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第十一部・スペイン 編
河野の意外な情報
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河野はいつものように、淡々と〝仕事〟をしていたのだろうが、女性が大勢いる売り場でコスメを買わせたと思うと申し訳ない。
けれど佑は「これが秘書の正しい使い方だ」と言うし、河野も「仕事ですのでお気になさらず」と言うので、逆にいたたまれなくなる。
彼に平謝りすると、こんな事を言っていた。
『買い物をするぐらい、どうって事はないんです。前の職場でも結構な物を買いに走った事がありますし。ですが店員さんに〝こんなに買ってくれるなんて、彼女さんは幸せですね〟って言われたのがダメージでしたね。私は独り身なんですが……』
BAに盛大な勘違いをされたのが効いたようで、香澄も何とフォローしていいのか分からないが、とにかく申し訳ない。
メイクをしたあと、香澄はドルマンニットはそのままに、ボトムだけスカートに穿き替えた。
佑と一緒にいるとどんな店に入るか分からず、もしかしたらドレスコードのあるレストランに入る可能性もある。
リビングに戻ると佑も着替えていて、ベージュパンツにストライプシャツ、その上にグレーのVネックセーターに、ネイビーチェックの洒落たジャケット姿になっていた。
部屋から出て廊下を歩きながら、香澄は河野の事を話題に出す。
「河野さんって結構素敵なのに彼女いないんだね。性格は少しとっつきにくいかもだけど、身長高いし顔もいいし、仕事もできるし、忙しいけど高給取りでしょ? 彼女がいないのが不思議」
「彼は自由時間を趣味に費やしているそうだから、どっちも取ろうとしたらうまくいかないんだろう。街コンや婚活パーティーに行こうか悩んでいるようだ」
河野が婚活……と言われて興味を持つが、その前に気になる事があった。
「河野さん、夢中になってる趣味があるの?」
何事にも淡泊な性格と思っていたので、新鮮な情報だ。
「ああ、いや。……口が滑ったな。いずれ話してくれる時がきたら、教えてもらうといいよ。個人の事だから俺からは黙っておく」
「うん、そうする」
気になると言えば気になるが、確かに個人的な事なので無理に聞いて佑を困らせてもいけない。
「気にさせる言い方をしてごめん」
「ううん。気になって堪らないってほどじゃないもの。今は佑さんとバルセロナデートする方が重要事項です」
「そうだな」
目の前でエレベーターのドアが開き、二人でゴンドラに乗り込む。
(朝からエッチしてしまった……。日本での生活でならあり得ないのに、海外マジック凄い)
ほんの少し反省して、香澄はバルセロナ観光を楽しもうと思った。
瀬尾が運転をし、車はバルセロナの街を走る。
「どこへ向かってるの?」
「昨日言った、グラシア通り。ハイブランドが並んでいるストリートで、アンドレス・サルセドのショップもある」
「それって……」
ホテルで愛撫されながら言われたブランド名に、香澄の頬がヒクッとなる。
「し、下着買うの?」
瀬尾と呉代が、ふぐっと息を詰まらせた。
動揺したのを気取られないように、彼らが必死に隠したのは懸命な判断だ。
「買うよ? せっかく本拠地に来たんだから、ショッピングを楽しまないと。前にも言ったけど、俺はいずれ下着のラインナップも確立させたいと思っている。今は手探りで様々な下着を見ている段階だ。香澄にはそのマネキンになってほしい」
「あ……ああ。言ってたね」
仕事の話をされると、「協力しなければ」と思ってしまう。
それを、運転席と助手席にいた二人が「ちょろいな」と思っていたなど、香澄は知らない。
「質感とかデザインによる胸の形の変化とか、女性の香澄だからこそ気付く点があると思う。もちろんいずれ大々的に調査したいと思っているが、その前に身近な場所から感想がほしいんだ」
「うん、分かった。そういう事なら協力します」
コクンと頷きやる気を見せた香澄の言葉を聞き、瀬尾と呉代が生ぬるい表情になる
佑は無言でバックミラーを見て、目で瀬尾に「想像するなよ」と伝えた。
そんな事、二人の濃厚な関係を知っている運転手と護衛たちからすれば、「言わずもがな」である。
彼らとて「沈黙は金なり」は理解している。
やがて十五分ほどで車はグラシア通りに着いた。
車から降りた佑は、瀬尾に「あとで連絡する」と言って香澄、呉代とともに降車した。
