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第十一部・スペイン 編

無意識に犯したミス

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「ん……、んン……」

(食べたいなら新しいのを食べればいいのに)

 焦って彼の腕をトントンと叩いても、佑は貪るようなキスをやめない。
 佑は香澄の口内を探り、小さな舌を探し当ててヌチュヌチュと自身の舌を擦りつける。

 香澄もいやらしいキスに興奮し、気が付けばソファの上で佑に押し倒され、彼の髪を何度も撫でていた。

「……ぷ、ぁ……」

 ようやくキスが終わり、二人の唇から糸が引いてふつりと切れる。

 佑は無言で香澄を見つめてくる。
 何も言わないからこそ、瞳の奥に込められた熱をまざまざと感じた。

(このままだと、頂かれちゃう)

 焦った香澄は、両手で佑の胸板を押し返した。

「……き、昨日? さっき……? も、飛行機でしたし……」

 何も言われていないのに言い訳をすると、佑が香澄の片脚を抱え上げ、スカートの上から半ば芯を持ったモノを押しつけてきた。

「こんなになってるのに?」

「う……、う。に、……に」

「うに?」

「に、荷ほどきっ」

 真っ赤な顔で起き上がった香澄は、スタタタ……と荷物が置いてある場所まで向かう。

(ごめんなさい! 恥ずかしい!)

 心の中で謝ると、荷物を抱えて続き部屋に逃げてしまった。





(あーあ)

 佑は心の中で嘆息し、苦笑いして香澄の後ろ姿を見送る。

 飛行機の中で盛ってしまったのは確かだが、特に反省はしていない。

 こちらは一か月禁欲して、自慰すらしていない。
 一度は禁断症状のあまり、香澄の下着を拝借して、それをおかずに抜いてしまおうかと思った。

 そんな地獄を抜けて、今は天国だ。

 ニセコで再会して初っぱなから酷い抱き方をしてしまったが、そのあと二人の関係は元に戻っている。

 離れていた期間、香澄の中でマティアスへの感情や、言い知れない不安などを消化できたかは分からない。

 それでも香澄が言った通り、二人の問題は二人で解決しなければならない。

 香澄の不安なら、何だって受け止めるつもりだ。

(……まぁ、俺の場合は、調子が悪かったら香澄を抱けば収まるけど)

 つい今まで腕の中にあった柔らかな体を思い出だし、佑は一人微笑む。

〝彼女の香り〟を切らさないように香水の準備もしたし、このホテルでいちゃつく準備は万端だ。

(しかし……)

 今の香澄の様子を思いだし、溜め息をつく。

 正直、「まずった」と思った。

 香澄が言ったように、佑が使っているホテルは一定条件以上をクリアした物に限られている。

 佑が個人旅行をするなら、どんなホテルに泊まってもいい。

 だが彼があちこちに行けば、現地にいる富裕層から声が掛かり「ぜひ一緒に食事をしたい」と言われる。

 ホテルに客を招待する時もある。

 そういう場合も考えて、人物そのものがブランドになっている〝御劔佑〟に合ったホテルに泊まるべきと考えている。

 起業した当初は、もっと一般人よりの考えだった。

 だが周囲が「あの〝クラウザーの獅子〟の孫」と見る上、急成長したChief Everyの社長としても認識された。
 次第に言動だけでなく、自分にどんな価値がつけられているか意識するようになった。

 このホテルを選んだのも、ショーンとの友情のためでもあるし、彼のホテルを宣伝する意味もある。

 だから今回このホテルを選んだのは〝いつもの事〟だったのだ。

 ヨーロッパの高級ホテルは高確率で古い建物の外観と、城のような内装をしている。

 すっかりいわくのついてしまった、ロンドンのリッチ・カーティスも伝統的なホテルだった。

 エミリアと香澄が何号室に泊まっていたかは分からないが、佑もあの時、相応のグレードの部屋に泊まっていた。
 だから部屋の雰囲気はしっかり把握している。

(似てる……な)

 香澄がロンドンのホテルで何を目撃し、何をされたのか。

 今考えても分からないし、香澄本人に聞く事はできない。

 エミリアは現在とある人物に管理され、逐一報告は受けているものの、冷静に話ができる状態ではないらしい。

 殺したいほど憎い女の顔が脳裏をよぎり、佑は大きく息を吸ってゆっくり吐く。
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