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第十一部・スペイン 編
朝食レストランで
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「何があるかな」
ワクワクして香澄が呟いた時、佑が抱き締めてきた。
「ん……っ?」
「何?」という間もなく、唇がキスで塞がれる。
舌で唇を舐められ、つい反射的に唇を開くと、ヌルリと佑の舌が入り込んできた。
「ん……、ん、ぅ……っ」
角度をつけて深く口づけられてようやく、「こんな場所で!」と焦り始めた。
だがトントンと背中を拳で叩いても、彼はキスをやめてくれない。
焦った香澄はキスをしながら目を開き、エレベーターの階数表示がどんどん変わってゆくのを見るしかできない。
レストランがあるフロアは一階だが、その前に途中のフロアから誰か乗ってくるかもしれない。
「んーっ、ン、んーっ」
首を振ってキスを終わらせようとした時――、腰からお尻の谷間にかけてツゥッと指で辿られ、ふにゃっとくずおれてしまった。
「っあ……っ」
膝を着きそうになった香澄を、とっさに佑が抱き留める。
トロンとした表情の香澄と、舌なめずりをして目を細めた佑の視線が絡み――、エレベーターがポンと電子音を立てて停止した。
「行こう」
佑はそのまま何事もなかったのかのように、香澄をエスコートしてエレベーターの外に出る。
(もう……)
香澄も何とか踏ん張り、ガクガクと脚を震わせながらゴンドラを下りた。
「……ばか」
美しいロビーを見たいのに、恥ずかしくて顔を上げられない。
「エレベーターでキスって憧れてなかったか? 一緒に映画を見た時に、そんな事を言ってた気がするけど」
「あ……あれは映画だからだもん。現実でやったら……、ちょっと間違えたらもしかしたら警察を呼ばれるかも」
「キスで警察は嫌だな」
佑は軽やかに笑う。
朝食レストラン前に着くと彼はスタッフに英語で話しかけ、朝食カードを提示した。
開放的で綺麗なレストランには、もう大勢の人が集まっていた。
様々な国からやって来ただろう顔ぶれを見て、香澄はここが異国である事を思い知る。
スタッフに窓際の席へ案内されると、すでにテーブルセットがされてあった。
コーヒーか紅茶を尋ねられ、二人してコーヒーを注文する。
席はスタッフに案内された所が固定らしく、席取りをしなくていいのはありがたい。
「行こうか」
「うん。私は先にドリンクを持ってこようかな」
ドリンクバーまで行き、オレンジ色の液体はオレンジジュースだと理解する。
だが他に不明な色の液体がサーバーにあり、香澄は「どれどれ」と英語のカードを見た。
(ミルクにグレープフルーツに……うーん、クランベリー? どんな味だろ?)
しげしげと見て迷っていると、隣に人の気配を感じ「邪魔してるかも!」と顔を上げる。
横を見ると、いかにもラテン系という顔立ちの背の高い美男子が立っていた。
少し長めの髪は額の真ん中で分け、サイドで顔に掛かっている毛先がセクシーだ。
太い眉の下で、茶色い目が楽しげに細められている。
『何か困ってる? 中国人?』
どうやら気を遣ってくれたようで、香澄はニコッと微笑んだ。
『大丈夫です。ありがとう。私は日本人です』
ついでにペコッと会釈をし、待たせては悪いので、ササッとハズレのないオレンジジュースを注いだ。
(人がいるって気付かなかった。いまだに旅行先って慣れなくてキョロキョロしちゃう。田舎者丸出しだな)
テーブルに戻ろうとした時、食べ物を取りに行ったはずの佑が、やはりラテン系の女性に話しかけられている現場を見てしまう。
女性は体にフィットした花柄のワンピースを着ていて、見るからにセクシーだ。
佑は日常会話程度に女性の相手をしているようだった。
女性はミーハーを全面に出してキャーキャー、ほどはいかないが、彼に興味を持って話しかけている。
(有名人だもんな……)
そう思うものの、心の奥でモヤァ……と黒いものが生まれて唇を引き結ぶ。
(でも、佑さんは私のです!)