後続の車からは現地で雇った銃を所持したボディガードと河野、小山内、久住、佐野が降り、物々しい買い物が始まる。
けれど佑は「これが秘書の正しい使い方だ」と言うし、河野も「仕事ですのでお気になさらず」と言うので、逆にいたたまれなくなる。
彼に平謝りすると、こんな事を言っていた。
『買い物をするぐらい、どうって事はないんです。前の職場でも結構な物を買いに走った事がありますし。ですが店員さんに〝こんなに買ってくれるなんて、彼女さんは幸せですね〟って言われたのがダメージでしたね。私は独り身なんですが……』
BAに盛大な勘違いをされたのが効いたようで、香澄も何とフォローしていいのか分からないが、とにかく申し訳ない。
メイクをしたあと、香澄はドルマンニットはそのままに、ボトムだけスカートに穿き替えた。
佑と一緒にいるとどんな店に入るか分からず、もしかしたらドレスコードのあるレストランに入る可能性もある。
リビングに戻ると佑も着替えていて、ベージュパンツにストライプシャツ、その上にグレーのVネックセーターに、ネイビーチェックの洒落たジャケット姿になっていた。
部屋から出て廊下を歩きながら、香澄は河野の事を話題に出す。
「河野さんって結構素敵なのに彼女いないんだね。性格は少しとっつきにくいかもだけど、身長高いし顔もいいし、仕事もできるし、忙しいけど高給取りでしょ? 彼女がいないのが不思議」
「彼は自由時間を趣味に費やしているそうだから、どっちも取ろうとしたらうまくいかないんだろう。街コンや婚活パーティーに行こうか悩んでいるようだ」
河野が婚活……と言われて興味を持つが、その前に気になる事があった。
「河野さん、夢中になってる趣味があるの?」
何事にも淡泊な性格と思っていたので、新鮮な情報だ。
「ああ、いや。……口が滑ったな。いずれ話してくれる時がきたら、教えてもらうといいよ。個人の事だから俺からは黙っておく」
「うん、そうする」
気になると言えば気になるが、確かに個人的な事なので無理に聞いて佑を困らせてもいけない。
「気にさせる言い方をしてごめん」
「ううん。気になって堪らないってほどじゃないもの。今は佑さんとバルセロナデートする方が重要事項です」
「そうだな」
目の前でエレベーターのドアが開き、二人でゴンドラに乗り込む。
(朝からエッチしてしまった……。日本での生活でならあり得ないのに、海外マジック凄い)
ほんの少し反省して、香澄はバルセロナ観光を楽しもうと思った。
瀬尾が運転をし、車はバルセロナの街を走る。
「どこへ向かってるの?」
「昨日言った、グラシア通り。ハイブランドが並んでいるストリートで、アンドレス・サルセドのショップもある」
「それって……」
ホテルで愛撫されながら言われたブランド名に、香澄の頬がヒクッとなる。
「し、下着買うの?」
瀬尾と呉代が、ふぐっと息を詰まらせた。
動揺したのを気取られないように、彼らが必死に隠したのは懸命な判断だ。
「買うよ? せっかく本拠地に来たんだから、ショッピングを楽しまないと。前にも言ったけど、俺はいずれ下着のラインナップも確立させたいと思っている。今は手探りで様々な下着を見ている段階だ。香澄にはそのマネキンになってほしい」
「あ……ああ。言ってたね」
仕事の話をされると、「協力しなければ」と思ってしまう。
それを、運転席と助手席にいた二人が「ちょろいな」と思っていたなど、香澄は知らない。
「質感とかデザインによる胸の形の変化とか、女性の香澄だからこそ気付く点があると思う。もちろんいずれ大々的に調査したいと思っているが、その前に身近な場所から感想がほしいんだ」
「うん、分かった。そういう事なら協力します」
コクンと頷きやる気を見せた香澄の言葉を聞き、瀬尾と呉代が生ぬるい表情になる
佑は無言でバックミラーを見て、目で瀬尾に「想像するなよ」と伝えた。
そんな事、二人の濃厚な関係を知っている運転手と護衛たちからすれば、「言わずもがな」である。
彼らとて「沈黙は金なり」は理解している。
やがて十五分ほどで車はグラシア通りに着いた。
車から降りた佑は、瀬尾に「あとで連絡する」と言って香澄、呉代とともに降車した。
後続の車からは現地で雇った銃を所持したボディガードと河野、小山内、久住、佐野が降り、物々しい買い物が始まる。
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