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第十部・ニセコ 編
大切なうさぎの管理
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「……うん」
佑は誰が見ても特別な人だ。
そんな彼が自分の事を好きだと言ってくれる。
加えて結婚したいと思っているなど、いまだに冗談ではないだろうか? と思う事がある。
和也が「現実を見ろ」と言ってきたのも、ある意味頷ける。
何度も「そんな事、言われなくたって分かってる!」と言い返したかった。
香澄は容姿も生まれも学歴も、何一つ〝特別〟を持たない。
そんな自分が佑の隣で「婚約者です」としれっと言うには、心臓に毛を生やさなければならない。
(でも求められる限り、顔を上げていたい。何も持っていなくても、佑さんに愛されている事実だけが私の背中を押してくれる)
香澄の想いを肯定するように、佑は微笑んで頭を撫でてきた。
「俺は香澄の人生を変えたと自覚している。俺が何かしたならともかく、香澄がつまらない理由で離れるのは許さない。それは諦めて」
(あ……)
胸の奥で納得する。
(ルカさんも『諦めて』って言ってたな)
佑はルカと面識がなかったようだが、似た人は同じ事を考えるのかもしれない。
「俺の大切な存在だと自覚してほしい。今回は言う通りにしないと壊れてしまいそうだったから、泣く泣く承諾した。今後も〝息抜き〟は香澄のためにもきちんととってほしい。でも、まったく連絡なし、護衛なしは今回で終わりだ」
微笑まれ、香澄は心地いい諦めを感じた。
不意に、自分が佑の愛情という名のリボンに、ぐるぐる巻きにされている幻想を味わった。
手も足も、体も、指の一本に至るまで、佑の想いが籠もった赤いリボンに絡められている。
リボンはぴったりと巻き付き、時に苦しさを覚えるほどだ。
けれど本当につらくなる時は緩んでくれ、それでも決して解かれる事はない。
そんなリボンに、香澄はずっと囚われている。
今後、結婚して彼の想いの強さは変わっていくかもしれない。
だが自分を心配し、慈しむ想いは決して薄れないと思った。
胸の奥に、ゆっくりと覚悟が固まっていく。
「ルカさんが言っていたけど、離れて頭を冷やしても、二人が別々の場所で悩み続けるだけなんだよね。冷却期間は大切だけど、前に進むためには二人できちんと話し合わないと」
香澄は彼の頬を撫で、目を見つめて、ちゅ、と軽く唇にキスをした。
「まだまだ色んな事に慣れてない。でも努力する。力を入れすぎないように、頑張りすぎないように。手を抜くって苦手だけど、追い詰められないようにしたい。そうじゃないと溜め込みすぎて、こうやってパンクしてしまいそうだから」
「うん。俺も香澄の状態を確認して、キャパオーバーにならないかチェックして、きちんと休ませる」
「ふふ……っ。何か、管理されてるみたい」
笑うと、佑は愛しげに頬に触れ、キスをしてきた。
「俺の大切なうさぎだから」
香澄を見つめてポンポンと頭を叩いたあと、彼は「よし!」と頷いた。
「腹減っただろ。何か作るから待っててくれ。一緒に食べよう」
佑は抱いていた香澄をソファに座らせ、キッチンに向かう。
そして冷蔵庫を開け、何が作れるかぶつぶつ言っている。
「さっき香澄に肉を食えって言われたから、ちょうどステーキ肉もあるし、肉食おう。香澄も肉好きだろう?」
「うん! お肉好き」
元気に返事をすると、彼は嬉しそうに笑った。
佑は真空パックにされた高級なステーキ肉を二枚出し、米をといで炊飯器にセットすると、付け合わせにする物を作っていく。
時刻は十六時前で、そろそろ窓の外も暗くなりかけている。
抱き潰されて腰が立っていなかったが、もう動けそうなのでゆっくり立ち上がる。
裸足のまま歩いても、床暖房が効いていて温かい。
佑は小鍋にお湯を沸かし、ブロッコリーの房を分けて切ると塩を入れて茹でる。
それからじゃがいもの皮を剥き始め、口を開いた。
「ゆっくりやっていこう。急いで目指すものに突進していかなくていい」
「……そうだね」
香澄はキッチンのスツールに腰掛け、佑の手元を見守る。
「俺だってまだまだ未熟で、目指す姿の四十パーセントにも届いていない」
