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第十一部・スペイン 編

グラシアス・バルセロナ

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「バルに行くなら色んな物があるよ」

「バル……?」

 聞いた事はあるが、詳しく知らない単語だ。

「バルは言ってしまえば飲み屋。スペイン的な食べ物と言えば、バゲットの上に色んな物をのせて食べるピンチョス。生ハムもアヒージョも美味い。クリームコロッケみたいなクロケッタや、タコ料理。地中海に面しているから、海産物も美味い」

 ごくん、と香澄の喉が鳴る。

 静かな車内で割と響いたのか、佑がクツクツと肩を揺らして笑いだした。

「香澄は素直で可愛い」

「く、食い気だけじゃないもん……」

 俯きつつ反論すると、肩を抱き寄せられ耳元で「知ってるよ」と囁かれる。

「――――っ」

 昨晩の恥ずかしすぎる交わりを思いだし、ボボッと火がついたように顔が熱くなった。

 照れくささを誤魔化すために、スペインについての質問をしながら車中で過ごした。

 窓の外、空港近くは畑が多かったが、すぐに家々がひしめきあう。
 おや、と思ったのは日本でも普及してきた、環状交差点ラウンドアバウトが多い事だ。

 高級そうな店が増えてきたな……と思った頃、車は街中の角で停車した。

「ここが当面の宿『グラシアス・バルセロナ』」

 佑にエスコートされて車を降りると、目の前にはいかにも五つ星ホテルです! という宮殿のような建物がそびえていた。

 バロック様式の建物は、日本にない伝統と高級感を訴えてくる。
 夜なのでライトアップされているのが、また雰囲気を増していた。

 周囲には、オレンジの実がなっている街路樹があるのが印象的だった。

 ぼんやりとホテルを見上げていると、後続の車から河野が出てきて、「部屋の鍵を受け取って参ります」と中に入っていった。

 佑は香澄に周辺を説明する。

「この辺りはゴシック地区。すぐ近くにはカタルーニャ広場や、ランブラス通りがある。ハイブランドの店があるグラシア通りがあるアシャンプラ地区は、もう少し離れた場所だ。ディアグナル通りという大きなストリートの向こうに、サグラダ・ファミリアがあり、もっと行くとグエル公園もある」

「うん……」

 よく分からなくて曖昧に頷くと、ポンポンと頭を撫でられた。

「そのうち」

「うん、そのうち」

 肩を抱かれホテルに入ると、まさしく城! というロビーが広がった。

 白を基調とした内装で、フロント前まで精緻な模様が描かれた絨毯が敷かれていた。
 ゴシック様式らしい豪華な装飾や、アーチなどの曲線を用いた作りはそれだけでも観賞する価値がある。
 煌びやかなロビーには観葉植物のグリーンで目に癒しを与え、貴族が座りそうな椅子では宿泊客が談笑していた。

 夜なのでシャンデリアをはじめ、あちこちに灯りがつき、金色の光を放っている。

「すごい……」

「このホテルは知り合いがオーナーなんだ。ホテル王と言われているショーン・ロッドフォードって聞いた事あるか?」

「あ、うん。名前だけは」

 確かアメリカに本拠地を置く、世界に名を轟かせる富豪の一人だ。

「ドイツ関係からヨーロッパ、アメリカに関係が延長して、現在アメリカに住んでいる知り合いの友人……。ややこしいな。まぁ、紹介だ。そしたら彼のために何着かデザインする事を請け負った。それと引き換えに、各地のホテルで融通を利かせてもらっている」

「すごい……。横の繋がり……」

「そう。世界は広いようでいて、割と狭い」

 それほど待たされる事もなく、コンシェルジュが英語で『ようこそ、ミツルギ様』とカードキーを手に近付いてくる。

『お部屋にご案内します』

 彼について歩き、エレベーターに乗り込むと最上階の九階まで上がる。
 造りは伝統的だが、エレベーターなどの設備はしっかりしている。

『今回もご滞在ありがとうございます。スタッフ一同心を込めておもてなし致します』

 エレベーターの中で挨拶をされ、いざ九階までついて白いドアを開くと、夜のバルセロナを一望できるスイートルームが広がっていた。

「わぁ……綺麗」

 間接照明で柔らかに照らされた部屋は、クラシカルなゴージャス感があった。

 リビングルームのソファは猫足で、お姫様が座っていそうだ。

 花柄のカーテンは厚地で高級感があり、ドレープをきかせて窓辺を飾り、金色のタッセルで留められている。

 部屋の要所には美しいフラワーアレンジメントがあり、テーブルの上にはウェルカムフルーツとチョコレートが置いてあった。
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