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第十一部・スペイン 編

スペイン土産

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「あと身につけるものなら、スペインだとエスパドリーユ……現地ではアルパルガタと呼ばれている、自然素材の靴かな。色んなブランドがあってスペインの夏のファッションには重要なアイテムになってる。地中海地方ではよく履かれていて、サンダルやミュールタイプ、スリッポンとか、気軽に履ける靴が沢山ある」

「わあ、それはお店を見るのが楽しそう。私も気軽に履けそうなのを一つほしいな。サイズがあまり気にならないなら、お土産にしたい」

「自然素材だから、履いているうちに伸びるよ。最初は少しきついぐらいがいいかもしれない」

「ふぅん……」

「あとは革製品。香澄は買わないかもだけど、陶器のルシアノとかは有名だな」

「あっ、さすがにルシアノは聞いた事ある。ドイツのマイダンとかイギリスのウェストブルックとかと並んで、高級なやつ。叔母さんがお人形持っていた気がするな」

「クラシックフィギュリンで有名だけど、テーブルランプとかも可愛いよ」

「いやいやいや! そんな高級なの、お土産に買わないよ」

「香澄が部屋に欲しいって思うなら、俺が買うけど」

「だからぁ、そういうお父さんみたいなのいいって」

「……またお父さんって言った」

 佑がむくれ、香澄は軽やかに笑う。

「お父さんはこんな事しないだろ?」

 急に佑の両手が香澄の胸を揉み、クリクリと乳首を弄ってくる。

「あんっ。……も、もぉっ。佑さんはこういう事し始めたら、キリがないからダメ!」

「はは、バレたか」

 パシャンパシャンとお湯が踊り、収まった頃にはまた香澄は佑に抱かれていた。

「……でもこういう時にお父さんとか冗談でも言ったら、なんかムード下がるからダメだね」
「やっと分かったか」

 佑が香澄の顎の下をちょいちょいとくすぐり、彼女も微笑む。

「不思議だね。子供の頃は普通にお父さんと一緒にお風呂入ってたのに、今は無理」

「普通に育ったら、大体そうだと思うよ」

「中学生とかその頃は、お父さん何も悪い事してないのに、お父さんがいるだけでもう無理ってなって嫌ってたんだよね。……いま思ったら、可哀想な事したな」

 崇はごく普通の父親で、悪い事をすれば当然怒るが、あとは善良な人だ。
 たまに家族だからこそ嫌だと思う癖もあるが、すべて受け入れて家族として大好きだ。

「思春期を迎えると近親相姦にならないために、そうやって親を嫌う本能があるって何かで見たな」

「あぁー……。なるほど。確かにそう言われたら納得するかも。だからこその反抗期なのかな?」

「反抗期までくるとまた別かもしれないけど……、あーあ。いつか生まれる俺の可愛い娘も、いつか俺を嫌うのかな。『お父さん臭い』って言って」

「んふふふふっ……。やだ、妄想しすぎ。佑さん、女の子がいいの?」

「いや、両方ほしい。男の子と一緒に遊びたいけど、女の子をとにかく甘やかして可愛がりたい。俺だけのお姫様にしたい」

 佑が子供をほしがっている言葉を聞き、どこかむず痒くて香澄はひそかににやける。

「佑さんいい匂いだから、『臭い』は言われないと思うよ?」

「……そのうち加齢臭とか気にする年齢になるだろ」

 げんなりした佑がおかしくて、香澄はケタケタ笑う。

「だってそうなったら佑さん、絶対ケアするでしょ。ぜーったい大丈夫。私、佑さんみたいにいい匂いの男の人知らないもん」

「そうならいいんだけど……。自分で気付くかな? 臭くなったら絶対教えてくれよ?」

「ふふふ、分かった」

 変な約束をしつつ、平和な時間が愛しくて笑みを零す。

 佑の手がお湯をすくっては香澄の胸元にかけ、すべすべと肌を堪能する。
 それから下腹部を撫で、やんわりと押してきた。

「俺の子供、ここに宿るんだな」

 そう言われると恥ずかしく、香澄は黙って赤面する。

「結婚するまで、セックス楽しもうな」

 耳元で囁かれ、ボボボッと顔が熱く火照った。

「……セ、セクハラ社長……」

 小さくうなると、佑が笑った。



**



 風呂から上がって少し腰を休め、動けるようになってからメイクをした。

 ニセコでは日焼け止めとリップクリーム程度しかしていなかったのだが、佑と合流して空港に向かう途中で、一度札幌市内で買い物をしている。

 佑と香澄が飲食店で待っている間、河野が佑に言われた物をすべて揃えたのだ。

 デパコス売り場をスーツを着た男性が駆け回り、メモした長いカタカナの名前を真顔で告げ何番の色とまで言われたBAの気持ちは、いかほどだっただろう。
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