「佑さんが!?」
予想外の言葉に、香澄は思わず声を上げた。
佑は誰が見ても特別な人だ。
そんな彼が自分の事を好きだと言ってくれる。
加えて結婚したいと思っているなど、いまだに冗談ではないだろうか? と思う事がある。
和也が「現実を見ろ」と言ってきたのも、ある意味頷ける。
何度も「そんな事、言われなくたって分かってる!」と言い返したかった。
香澄は容姿も生まれも学歴も、何一つ〝特別〟を持たない。
そんな自分が佑の隣で「婚約者です」としれっと言うには、心臓に毛を生やさなければならない。
(でも求められる限り、顔を上げていたい。何も持っていなくても、佑さんに愛されている事実だけが私の背中を押してくれる)
香澄の想いを肯定するように、佑は微笑んで頭を撫でてきた。
「俺は香澄の人生を変えたと自覚している。俺が何かしたならともかく、香澄がつまらない理由で離れるのは許さない。それは諦めて」
(あ……)
胸の奥で納得する。
(ルカさんも『諦めて』って言ってたな)
佑はルカと面識がなかったようだが、似た人は同じ事を考えるのかもしれない。
「俺の大切な存在だと自覚してほしい。今回は言う通りにしないと壊れてしまいそうだったから、泣く泣く承諾した。今後も〝息抜き〟は香澄のためにもきちんととってほしい。でも、まったく連絡なし、護衛なしは今回で終わりだ」
微笑まれ、香澄は心地いい諦めを感じた。
不意に、自分が佑の愛情という名のリボンに、ぐるぐる巻きにされている幻想を味わった。
手も足も、体も、指の一本に至るまで、佑の想いが籠もった赤いリボンに絡められている。
リボンはぴったりと巻き付き、時に苦しさを覚えるほどだ。
けれど本当につらくなる時は緩んでくれ、それでも決して解かれる事はない。
そんなリボンに、香澄はずっと囚われている。
今後、結婚して彼の想いの強さは変わっていくかもしれない。
だが自分を心配し、慈しむ想いは決して薄れないと思った。
胸の奥に、ゆっくりと覚悟が固まっていく。
「ルカさんが言っていたけど、離れて頭を冷やしても、二人が別々の場所で悩み続けるだけなんだよね。冷却期間は大切だけど、前に進むためには二人できちんと話し合わないと」
香澄は彼の頬を撫で、目を見つめて、ちゅ、と軽く唇にキスをした。
「まだまだ色んな事に慣れてない。でも努力する。力を入れすぎないように、頑張りすぎないように。手を抜くって苦手だけど、追い詰められないようにしたい。そうじゃないと溜め込みすぎて、こうやってパンクしてしまいそうだから」
「うん。俺も香澄の状態を確認して、キャパオーバーにならないかチェックして、きちんと休ませる」
「ふふ……っ。何か、管理されてるみたい」
笑うと、佑は愛しげに頬に触れ、キスをしてきた。
「俺の大切なうさぎだから」
香澄を見つめてポンポンと頭を叩いたあと、彼は「よし!」と頷いた。
「腹減っただろ。何か作るから待っててくれ。一緒に食べよう」
佑は抱いていた香澄をソファに座らせ、キッチンに向かう。
そして冷蔵庫を開け、何が作れるかぶつぶつ言っている。
「さっき香澄に肉を食えって言われたから、ちょうどステーキ肉もあるし、肉食おう。香澄も肉好きだろう?」
「うん! お肉好き」
元気に返事をすると、彼は嬉しそうに笑った。
佑は真空パックにされた高級なステーキ肉を二枚出し、米をといで炊飯器にセットすると、付け合わせにする物を作っていく。
時刻は十六時前で、そろそろ窓の外も暗くなりかけている。
抱き潰されて腰が立っていなかったが、もう動けそうなのでゆっくり立ち上がる。
裸足のまま歩いても、床暖房が効いていて温かい。
佑は小鍋にお湯を沸かし、ブロッコリーの房を分けて切ると塩を入れて茹でる。
それからじゃがいもの皮を剥き始め、口を開いた。
「ゆっくりやっていこう。急いで目指すものに突進していかなくていい」
「……そうだね」
香澄はキッチンのスツールに腰掛け、佑の手元を見守る。
「俺だってまだまだ未熟で、目指す姿の四十パーセントにも届いていない」
「佑さんが!?」
予想外の言葉に、香澄は思わず声を上げた。
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