646 / 1,559
第十一部・スペイン 編
どんな障害だって乗り越えてみせる
しおりを挟む
だが素晴らしい反射神経で抱きすくめられ、あっという間に抱き締められていた。
そして耳元で意地悪な声がする。
「謝らないよ。だって図星だから怒ったんだろ?」
そう言って、ムニムニと乳房を揉まれた。
「ん……、ん。……いじわる……」
そのまま佑は香澄を抱いたまま、ベッドのヘッドボードにもたれかかった。
肌越しに二人の体温が混じり合い、香澄は安堵の息をつく。
「……あのね」
「ん?」
少しためらってから、香澄はずっと思っていた事を話す。
「さっきの既視感って、多分八月にイギリスに行った時のじゃないかって思うの」
言った途端、佑の手に力がこもる。
それだけで、何かあったとのだと分かった。
(良くない事があった。そして佑さんは思い出さない事を望んでいる
彼が自分を守ろうとしてくれているのは分かる。
だがこればかりは自分の問題だ。
「空白の八月……だよね。イギリスの」
佑が静かに息を吸い、身を強張らせる。
「エミリアさんと飛行機に乗って、ファーストクラスでヒースローに向かったのは覚えているの。お金返さないとって思って、でも幾ら掛かったのか分からなくて、……そのまま踏み倒してしまった」
佑は何も言わない。
もしかしたら、言うべき言葉を懸命に探していたのかもしれない。
「あの時の事を思い出そうとすると、頭が真っ白になって、胸がドキドキしてとても不安になるの。……でも沢山逃げたし、そろそろ向き合ってもいいんじゃないかなって」
「……無理に思い出そうとしなくていい」
佑の声が微かに震えている。
自分のせいで彼が怯えている。
申し訳ないのに、嬉しくて愛しい。
そしてとても心強く思った。
何があっても自分は一人ではないと感じられるからだ。
(だから、いつか思い出したとしても怖くない)
「記憶にない事だから、無理に思いだそうとしても無駄だって分かってる。けど、いつか〝その時〟がきたら、佑さんの手を握って立ち向かいたい」
強く、しなやかでいたいと願う。
佑は高望みしなくていいと言うが、自分の誇りは大切にしたい。
良い人間でありたいし、佑の隣に立つに相応しい女性でありたい。
身の丈に余る願いかもしれないが、志を高く持つと背筋がスッと伸びる。
堕落するたやすさを知っているからこそ、気持ちを引き締めていたい。
だから……。
香澄は微笑み、自分を抱く佑の腕を優しく撫でた。
「とっくのとうに、情けない姿を晒してしまった私が言える言葉じゃないけど」
最後に冗談めかして明るく言い、笑い飛ばす。
けれどやはり、佑は何も言わない。
「私ね、イギリスって憧れの国の一つなの。イギリス貴族って素敵だし、アフターヌーンティーとか楽しんでみたい。バッキンガム宮殿やビッグベンやテムズ川……。佑さんと、行ってみたいな」
希望に満ちた声で言うと、しばらくして佑が肩口で溜め息をついた。
「……香澄はずるいな。そう言ったら俺が断らないって分かってるだろ」
「……嫌いになった?」
ふふ、と笑って振り向くと、何か言いたげな瞳と目が合う。
「なる訳ないじゃないか。ただ……。可愛くてずるい。あざといよ、香澄は」
そして上から噛みつくようにキスをされ、ちゅっちゅっと音をたててついばまれる。
「んふふっ」
いつか地獄の蓋を開ける時が来るかもしれない。
その時はきっと、マティアスにレイプされたと勘違いした時より、つらい思いをするかもしれない。
それでも――。
「もう逃げないって決めたの。佑さんと一緒に幸せになるためなら、どんな障害だって乗り越えてみせる」
揺るぎない香澄の目を見て、佑は小さく息をついた。
「俺は何があっても香澄を手放さない。それだけは覚えておいて」
「……うん」
「香澄がどんなに絶望しても、俺は側にいるし香澄のすべてを愛する。嫌だと言ってもキスをするし、抱く。別れたいと言っても絶対同意しない。それでも逃げようとしたら、最悪どこかに閉じ込めるかもしれない」