心の中で気合いを入れると、香澄はテーブルに戻って女性の脇からオレンジジュースをテーブルに置いた。
「佑さん、ご飯はまだ取りに行かないの?」
女性の強い視線を浴びつつ日本語で言うと、佑が微笑んだ。
ワクワクして香澄が呟いた時、佑が抱き締めてきた。
「ん……っ?」
「何?」という間もなく、唇がキスで塞がれる。
舌で唇を舐められ、つい反射的に唇を開くと、ヌルリと佑の舌が入り込んできた。
「ん……、ん、ぅ……っ」
角度をつけて深く口づけられてようやく、「こんな場所で!」と焦り始めた。
だがトントンと背中を拳で叩いても、彼はキスをやめてくれない。
焦った香澄はキスをしながら目を開き、エレベーターの階数表示がどんどん変わってゆくのを見るしかできない。
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「んーっ、ン、んーっ」
首を振ってキスを終わらせようとした時――、腰からお尻の谷間にかけてツゥッと指で辿られ、ふにゃっとくずおれてしまった。
「っあ……っ」
膝を着きそうになった香澄を、とっさに佑が抱き留める。
トロンとした表情の香澄と、舌なめずりをして目を細めた佑の視線が絡み――、エレベーターがポンと電子音を立てて停止した。
「行こう」
佑はそのまま何事もなかったのかのように、香澄をエスコートしてエレベーターの外に出る。
(もう……)
香澄も何とか踏ん張り、ガクガクと脚を震わせながらゴンドラを下りた。
「……ばか」
美しいロビーを見たいのに、恥ずかしくて顔を上げられない。
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「あ……あれは映画だからだもん。現実でやったら……、ちょっと間違えたらもしかしたら警察を呼ばれるかも」
「キスで警察は嫌だな」
佑は軽やかに笑う。
朝食レストラン前に着くと彼はスタッフに英語で話しかけ、朝食カードを提示した。
開放的で綺麗なレストランには、もう大勢の人が集まっていた。
様々な国からやって来ただろう顔ぶれを見て、香澄はここが異国である事を思い知る。
スタッフに窓際の席へ案内されると、すでにテーブルセットがされてあった。
コーヒーか紅茶を尋ねられ、二人してコーヒーを注文する。
席はスタッフに案内された所が固定らしく、席取りをしなくていいのはありがたい。
「行こうか」
「うん。私は先にドリンクを持ってこようかな」
ドリンクバーまで行き、オレンジ色の液体はオレンジジュースだと理解する。
だが他に不明な色の液体がサーバーにあり、香澄は「どれどれ」と英語のカードを見た。
(ミルクにグレープフルーツに……うーん、クランベリー? どんな味だろ?)
しげしげと見て迷っていると、隣に人の気配を感じ「邪魔してるかも!」と顔を上げる。
横を見ると、いかにもラテン系という顔立ちの背の高い美男子が立っていた。
少し長めの髪は額の真ん中で分け、サイドで顔に掛かっている毛先がセクシーだ。
太い眉の下で、茶色い目が楽しげに細められている。
『何か困ってる? 中国人?』
どうやら気を遣ってくれたようで、香澄はニコッと微笑んだ。
『大丈夫です。ありがとう。私は日本人です』
ついでにペコッと会釈をし、待たせては悪いので、ササッとハズレのないオレンジジュースを注いだ。
(人がいるって気付かなかった。いまだに旅行先って慣れなくてキョロキョロしちゃう。田舎者丸出しだな)
テーブルに戻ろうとした時、食べ物を取りに行ったはずの佑が、やはりラテン系の女性に話しかけられている現場を見てしまう。
女性は体にフィットした花柄のワンピースを着ていて、見るからにセクシーだ。
佑は日常会話程度に女性の相手をしているようだった。
女性はミーハーを全面に出してキャーキャー、ほどはいかないが、彼に興味を持って話しかけている。
(有名人だもんな……)
そう思うものの、心の奥でモヤァ……と黒いものが生まれて唇を引き結ぶ。
(でも、佑さんは私のです!)
心の中で気合いを入れると、香澄はテーブルに戻って女性の脇からオレンジジュースをテーブルに置いた。
「佑さん、ご飯はまだ取りに行かないの?」
女性の強い視線を浴びつつ日本語で言うと、佑が微笑んだ。
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