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第十一部・スペイン 編

おばさんかな?

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「佑さんだけなの。……ん、……だから、ずっと側にいてね」

 体内で蠢く指を感じ、香澄は悩ましげに眉を寄せる。
 ハァ……と吐息をついた時、佑が香澄の後頭部を押さえてキスをした。

「約束する。側にいるよ。香澄だけを見て、愛する」

 優しい口づけと約束に、涙が滲みそうになる。
 ちゅ、ともう一度キスをして、佑は優しく微笑んだ。

「ん……」

 香澄は佑の体にもたれた体勢で、ゆっくり彼の屹立をさすり続ける。
 佑もまた香澄の蜜壷を丁寧に探り、彼女の体の奥に熾火を作っていく。

 決して性急に求めるだけではない、想い合うからこその愛撫で、香澄は身も心も幸せに満ちてゆく。

「……ね、佑さん」

「ん?」

 佑の優しさに甘え、香澄は胸の奥にある不安を一つ取り除いてもらおうと思った。

「『そんな事ないよ』って言ってほしいだけなんだけど……いい?」

「何だ?」

 彼の屹立を撫でながら、香澄は言葉を続ける。

「私……その。おばさんかな? やっぱり……」

「は?」

 その質問に佑は素っ頓狂な声を出し、思わず愛撫する手を止める。

「どうして?」

「訳が分からない」という目を向けられて気まずくなり、香澄は視線を逸らす。

「やっぱりピチピチの女子大生と比べたら、胸が垂れてるとか……。あ……あそこ、が、……使い込まれてるとか……」

 ニセコで真奈美に向けられた敵意をかわしたつもりでいても、手紙に書かれた悪意の言葉は確かに香澄を傷つけていた。

 自分では女磨きを頑張っているつもりで、佑もストレートに褒めてくれる。
 だから「女としてそれほど悪くないのでは……」と思っていた。

 だが香澄より若い女性から見れば、二十七歳は〝おばさん〟なのだろう。

 佑に何度も抱かれているので処女ではないし、「使い込んでいる」と言われて否定できない。

 定期的にエステに行っているし、自分でも週に二回のスクラブ、風呂上がりには必ず化粧水にボディクリームを塗っている。
 踵だってガサガサにならないよう保湿ケアをしているし、夜寝る前にはネイルオイルを塗り、胸が垂れないようナイトブラもつけている。

 デリケートゾーンのケアもしているし、乳首をはじめ、あちこち黒ずまないようにクリームも塗っている。
 体型だって崩れないように、御劔邸のジムに来てくれるインストラクターに鍛えてもらっている。

 けれど金を掛け手間暇を掛ければいいという訳ではなく、若い人に「おばさん」と言われたら何も言い返せない。

『人を年齢や年収、身長体重など、数字でしか考えないのは愚かしい事』

 以前佑がそう言っていた言葉には同意する。

 けれど自分に直接向けられた憎悪の言葉は、心の奥底に深く刺さって自分では抜く事ができない。

 黙っていると、佑が溜め息をつく。

「こっち向いて」と言われて顔を上げると、濡れた手で頬を撫でられた。

「俺は香澄が一番好きだ。まずそれを念頭に置いてほしい」

「うん……」

「安野に何か言われたんだろ? 彼女の場合、百パーセント僻みだから気にするな」

「ん……」

 励まされているのに、香澄は無意識にお腹に触り、たるんでいないか確かめていた。

「若さは確かに財産だ。若くなければできない事はある。ただ、人生経験はほぼないし、ほとんどの若者は金がない。若さゆえに突っ走り、失敗する事だって多い。多くは社会人としての意識が足りず、人に迷惑を掛ける事も多い。……俺もそうだったよ」

 最後は冗談めかして言われ、「私も」と笑う。

「彼らは多くを学んでいる最中だ。人は悲しい事に、得たばかりの知識ですぐ分かったような気持ちになる。それを説明したものが、ダニング=クルーガー効果って言うんだけど、あとでネットで曲線や説明を読んでみるといいよ」

「うん」

 知らない単語を耳にし、香澄は頷く。

「ニセコで椎野と安野に会って、分かりやすい例だなと思った。他人に対して横柄な態度を取れるのもその表れだ。英語を話せる事を自慢に思った椎野は、プライドの高い男になった。安野も同様だろう。彼女の場合、女性としての嫉妬心もあったから手に負えない。周りを見下す者は、自分が周囲からどう思われているかなど気付かないものだ」

 淡々と説明したあと、佑はにっこり笑う。
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