終わっていたのは、スムーズと言えたのかもしれない。

 佑が買ったのは服だけでなく、バッグや革小物、ブランドロゴでできたアクセサリーまで多岐にわたる。

 それらがポンポンと買われるのを、香澄は気が遠くなる思いで見ていた。





 同じ要領で軒先を連ねる別のブランド店を回り、続いてブルゴルにも入ろうとしたので、香澄は必死に止めた。

 ただでさえ高級な物を爆買いしているのに、この上宝石まで買われたら泣いて逃げたくなる。
 バルセロナで迷子になるのは御免だ。

 訴えを聞き入れてもらったあと、グラシア通りを横断して件のランジェリーショップに入った。

「ここ下着屋さんだけど、佑さんも入るの?」

「俺が入らないと決まらないだろう」

 護衛はスペイン組が外で待機し、河野はじめ日本人組が店内に入ったが、さすがの彼らも目のやり場に困っているように見えた。

「で、で、でも……」

 どもりつつも、香澄は自分がうろたえている事に少し違和感を覚えた。

 店内では恋人同士が普通に下着を選んでいる。
 中には熟年夫婦もいて、とても楽しげだ。

 香澄が見ている光景に気付いたのか、佑が説明してくれた。

「こちらでは店で男性と下着の相談をしたり、男性が買ってプレゼントするのは普通だよ。見ての通り、下着は若い人だけの物じゃない。愛し合うカップル、夫婦には当たり前に必要な物なんだ。もっと言えば、こちらの人はベッドで愛を確かめ合うのも勿論大事だが、過程も大切にしている」

 言われて、以前見た海外ドラマを思いだした。
 愛し合う夫婦が子供を預け、お洒落をして結婚記念日にホテルでディナーを楽しむシーンだ。

 結婚した従姉妹からも、記念日には夫婦で夜にデートをすると聞いた。
 きっとその日だけは〝家族〟から離れて〝恋人〟の気分に戻るのかもしれない。

 そのように佑に言いくるめられ、香澄はVIPルームでセクシーな下着たちと相対する事になった。

 VIPルームで河野たちは、壁に向かって立っている。

「ねぇ、佑さん。これ透けてるよ」

 香澄が手にしているのは、いつ着るのか分からないスケスケのベビードールだ。
 頼りない布地を手で弄んでいると、フィッティングルームに入った佑が香澄の腰に手を回し、クルッと鏡に体を向ける。

「ふ……ん、丈はこれぐらいか。で、手触りは……。うん」

 佑は真剣な顔で香澄が試着したベビードールを触り、いきなりズボッと胸の中に手を入れてきた。

「ひゃっ」

「しぃ。静かに」

 佑は胸と布地との隙間を確かめ、ついでに香澄の胸を揉む。

「OK。レースも綺麗だしこれも買おう」

 佑は即決し、次の下着を手に取る。
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