並々ならぬ執着と束縛に、香澄は甘く心を震わせる。
そして耳元で意地悪な声がする。
「謝らないよ。だって図星だから怒ったんだろ?」
そう言って、ムニムニと乳房を揉まれた。
「ん……、ん。……いじわる……」
そのまま佑は香澄を抱いたまま、ベッドのヘッドボードにもたれかかった。
肌越しに二人の体温が混じり合い、香澄は安堵の息をつく。
「……あのね」
「ん?」
少しためらってから、香澄はずっと思っていた事を話す。
「さっきの既視感って、多分八月にイギリスに行った時のじゃないかって思うの」
言った途端、佑の手に力がこもる。
それだけで、何かあったとのだと分かった。
(良くない事があった。そして佑さんは思い出さない事を望んでいる
彼が自分を守ろうとしてくれているのは分かる。
だがこればかりは自分の問題だ。
「空白の八月……だよね。イギリスの」
佑が静かに息を吸い、身を強張らせる。
「エミリアさんと飛行機に乗って、ファーストクラスでヒースローに向かったのは覚えているの。お金返さないとって思って、でも幾ら掛かったのか分からなくて、……そのまま踏み倒してしまった」
佑は何も言わない。
もしかしたら、言うべき言葉を懸命に探していたのかもしれない。
「あの時の事を思い出そうとすると、頭が真っ白になって、胸がドキドキしてとても不安になるの。……でも沢山逃げたし、そろそろ向き合ってもいいんじゃないかなって」
「……無理に思い出そうとしなくていい」
佑の声が微かに震えている。
自分のせいで彼が怯えている。
申し訳ないのに、嬉しくて愛しい。
そしてとても心強く思った。
何があっても自分は一人ではないと感じられるからだ。
(だから、いつか思い出したとしても怖くない)
「記憶にない事だから、無理に思いだそうとしても無駄だって分かってる。けど、いつか〝その時〟がきたら、佑さんの手を握って立ち向かいたい」
強く、しなやかでいたいと願う。
佑は高望みしなくていいと言うが、自分の誇りは大切にしたい。
良い人間でありたいし、佑の隣に立つに相応しい女性でありたい。
身の丈に余る願いかもしれないが、志を高く持つと背筋がスッと伸びる。
堕落するたやすさを知っているからこそ、気持ちを引き締めていたい。
だから……。
香澄は微笑み、自分を抱く佑の腕を優しく撫でた。
「とっくのとうに、情けない姿を晒してしまった私が言える言葉じゃないけど」
最後に冗談めかして明るく言い、笑い飛ばす。
けれどやはり、佑は何も言わない。
「私ね、イギリスって憧れの国の一つなの。イギリス貴族って素敵だし、アフターヌーンティーとか楽しんでみたい。バッキンガム宮殿やビッグベンやテムズ川……。佑さんと、行ってみたいな」
希望に満ちた声で言うと、しばらくして佑が肩口で溜め息をついた。
「……香澄はずるいな。そう言ったら俺が断らないって分かってるだろ」
「……嫌いになった?」
ふふ、と笑って振り向くと、何か言いたげな瞳と目が合う。
「なる訳ないじゃないか。ただ……。可愛くてずるい。あざといよ、香澄は」
そして上から噛みつくようにキスをされ、ちゅっちゅっと音をたててついばまれる。
「んふふっ」
いつか地獄の蓋を開ける時が来るかもしれない。
その時はきっと、マティアスにレイプされたと勘違いした時より、つらい思いをするかもしれない。
それでも――。
「もう逃げないって決めたの。佑さんと一緒に幸せになるためなら、どんな障害だって乗り越えてみせる」
揺るぎない香澄の目を見て、佑は小さく息をついた。
「俺は何があっても香澄を手放さない。それだけは覚えておいて」
「……うん」
「香澄がどんなに絶望しても、俺は側にいるし香澄のすべてを愛する。嫌だと言ってもキスをするし、抱く。別れたいと言っても絶対同意しない。それでも逃げようとしたら、最悪どこかに閉じ込めるかもしれない」
並々ならぬ執着と束縛に、香澄は甘く心を震わせる。
23
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる