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第十部・ニセコ 編
目覚め
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「私はこれからすぐ、香澄を連れてスペインに向かいます。その前に顧問弁護士に連絡をしておきますので、椎野さんと安野さんはそのつもりでいてください」
「べっ、弁護士なんて……っ! 大げさでしょう! ちょっとぶつかっただけですよ!?」
言い返す真奈美を、佑は冷たく睨む。
同時に内心「語るに落ちたな」と冷笑していた。
「加害者はいつもそうだ。『気に入らなかっただけ』『そんなつもりはなかった』……。だが安野さんが香澄の顔に青あざを作らせたのは事実でしょう。私は婚約者として、あなたを絶対に許す訳にいかない。……俺の女に手を出しておいて、ただで済むと思うな」
低く告げてから、次に和也に視線を移す。
そしてきっぱりと言い放った。
「夢を見るな。お前のような小物に香澄は手に負えない。あれは俺だけが扱える最高の女だ」
その場にいた者全員が、和也の喉元に鋭利な刃物を突きつけられている幻想を見た。
ほんの僅かでも身じろぎをすれば、鋭利な刃が喉を切り裂く。
佑の怒りはそれほどまでに、鬼気迫ったものだった。
二人とも顔面から血の気を引かせ、秋成と聡子までもが、御劔佑という男の冷酷さを思い知って黙り込む。
二人のした事は許されない。
片や準強姦罪になったかもしれないし、片や傷害罪だ。
秋成は真摯に謝罪する。
「……すべて、私の監督が至らなかったせいです」
「秋成さんにも責任があるかもしれません。ですが成人したにも関わらず、善悪の判断がついていないこの二人こそ、自分のモラルの欠如を自覚すべきです」
佑は秋成が必要以上に責任を感じないよう、穏やかに言う。
「経営者として進言しますが、非常識な者を雇えば損失に繋がります。腐った部位は切除するに限りますよ」
告げてから、佑はぬるくなったお茶を飲み干し立ちあがった。
「この事を崇さんと栄子さんに言うつもりはありません。お二人とは今後親戚になる身として、仲良くやっていきたいと思っています。私が望むのは、彼ら二人の処分。そのあとは遺恨なくやっていきましょう」
佑の言葉を聞き、秋成と聡子は深く頭を下げた。
佑は数歩進み、畳の上に正座している和也と真奈美を見下ろす。
「お前たちには追って弁護士から連絡がある。逃げても実家に連絡がいく。親にきっちり叱られ、自分の行動を一生悔いて反省しろ」
「そんな……っ」
真奈美が泣いて悲鳴を上げたが、佑はもう振り返らない。
「恨むなら愚かな自分を恨め」
言い捨てて、佑はスズランの部屋を出て、ペンションをあとにした。
**
光を感じた香澄は、ゆっくりと瞬きをして目を開く。
知らない天井が目に入った。
レッドパインの部屋と似た天井だが、木の色味が違うし照明の形も異なっている。
(どこだろ……)
頭はぼんやりしていて、体は非常にけだるい。
起き上がって周りを見ようとして初めて、体が泥のように重たく言う事をきかないのに気付いた。
指を動かすのも、腕をもたげるのも億劫でならない。
「んー……んんんんん……」
それでも渾身の力で寝返りをうち、明るいほう――窓に向かって寝返りを打った。
明るい。
昼間の明るさだ。
羊蹄山の勇壮な姿が見えるが、その色味は朝日を浴びている感じではない。
「ど……したんだっけ」
(わ! すごい声!)
声がガラガラで、自分でびっくりした。
だが体が重いのと軋みを感じる以外、さほど不快感はない。
ごろん、と力なく仰向けになると、脳裏に佑が覆い被さってくるシーンが浮かんだ。
(そうだ……。私……)
徐々に激しすぎる交わりを思い出し、ジワジワと頬が赤くなってゆく。
(佑さんを悲しませた。怒らせた。……謝らないと)
そのあと、時間をかけて大きなベッドの端まで移動し、ようやく裸足を床につけて――へたっと崩れ落ちた。
「べっ、弁護士なんて……っ! 大げさでしょう! ちょっとぶつかっただけですよ!?」
言い返す真奈美を、佑は冷たく睨む。
同時に内心「語るに落ちたな」と冷笑していた。
「加害者はいつもそうだ。『気に入らなかっただけ』『そんなつもりはなかった』……。だが安野さんが香澄の顔に青あざを作らせたのは事実でしょう。私は婚約者として、あなたを絶対に許す訳にいかない。……俺の女に手を出しておいて、ただで済むと思うな」
低く告げてから、次に和也に視線を移す。
そしてきっぱりと言い放った。
「夢を見るな。お前のような小物に香澄は手に負えない。あれは俺だけが扱える最高の女だ」
その場にいた者全員が、和也の喉元に鋭利な刃物を突きつけられている幻想を見た。
ほんの僅かでも身じろぎをすれば、鋭利な刃が喉を切り裂く。
佑の怒りはそれほどまでに、鬼気迫ったものだった。
二人とも顔面から血の気を引かせ、秋成と聡子までもが、御劔佑という男の冷酷さを思い知って黙り込む。
二人のした事は許されない。
片や準強姦罪になったかもしれないし、片や傷害罪だ。
秋成は真摯に謝罪する。
「……すべて、私の監督が至らなかったせいです」
「秋成さんにも責任があるかもしれません。ですが成人したにも関わらず、善悪の判断がついていないこの二人こそ、自分のモラルの欠如を自覚すべきです」
佑は秋成が必要以上に責任を感じないよう、穏やかに言う。
「経営者として進言しますが、非常識な者を雇えば損失に繋がります。腐った部位は切除するに限りますよ」
告げてから、佑はぬるくなったお茶を飲み干し立ちあがった。
「この事を崇さんと栄子さんに言うつもりはありません。お二人とは今後親戚になる身として、仲良くやっていきたいと思っています。私が望むのは、彼ら二人の処分。そのあとは遺恨なくやっていきましょう」
佑の言葉を聞き、秋成と聡子は深く頭を下げた。
佑は数歩進み、畳の上に正座している和也と真奈美を見下ろす。
「お前たちには追って弁護士から連絡がある。逃げても実家に連絡がいく。親にきっちり叱られ、自分の行動を一生悔いて反省しろ」
「そんな……っ」
真奈美が泣いて悲鳴を上げたが、佑はもう振り返らない。
「恨むなら愚かな自分を恨め」
言い捨てて、佑はスズランの部屋を出て、ペンションをあとにした。
**
光を感じた香澄は、ゆっくりと瞬きをして目を開く。
知らない天井が目に入った。
レッドパインの部屋と似た天井だが、木の色味が違うし照明の形も異なっている。
(どこだろ……)
頭はぼんやりしていて、体は非常にけだるい。
起き上がって周りを見ようとして初めて、体が泥のように重たく言う事をきかないのに気付いた。
指を動かすのも、腕をもたげるのも億劫でならない。
「んー……んんんんん……」
それでも渾身の力で寝返りをうち、明るいほう――窓に向かって寝返りを打った。
明るい。
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羊蹄山の勇壮な姿が見えるが、その色味は朝日を浴びている感じではない。
「ど……したんだっけ」
(わ! すごい声!)
声がガラガラで、自分でびっくりした。
だが体が重いのと軋みを感じる以外、さほど不快感はない。
ごろん、と力なく仰向けになると、脳裏に佑が覆い被さってくるシーンが浮かんだ。
(そうだ……。私……)
徐々に激しすぎる交わりを思い出し、ジワジワと頬が赤くなってゆく。
(佑さんを悲しませた。怒らせた。……謝らないと)
そのあと、時間をかけて大きなベッドの端まで移動し、ようやく裸足を床につけて――へたっと崩れ落ちた。
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